軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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――もめた。もめましたね。

連続爆撃とはこのことですね。

『何故シルがアルダートンに会うんだ?』って。

兄とシル様のバトルが勃発した。

結論を言うと、シル様が勝った。

最後の最後で、兄が私に話を振ったので。

『オクタヴィア。お前はシルが同行しても構わないのか?』と聞かれ、私は『ええ』とあっさり答えた次第。

二人の反応も正反対だった。兄は触れれば凍る永久凍土みたいになったし、シル様はぱっと眩しいぐらいに顔を輝かせて、尻尾をぶんぶん振る犬の残像が見えたほど。

だって、これについては、阻止する理由が全然ない。

どうせ兄が立ち会うなら、一緒に行く人間が一人や二人増えても変わらないし、シル様がクリフォードに会いたがったのは、『空の間』での出来事のせいなんじゃないかなって考えたんだよね。

実際、兄にこう訴えていた。

『アルダートン様と戦っていたときのことを思い出せないか、会って確かめてみたいんだ』

――クリフォードは『従』。そしてシル様も、十中八九……。自覚があるかどうかで。

でも兄は、シル様がクリフォードに興味を持っているのか? な方向性で考えている可能性がなきにしもあらず……?

私も、BL的には萌え……。

心の中で首を傾げる。

兄を挟んで私の左横を歩くシル様の顔を見る。私たちは、クリフォードが捕らえられている場所へ向かっているところ。鍛錬場にある地下牢。表向きは謹慎処分のはずだって兄に文句を言ったけど、「嫌疑のかかった他の護衛の騎士にも同様の措置を取っている。やり過ぎだとの声も多かったが、全員に厳格な対応をした結果だ。地下牢の中では一番マシな牢に入れてある」と返されたので消化不良。

私と兄、シル様、ヒュー。そして急遽加わったネイサンで全員。一番先頭がヒューで、私、兄、シル様が横に並んで歩いて、最後列がネイサンという配置で行列になっている。

小さな松明で照らされた薄暗い地下牢の空間へ視線を戻す。先導するヒューの背中が見える。

原作通り、ヒューがシル様を好きだったとして――。

胸に手を当ててみる。

うーん……。特に……。

逆に、シル様がヒューに恋愛的な意味で仮に万が一ぐらついたとして……。

うーん……。ぐらついて欲しくないって意味では嫌だけど、シル様が本当にヒューを好きになったんだとしたら、応援したい。BL的には萌える。

でも……その相手がクリフォードだったら?

――嫌だな。

ばさっと黒扇を開く。

兄がちらっとこちらを見たけど、私も動揺していて余裕がない。

嫌だなって、何?

三次元だから? クリフォードだと、BL的に萌えない。

……腐女子魂が死んだ?

いやいや、そんなはず……。

単にクリフォードだとBL展開になったら嫌だなって、だけ……。だけ?

――この世界では、当たり前なのに。

クリフォードから、全然そんな感じがしないから?

それとも、『主』になると、もしかして『従』に対して独占欲がわくとか、あるのかも?

――危ない危ない。気を引き締めないと。

「もうすぐ着く」

鍛錬場にある地下牢は、兄の自室を出る前、『王女が出向くには不釣り合いな場所だ。それでも行くのか?』って念押しされた通り――これでもマシというのが信じられないぐらい、私が生活している王城のテリトリーとは様相が異なっていた。

たまに、ピチャン、ピチャン、とどこからか水が落ちる音がする。

この地下牢は、容疑者を置いておくための一時的な場所。かけられた容疑の度合いで入れられる牢も違うらしい。一応、クリフォードたちは拷問等がない――閉じ込めておくことが目的の牢のほうに入っているとか。説明したのはヒューだったけど、サラリと拷問とか言わないで欲しい。

思いついて、準舞踏会の曲者たちも収監されているのかと訊いてみたら、それは否定された。別にある監獄塔のほうに送ったとのこと。

もしリーダー格の『従』と、エミリオと呼ばれていた『従』の二人が地下牢にいれば、彼らと安全に対面できるチャンスだったんだけど……。

そのかわり――。

人――兄の護衛の騎士たちが入っている牢の前を通り過ぎるときは、密かに様子を確認。彼らの中にシル様の馬車に細工をした犯人がいるなら、シル様が来たってことに何か反応を示してもおかしくない。

ところが、アリバイが証明できず牢に入っている兄の護衛の騎士たちは、一様に、みんな礼儀正しかった。怪しい反応とかもない。必ず敬礼していたし。

反応らしい反応といえば、私に対して?

言葉にするとこんな感じ?

「セリウス殿下とシル様は良いとして、何故オクタヴィア殿下がいらっしゃるのだ?」みたいな。

収穫なしで、兄の護衛の騎士たちが入れられていたすべての牢を通り過ぎた。

空の牢が続き――突き当たり。

クリフォードは、奥の牢に入れられていた。

鉄格子に近寄ろうとしたけど、すかさず腕を上げたヒューに制される。

通せんぼだ。

「ヒュー。腕を下げなさい」

「……しかし」

逡巡しているヒューではなく、私は無言で兄を睨んだ。兄が仕方ない、という風にヒューに頷く。……通せんぼがなくなった!

「オクタヴィア、それはヒューに預けるんだ」

が、歩き出そうとした途端、兄から待ったがかかった。

『それ』って――兄が見ているのは――私が持ってる黒扇? 試しに問いかける意味で少しだけ持ち上げて見せると、頷かれた。

面会は許す。ただし、着の身着のままでってこと? 黒扇は私の所持品扱い。黒扇を使って、クリフォードにこっそり何かを渡したりしないように、とか? いや、やろうと思えばできなくはないけど……疑い深すぎ!

「わかりました」

でも、こういうときこそ素直が一番。私に後ろ暗いところなどない!

言われた通り、ヒューに黒扇を手渡す。大抵の人にとっては呪いグッズなのかもしれないこの扇を、ヒューは特に顔色を変えることなく恭しく受け取った。

鉄格子に今度こそ近寄ると、牢の中にあったシルエットが動いた。クリフォードの姿がはっきりと見える。鉄格子を挟んで、私の目の前に来たクリフォードがその場で膝を折った。

「……立って、クリフォード」

膝を折ったままのクリフォードが私を見上げた。一瞬、エドガー様に挿してもらったリーシュランの花にその目線が止まる。そして、立ち上がった。

いつも通り、私が見上げる側になる。よし、すかさずクリフォードの様子をチェック。鍛錬場で見たときは護衛の騎士の制服だったけど、ラフな服装になっている。黒いシャツとズボン。ここに来るまでに見掛けた、収監された兄の護衛の騎士たちが着ていた服と同じだ。

でも、窮屈だったのかな? シャツは胸元のボタンが一つだけ外れている。……あ、首の傷痕も、見える。

「お見苦しい姿を」

呟いたクリフォードが、きっちりとシャツのボタンを留めた。軽く頭を下げ、上げる。それだけで、野生の獣めいた雰囲気が強かったのが、いつもの護衛の騎士のクリフォードのそれに近くなる。

……ちょっとだけ残念。まず前提として見苦しくない。だらしない感じとかではないんだもん。顔と体格のなせるわざ? 騎士然としていないクリフォードも素っぽい感じがしてもう少し見ていたかったような……。

素、かあ。

こっちが感心するぐらい、クリフォードって護衛の騎士として花丸なんだけど、本来、クリフォードって、人に仕えるタイプじゃあないんじゃないかなってつくづく思う。

それでいて、無理をしている風に見えないのも不思議。

まあ……ちょうど、原作ではヒューもこの牢屋に入れられていたときがあって、ヒューの場合は無実でもメンタル的に堪えていた描写があったんだよね。クリフォードのことも心配だったんだけど、私の勘違いなんかじゃなくて、堪えていないっぽい。元気そう!

いや、クリフォードって、別にやろうと思えば簡単に脱獄できそうな気もするからそのせいかもしれないんだけど……。ていうか、クリフォードに物理的に危害を加えられる人っているの?

とはいえ、本人への確認も重要。

「――ひどいことはされていないわね?」

拷問とか、拷問とか、拷問とかね。

「は。問題ありません」

クリフォードが涼しい顔で頷く。平気そうすぎて、逆に一抹の不安がよぎった。拷問されたのに、クリフォード基準では別に拷問に感じていないっていうオチじゃ、ないよね……?

「危害は加えていない」

兄の言に、私はネイサンに視線を向けることで答えた。それを受けて、兄が付け足した。

「……ネイサンが先走った事例はあったが。拷問を行うのは、その者が犯人だという証拠がある場合に限られている」

「わかりました。その言葉を信じます」

「…………」

黙ってしまった兄から、クリフォードに向き直る。

「今日は、重要な話があって来たのよ」

明後日の視察のために、本題を切り出す。王族を狙う新たな襲撃計画があり、私と兄が囮になること。クリフォードには兄の護衛の騎士として同行してもらうこと。それは、クリフォードの疑惑を晴らすためだということ。

「どうかしら?」

と言いつつ、今回、クリフォードに拒否権はないんだよなあ。……言い直そう。

「いいえ。どうかしら、と尋ねるのは変ね。これはわたくしからの命令よ」

「――それが殿下のご命令であれば」

頭を垂れたクリフォードだけど、私は見逃さなかった。命令だから従うけど、不本意! というのが滲み出ているのを!

「クリフォード。言いたいことがあるなら、言いなさい」

濃い青い瞳が、私を直視する。

「ご命令には従いますが、私はオクタヴィア殿下の護衛の騎士です。有事の際、セリウス殿下を優先することはありません」

というと……?

「俺の護衛の騎士という役割は演じるが、俺を護衛する気はないということだろう。俺とオクタヴィア、双方が危機に陥ったとき、その男はお前を守ることを選択する」

怒っている、風には見えないものの、兄がクリフォードに言い捨てる。

「――構わん。俺はそれでいい」

続いて、私に話を振った。

「話は済んだな?」

確かにクリフォードに直接用件を伝える、のミッションは終了したけど――。

「いえ。シル様も、クリフォードに会いたがっていましたわ、兄上」

わざわざ同行してきたのに、シル様は一言も言葉を発さず隅のほうに立ち尽くしている。

「さあ、シル様」