軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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城下に到着して、まず、馬車から降りたのは兄。先に民衆へ挨拶している。兄から呼ばれたら私の番だ。……その前に。

パッと外を見る。

視察の始まりの場所は城下にある大きな広場。中央に噴水があって、物売りの移動式屋台で賑わう場所。普段から、市民の憩いの場として活用されている。

今日は屋台が隅のほうに移動していて、かわりに広場を埋め尽くしているのは人だかり。お目当ての屋台があるといいんだけど、と……。

あった! 次は……。

「ク、」

クリフォード、と馬車の外に向かって呼びかけようとして、我に返った。

クリフォード、じゃないってば!

無意識って怖い! つい、いつものっていうか、ここ数日の調子でクリフォードに頼もうとしてしまった……。あ、でも、ちょうど馬に乗っているクリフォードがこっちを振り返った、かも? ううん、さすがにそんなわけないか……。

ふう、と深呼吸。

次は――、ある程度の権力があって、現時点では私側の人間――外の一番近くにいたヒューを、手招きで馬車の扉近くに呼ぶ。

礼儀正しく、ヒューはやって来た。

「ご用でしょうか」

「――ええ。よく聞いて欲しいの。いいこと? カルラムの花飾りだけれど……」

この後始まるセレモニーに関して、指示を出す。

「……しかし」

「兄上の許可はいただいているわ」

難色を示したヒューの言葉と私のそれが被る。ヒューに迷いが生じたのは一瞬だった。私へ頭を垂れる。

「畏まりました」

ヒューが馬車から離れる。一応、見守る――あ、ガイとエレイルにも声をかけているみたい。「ええっ!?」とガイが大声をあげて、「バカか! 騒ぐな!」とエレイルに口を塞がれているのが見えた。ガイとエレイルって意外と仲が良い……?

しばらく待っていると、私の出番が来た。

「――オクタヴィア!」

兄に名前を呼ばれる。

わっと歓声で広場が沸いた。馬車に戻って来た兄が、入り口近くに立ち、手を差し出してくる。兄の手を取り、笑顔で私は馬車から降り立った。

並んで歩を進める中、拍手に出迎えられる。

向かうのは、市民による野外の出し物なんかが行われる石造りの舞台。私は見たことがないけど、お祭りのときは演劇や演奏も行われるらしい。広場が大劇場に早変わり。

今日は私たちの視察のために綺麗に舞台が飾り付けられている。

兄と共に舞台に立ち、群衆に微笑みかける。

本来なら、この中から一人、予め決められていた人物が舞台にあがって、花束を渡してくれる――今回はカルラムの花飾りを髪に挿してもらう――という流れだった。

誰になるのかはわからないけど、これまでだと王都民という条件をクリアしていて、身元や素性がしっかりしている人物が選ばれていた。

……安全対策としては正しい。

正しいけれども、正しいからこそ、ここは一つ!

私をエスコートし、王子スマイルを浮かべている兄に話しかける。

「……馬車の中での約束、お忘れにならないでくださいね」

質問を返される前に、私は兄から手を離し、数歩、前に出た。

「みなさま。ごきげんよう」

うー。緊張するなあ。こういう時は、『黒扇』で!

右手に持った『黒扇』を広げ、やや持ち上げる。ざわざわとする中で、一部の話し声が耳に届く。

「あれが、噂のレヴ鳥の羽根の……?」

「西街の主人が、特注で作ったって自慢して、先月から製品として売り出してたよな……」

「主人の話、本当だったのか? レヴ鳥なんて気でも触れたのかと……」

「王女様ー!」

発見! 最前列で父親らしき男の人に肩車された小さい女の子が、黒い羽根の扇を持って振ってくれている! 私の勘違いじゃないよね? レヴ鳥の扇かな! 女の子にわかるように、『黒扇』を振り返す。

こういうのがあるから視察って好き。

「本日は、わたくしオクタヴィアが敬愛する兄上と行うはじめての城下視察です。ですから、視察の始まりもみなさまが参加できるよう、趣向をこらしたものをご用意しています」

サザ神教との戦争があって、喪の期間ってことで今年は王都の花祭りが中止になっていたのを思い出したのもあって、決めた。

集まってくれた人にはお得気分で帰って欲しいし! どこかに曲者が潜んでいるとしても、大多数の人は無関係。

街を歩く人の数も必然的に増えるから、商売人にとっては稼ぎ時であり、視察当日の王都は実際お祭りに近い賑わいがある。

「準備ができるまで、しばらくお待ちください」

王女スマイル全開!

待つことしばし――ヒューに準備ができたらわかりやすい合図をって言っておいたから……お? ガイが手で大きく頭の上で丸を作っている。

準備OKだ。

「みなさま。お待たせしました。これから、広場に集まったみなさまに花を空からお配りします」

疑問に満ちたざわめきが大きくなる。

「その中に、一本だけ飾紐のついた赤色の花があります。手にした方は、わたくしの前までおいでくださいな。――どなたでも」

平たくいうとリボンだけど、エスフィア風にいうと飾紐。そして空からっていうのはあくまで誇張。広場を囲むようにして、四台の脚立が設置された。警備にあたっていた兵士が四人、花かごを抱えてのぼっている。

あとは私が……。

「花を!」

『黒扇』を持った右手を、ピンと真っ直ぐ伸ばして、号令をかける。直後、一斉に色とりどりの花々が宙を舞った。

どんな人が当たりの花を拾うんだろう……? 不安とドキドキが入り交じる気持ちってまさにこういうの?

――と。

「オクタヴィア」

背後から険しい声がした。

わかってますとも。兄しかいない!