軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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嫉妬は美味しい。独占欲ゆえの嫉妬描写は、良いものである……。

『高潔の王』でもね、セリウスがシル様と仲の良い人や動物にまで対抗心を見せるシーンがあって、正直大好物だった。いや、『高潔の王』に限らず、ニヤニヤ――ニヤニヤしてる顔は誰にも見せられないけど――できる!

が!

自分が実際その嫉妬を受ける身になってみてわかる。

創作物においては大好物な、この嫉妬なるもの。

現実だとかなり厄介!

「お前たちがそれほど親しいとは思わなかった」

言葉と一緒に、兄からの視線――嫉妬光線がビリビリと私に突き刺さる。

こういうときは、浮気相手?の私が何か言うとやぶ蛇?

広げた黒扇で平静を装いながら、対応方法を検討……たった一、二秒の間に、光線が強くなっている気がするんですけど!

「親しいわけではありませんわ」

検討している余裕なんてなかった。

私は否定に、保身に走った。

すると、抱擁未遂の結果、私の真向かいに立っていたシル様が眉を下げて、悲しそうな表情になった。シュンとして耳と尻尾を下げた犬の幻影が見える……!

ああああ、ごめんね、ごめんねシル様!

「……ですが」

フォ、フォローしておこう!

「わたくしもシル様も曲者に狙われ、準舞踏会では共に危険を乗り越えたのです。互いに無事な姿を見て嬉しく思うのは当然ですわ」

それがちょーっと行動のほうに抱擁未遂として漏れてもおかしくない、おかしくない。

「ねえ、シル様?」

瞬きしたシル様が、すぐに笑顔を浮かべた。

「はい!」

元気よく返事をしてくれる。私も笑顔で応える。

なんかいい雰囲気?

「――シル」

と、兄がシル様を呼んだ。嫉妬光線は飛んで来ていないけど、表情は硬い。

「後で二人で話したい」

「準舞踏会でのことについてなら、オクタヴィア様もいらっしゃる、いまのほうが……」

「違う。個人的なことだ」

「……わかった」

個人的なこと……恋人同士の会話かな?

こんな状況じゃなかったら、お邪魔虫は退散したいところ。

でも、まだ兄との交渉は終わっていないし……それにシル様と二人きり、は無理でも、あのとき――『空の間』でシル様が暴走していたときのことをそれとなく聞いてみたい。

あと、シル様がこっちについてくれれば、兄のことも丸め込めるんじゃないかっていう打算も少々。

なので目的を達成するまで居座る!

「兄上。せっかくですから、シル様にも紅茶を淹れてさしあげてはどうですか? もちろん、わたくしが淹れても構いませんけれど」

「……俺が淹れる」

立ち上がった兄が茶器の元まで行く。

私が淹れてみたい気持ちもあったのに、即却下された……!

仕方ない。

「シル様も座りましょう?」

部屋の主は兄だけど、立ったままのシル様を促す。これは別に兄に文句は言われなかった。シル様を立たせているわけにはいかないっていう意見は一致しているはずだもんね!

私が長椅子まで戻って座ると、シル様もそれに倣う。

ほどなくして、兄がシル様の分のティーカップを机に置いた。私の向かい側――シル様の隣に腰掛ける。全員、紅茶の種類が違うのかな? 私のはミルクティーで、兄はストレート、シル様のもストレートだけど、液体の色が明るめだ。茶葉の違い? そんでたぶんシル様の好みのやつだよね。

ブレンドとか使い分けをしていると予想!

昔を思うと、兄がまさにプロ並になっているのがまだ信じられない。

「オクタヴィア様?」

シル様……というより、シル様が飲んでいる紅茶をじっと見てから、私の分のミルクティーも一口飲んで、美味しい! としみじみしていたら、シル様から声を掛けられた。

「兄上の淹れてくれた紅茶が、本当に見違えるような味なので、驚いてしまって……」

「……それほど驚くようなことなのか?」

言い、兄が自分でも紅茶を飲んでいる。

すると、

「ああ!」

あれか! みたいな感じの声をシル様があげた。

「聞いたことがあります。デレクが……」

「デレク?」

何故デレクが出てくる?

そんな表情で兄が問いを投げた。

私も興味ある。追撃した。

「シル様?」

何か知っているなら教えて、の王女スマイル!

「――その、デレクは、高位貴族の世界についての、俺の師匠なんですけど……」

シル様は男爵家の三男。高位貴族ではない。貴族と一口にいってもピンからキリまで。

第一王子である兄と付き合うなら、一般貴族の知識ではついていけないこともある。それは高位貴族の常識が時には一般貴族に通じないってことでもあるんだけど、そこはパワーバランスってやつで、問題にならない。

とにかく、確かにデレクはシル様の先生としては最適。

「歓迎の意を示すために、高位貴族はあえて大切な客人には自分でお茶を淹れるという話になったとき、デレクの失敗談になりました」

ふむふむ。

これ、別に必須ってわけでもないのが難しいんだよね。王族にもあてはまる。座学にもお茶の淹れ方なんて入っていない。必須知識ではないけどあると良し。でも習得するとなると自分で調べるか別で教わるかしなきゃっていう……。

「子どもの頃に、セリウスに紅茶の淹れ方を聞かれて、……魔が差したとかで」

シル様が言いにくそうに続ける。

「嘘を教えたら、セリウスがそれを信じ込んで大変だったという話を……」

「!」

デレク! 犯人はお前かー!

魔が差したじゃないでしょ、故意、故意!

私をいじめていたときのデレクなら……あり得る!

喧嘩することはあっても、デレクの言うことなら基本的に兄は疑いもなく信じたはずだし……兄にクッソ不味いお茶の淹れ方を伝授し、もちろん兄がそれを完璧に踏襲して振る舞うことによって、私にも被害を与えるという間接的な攻撃……!

しかも、デレクは兄より一歳年上。たとえ身分は兄が上でも、小さい頃の一歳の差は大きい。そんなデレクフィルターがかかっていたせいで、クッソ不味い紅茶が何度も淹れられることになったのか……!

でもあれ、結局悪知恵を働かせた本人もかなりの確率で被弾してたからね?

子どもデレク、つめが甘い!

「あれは、デレクの教え方も悪い。でたらめのわりに作法がいやに本格的だった」

兄が仏頂面で呟く。だから、騙された、という主張らしい。……この辺は、兄の記憶もデレクと一致してるのか。

「だが、何故俺は……」

自問するかのように呟いて、兄がかぶりを振った。

「……セリウス? 様子が……」

「いや――少し、疲れているだけだ。いろいろと、起きすぎたからな。そして、まだ終わってはいない」

兄の強い口調に、さらに言葉を重ねようとしていたシル様が押し黙る。

「そうだろう? オクタヴィア」

「ええ。兄上」

その言葉が、本題再開の合図だった。

「じゃあ、おれも尋問を受けなきゃですね」

でも、シル様の決意と気合いのこもった一言でまた空気が変わった。

主に私と兄の。

言葉でいうなら、まさに「は?」ですよ、シル様!

兄の淹れた紅茶を飲み干して、すくっとシル様が立ち上がる。

「セリウス。おれの尋問はどこで? 一度目を覚ました後は、いままで眠っていたから免除されていたんだろうけど……」

この人、尋問を受ける気満々なんですけど!

「シル?」

「シル様?」

私と兄の声が完璧にはもった。

「何故シル様が尋問を受けるのですか?」

シル様、狙われた側ね! 被害者。

尋問って、取り調べすらひとっ飛びだよ! おかしいですよ!

「だって、おれ……」

シル様が困惑顔になった。

だって、おれ?

「『空の間』でオクタヴィア様に襲いかかったんですよね?」

「……覚えているのですか?」

自嘲気味に笑ったシル様が首を横に振った。

「……いいえ。見えた――覚えているのは、よくわからない何かで……」

自信なさげに言葉が紡がれ、一旦、途切れる。

「でも、気を失った後、おれが何をしたのか聞きました。オクタヴィア様に剣を向け、アルダートン様がそれを防いだと」

「あのときのシル様の様子は普通ではありませんでした。ですから、シル様の意志ではないでしょう? それともわたくしを殺したかったとでも?」

「そんなはずありません!」

シル様が声を荒げた。

「でしょう?」

「ですが、オクタヴィア様……王族に刃を向けた事実は……」

「未遂です。それにわたくしは無傷――」

「怪我をされています」

シル様のいやに冷静な突っ込み! その目線は、私の左手にある。

「それに、おれだけ例外というわけには。この状況だって既に充分に……」

「……シル様だけが例外というわけではありませんわ」

「?」

「たとえば、準舞踏会前、鍛錬場である兵士が誤って剣を放り投げ、わたくしに当たりかけた出来事がありました。クリフォードが剣を弾いたので、わたくしは無傷。シル様、わたくしはその兵士をどうしたと思いますか?」

もちろん、これはルストの弟、エレイルの起こした一件のこと。

「重い処罰を与えたのではないでしょうか」

「いいえ。事故だったことを考慮して、わたくしからはその兵士へ少しお願いごとをしただけ」

同じ未遂って意味では、ルストが仮面で攻撃してきたやつもある。あれも処罰はしてないんだよね。まあ、シル様の元へ案内するのが許す条件だったけど。

うん? 考えてみれば、どっちも不問に処すかわりに、条件をつけてたのか……。

シル様への尋問とか処罰を要求する気なんて、全然、これっぽっちもないけど……。

――このタイミングなら。

「兄上」

一旦、シル様とのやり取りを打ち切って、私は兄に水を向けた。

水色の瞳が注意深くこちらを見返す。

「まず一つ、兄上にお約束しましょう。わたくしは、シル様が『空の間』でわたくしに刃を向けた件については不問に処します。問題にはしません。被害者であるわたくしがこう言うのですから、誰にも異論も唱えさせません。そのかわり――」

「視察での、お前の提案を受け入れろと?」

ザッツライト!

「クリフォードを解放しろとまで言っているわけではないのです。それに比べれば兄上も受け入れやすいわたくしからの『お願い』なのでは?」

「待ってください。一体、何の話ですか? セリウスっ?」

疑問に満ちたシル様の声が室内に響く。

嘆息した兄が渋々と説明した。私の、クリフォードの無実を証明しよう大作戦を兄なりの言葉で、だけど。その前置きも。

――そして。

「視察での囮なら、おれが」

兄の話を聞き終えたシル様が、開口一番、言った。

「それは駄目だ」

「それはいけません」

声が被り、驚いて兄と顔を見合わせる。

発見。シル様に関しては、私と兄の意見は結構一致する。