軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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標的とはいっても、エレイルを偽の恋人役に勧誘するつもりはない。いくら王女権力を行使するにしたって、誰でも良いってわけじゃないもんね。私から見て、いろんな条件を満たした上での、ガイだったのである……。

座るよう促すと、エレイルは長椅子に腰掛けた。座り方でも、個性が出る。こうして見ていると、エレイルはやっぱり子爵家……貴族出身なんだなってことが感じられる。礼儀作法の躾が嫌でも身体に染みつくんだよね。まあそれも、兵士なら経験を積んだり、上級兵士や騎士へ昇進したりすると、そっちのほうに塗り替えられていくみたいだけど。

――勧誘失敗のダメージが残っているのを、『黒扇』を開いて振り払う。

「あなたの兄君から、何か預かってはいないかしら?」

エレイルに確認したいのは、ただ一つ! ルストの動向! 「またお会いしましょう」って伝言があったってことは、それ以上があってもおかしくない。

あと、ルストの存在と準舞踏会でローザ様を手伝ってたってことは、既に報告された事項。堂々と話せる! 訊かれてもうまく誤魔化せる自信アリ!

「…………!」

ビンゴ! エレイルが大きく反応した。

「兄う……兄が広場にいたのは、オクタヴィア殿下の……?」

ルスト、広場にいたの?

あの顔だったら、気づく――や、遠かったり、顔を隠されていたらわからないか。原作だと、あの顔で隠密行動が得意なキャラだし。

ところで、エレイルに壮大な勘違いをされている気がする……。でも、否定したら情報を引き出せないよね……?

私の中でガイへの勧誘失敗のトラウマが甦った。

「――視察にもおそらく関わってくることよ」

私はしたり顔で言ってのけた。『黒扇』でカモフラージュしたのはご愛敬!

「兄から、これを預かっております」

エレイルが、仮の制服の懐から、折り畳まれた紙を取り出した。エレイルの手のひらに置かれたそれを、右手は『黒扇』を持っていたっていうのもあるけど、一応手袋越しに受け取る。折り紙風? 特殊な折り方で、開封されたら一度開けられたってことがわかるやつ。

で、開けられた形跡はない。

「預かったのはいつ?」

「さきほどです。薔薇の花を誰が拾ったかで少々もめたとき、オクタヴィア殿下の前に彼らを連れて来る直前に」

ただ広場にいたどころか、渦中の近くにルストも……?

「確かにルストだったのね?」

「はい」

弟であるエレイルが兄を見間違えるはずはない、か。それにあの顔だし。

よし、開封してみよう!

パシンッと閉じた『黒扇』を脇に置き、折り紙風手紙を両手で持つ。

私の想像では、手際よく開けるはずだった。でも、えっと、結構難しいな……。左手を怪我してるのと、かつ手袋をつけているので中々……。はっと思い出した。そういえば私、包装紙とかバリバリ破く派だった……! 「綺麗に開けなさい」ってお母さんによく言われてた! で、お姉ちゃんは綺麗に開ける派で、自然、私の出番は少なく……。こういうのだったら、絶対ハサミでガバッと切って開封する。

生まれ変わっても、変わらないものってあるよね……。

不得意なことは、潔く諦める。

「エレイル。――開けなさい」

で、他の人にやってもらうのが吉。丸投げとも言います!

「わたしが、ですか? ……宜しいのですか?」

私は重々しく頷いた。そして、丸投げは正解だったとすぐに判明した。エレイルはするすると折り紙風手紙を解体してゆく。数秒ほどで、折り目のついた、一枚の小さな紙になった。もしかして、慣れてる? 兄弟で手紙のやり取りをしてるからとか。

ちなみに、ルストの弟なんだし、手紙を託されたんだから別に見ても文句は言わないのに、あえて文面が目に入らないようにしてエレイルは手紙を開けた。

「……どうぞ」

「ありがとう」

差し出した手袋の生地の上に、ルストからの手紙が載せられる。

内容は――。

『ナイトフェロー次期公爵に協力しています。オクタヴィア殿下におかれましては、何が起ころうとも次期公爵をお疑いなきよう』

落ち着いたところでゆっくり書いたって風じゃあなくて、さっと筆を走らせたって感じの文字。そして、準舞踏会でヒューイから受け取ったルストからの手紙に書かれていた筆跡と同じだった。

ルストがデレクに協力? 思い浮かんだのは、広場でデレクたちが合流した、フードを被った人物。あれが、ルストだった? 原作だとルストはフード男だし。

おじ様が、一時ルストを引き取ったはず。まだルストの身柄がナイトフェロー公爵家にあるとすれば、デレクと行動を共にするのは考えられる。ルストは準舞踏会で襲撃した曲者たちに入り込んでいた間者だし――今日の視察の襲撃計画のことも知っていたって変じゃない。

それで、デレクに協力……。

あれ、でも。

なんでデレクはもっと大々的に前に出て来ないんだろう。曲者を捕まえようとしているなら、ナイトフェロー公爵家の人間として視察に加わることだって。

ていうか、これって兄も把握済なの?

兄と連携してない、なんてことは……。

うーん……。これまでだったら、兄とデレクが連携しないなんてあり得ないって結論を出せていた。いまはちょっと違う。シル様へのスタンスの違いや、兄の友達だからこそ、兄に黙って動くっていうの、ありそう。

――ともかく、すんごくデレクを怪しく思うことがあるかもしれないけど、疑わないほうが良いですよって忠告だよね? これ。

ルストからの。

このルストからっていうのが微妙。

何故なら、原作だと反王家で暗躍しているキャラクター。

反王家、か……。

原作ではルストは反王家――なら、その弟は?

「――エレイル」

「は」

「アレクのことは好きかしら?」

「は?」

エレイルの声が裏返った。私がエレイルを知るきっかけになったドジっ子兵士事件――エレイルが剣を抜こうとして私のところまですっ飛ばした――は、事故であれ故意であれ、大元はアレクへの好意! だと思われる。前者はアレクを気にしすぎて訓練中にぼーっとして、後者なら、私とアレクの仲の良さに嫉妬! して。

「す、好きなど滅相もない! 尊敬しております!」

あー……。これ、ファンだ。それもアレクの熱烈なファンだ。信者? 碧眼には確かに尊敬の感情が……。でも恋愛的なものもエッセンスとして少々含まれる……?

とにかく、アレクが大好きってことは伝わってきた。

原作のルスト同様、反王家なら、王族全員を敵視しているイメージなんだけど……アレクだけは好きっていうのはちょっと違和感がある。

反王家の活動をするために、ルストによって内部に送り込まれて……ってわけじゃないのか。

もう少し突っ込んでみることにした。

「何故尊敬しているの?」

エレイルは躊躇しているけど、王女スマイルで気づかないフリ。やがて、エレイルが口を開いた。

「腐っていた時期に……アレクシス殿下にお会いしたことで救われました。それに……」

「それに?」

「――大変失礼なことを申し上げますが、オクタヴィア殿下は、アレクシス殿下をどう思われているのでしょうか」

大変失礼っていうぐらいだから、とんでもないのを予想したのに、何その超簡単な質問。

愚問過ぎて即答できちゃうけど?

「大好きよ。大切な弟だわ」

アレク愛なら私、軽く一時間以上語れるから! ん? その意味では私もアレク信者? でもエレイルにも負けないし!

エレイルが肩透かしをくらったような、拍子抜けしたような――複雑な表情を浮かべた。身を乗り出す。

「では――一部で囁かれている噂は」

「そこまで」

厳しい言葉が響いた。

いつの間にか、数歩分ぐらい、部屋に入ってきていたヒューだった。

「オクタヴィア殿下が許されているとはいえ、わきまえろ。エレイル・バーン」

私に視線を合わせたヒューが頭を垂れた。

「入室の許可も得ず、申し訳ありません。しかし、部下の殿下への無礼を看過できませんでした」

噂の内容をぜひとも聞いておきたかったけど……まあ、良くない内容ってことかな。

ヒューが手順をすっとばして遮っちゃうような。廊下のガイも「うんうん」と頷いてるし。

――休憩も、この辺でお開きにしましょうか。

「いいえ。あなたが正しいわ。本当は、わたくしがエレイルに注意すべきだったわね。――エレイル。わたくしからの話は以上よ。任務に励みなさい。……これは、わたくしが処分するわ」

これ。いわずとしれた開封済の折り紙風手紙。

「は!」

敬礼し、エレイルが退出する。ではさっさと証拠隠滅、と。さっきみたいに暖炉へ手紙を放ろうとする――も、手を掴まれた。

「ヒュー?」

そう。犯人はヒュー。困ったような顔をしていても騙されない。

「何のつもり?」

「バーンが渡したものを、私にも確認させていただけませんか? 本来はバーンが先に私に報告すべき事物です」

なるほど。部下が怪しい紙を勝手に渡したのは見過ごせないって?

「本来なら、そうね。けれど、わたくしがエレイルに命令していたのよ。直接わたくしに渡すように、と」

嘘だけど! ここはエレイルを庇うほうが自然。

「視察に関わる内容なのではありませんか?」

ふう、と私は息を吐いた。

「――あなたがわたくしの護衛の騎士であるというのなら、手を離しなさい」

「――は」

拘束とも言えないものだったけど、拘束がとけた。自由になった手で、暖炉に手紙を放る。よっしゃ! 今度こそ、証拠隠滅完了!

ただし。

「手紙に書かれていたのは、デレク様は味方だ、という内容よ」

大雑把な内容は共有。

ヒューの黒い瞳が、思案するように私を見る。

「……殿下も、そのようにお考えですか?」

予想外。こんな質問をヒューがしてくるなんて。

でも、それはともかくとして、私は頷いた。

「ええ。そう考えているわ」

やっぱりルストからってのが引っかかるけど、準舞踏会での体験を経て、私の中でデレクの位置づけが変わっている。おじ様の息子ってだけじゃなくて、信用して良い。

「安心いたしました」

……え?

ヒューが、微笑んだ。

またしても予想外。ヒューが、嬉しそうだったから。

私が、デレクを信じているのを心から喜んでいる、みたいな。屈託のない笑み。

「――お教えいただき、ありがとうございます」

その後は、完璧な動作でもってヒューが頭を下げた。

……調子狂うなあ。

「充分休めたわ。商品を見せてもらうことにしましょう」