軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ちょっと、父上?

表情に出そうになったのを、私は『黒扇』を開いて顔を隠すことでカバーした。

私が知りたかったこととはいえ、ヒューの起こした事件は、エスフィアの不祥事であり、真実はどうあれ、機密事項。

……兄がいるのは良いよ? 当事者の一人だし。クリフォードも、私と一緒に動いていて状況はだいたい把握しているからって意味では、問題ない。

ヤールシュ王子は……ヒューの処遇に関わっているなら? だからここに呼ばれていたのかも。

でも、ルストは?

てっきり、下がらせるとか、そういう措置をしてから本題に入るんだとばかり……。

「オクタヴィア。お前はロバーツの居場所を知りたいのではなかったのか?」

「確かにそうですが、この場で話しても構わないのですか?」

視線で、ルストのほうを示す。父上も無表情にルストを見た。

――はっきりと。以前、私の部屋で名前を出しただけで、あれほど感情を表した――生前のキルグレン公ルファスと酷似する顔を。

この執務室で、おじ様にキルグレン公について私が尋ねたときも、父上は反応してたのに。滲み出た感情を消すことで。

それが、なかった。

「――構わん。わたしが決め、許可したことだ」

続けて、執務机で手を組み、父上が事務的に語ったのは、ヒューがカンギナにいるということ。

ただし、罪人やエスフィア人としてではなく、バルジャンの庇護下にある人間として。

急遽のヒューの移送先は、そもそも国内じゃなかった。監獄塔や牢でもない。

また、カンギナではあるものの、厳密には、カンギナ国内でのバルジャンの息がかかっている場所。

お披露目の前、私が父上にヒューの居場所を尋ねたときは、移送に関する一連の動きは完了していなかった。でも、いまはすべてが完了済。

そして、新しい任務を受けて、ヒューが動いている、とも。

「わたしだけではどうにもならないことでな、ヤールシュに協力を仰いだ」

ヤールシュ王子からぼやきに似た抗議の声があがった。

「あれは果たして、協力を仰いだ、と表現して良いものか……」

「早く動く必要があった。伝令鳥を飛ばしたとしても、返事を待っている余裕はない。先に事を進めてさせてもらいはしたな」

「それを事後承諾って言うんですよ、陛下」

「問題なく何とかしたではないか?」

「ええ、まあ……はい。何とかなりましたがね」

話はわかったけど、疑問がある。私は二人の会話に口を挟んだ。

「何故――カンギナなのです?」

ヤールシュ王子を介したのは、直接カンギナにヒューを送れないから。エスフィアとカンギナは表面上は外交がある。とはいえ、準舞踏会での襲撃の一件もある。私への婚約の打診もあったけど、関係性が難しい国。

そんなカンギナへ、ヒューを行かせる意味って?

「……オクタヴィア、お前が欲したのはロバーツの居場所ではなかったか? わたしは約束を果たした」

これ以上は、別口の話になる、という意味だった。

でも、私は食い下がった。

「では、これも、兄上の意向だったのですか?」

兄(記憶あり)が私に残してくれた手紙の内容や、前に父上が「あのセリウス」って漏らしていたことからして、兄(記憶あり)が関係している可能性が高い。

私が一度やろうとしていた『敵を欺くにはまず味方から作戦』を兄(記憶あり)が実行したんだ。もとはといえば、自分の命令にヒューが従っていたわけで――兄(記憶あり)としては罰する理由がないもんね。ヒューが事件を起こしたのは、第一王子セリウスによる作戦に従ったものであるってするほうが筋が通ってる。

でも、それなら、普通に復職させても良さそう……。

いままで一言も言葉を発していない兄に目を向ける。

うーん。兄(記憶あり)ではないんだよね?

兄(記憶あり)のままだったら、ヒューを普通に復職させるのが可能でも、いまは兄になっている。記憶がない状態なのがデフォルトだと、兄(記憶あり)のようには、ヒューに対しても対応できないから、かな。

……兄も、心情的には、ヒューを助けたくても。

だけど、兄(記憶あり)がヒューをカンギナに行かせたのは何でだろう。やっぱり疑問はそこに行き着く。

まさか兄(記憶あり)が兄を信用できないから、単にヒューを遠くへってわけではないだろうし。腹心のヒューだからこそ、命令を与えて、あえてカンギナに?

とりあえず、居場所と、無事なのはわかったけど……。

「それは、本人から聞くのが良いだろう。――あの者が」

父上がルストを顎で示した。

「ここにいる理由もな」

…………。え。つまり、ルストが護衛の騎士の制服を着てるのも、兄(記憶あり)の仕業ってこと? 父上は許可しただけとかいうオチ?

兄は執務机のほぼ正面左、ルスト寄り、かつ父上と対するような位置に立っている。そして、私たちにも身体を向けているんだけど、兄は息を吐いてから、私を見た。

「もともと今回の件は、裁定に関して一部が私に任されていた。そこでヒューの移送は、私が父上に願い出た。同時に、一連の事件を調べる中で、引き入れるべき人材を選定していた」

ま、まさか……!

「中でも、ヒューの代わりに護衛の騎士として抜擢したのが、ルスト・バーンだ」

やっぱり……!

「私よりも、オクタヴィア、お前のほうが彼のことはよく知っているだろう」

「ですが……護衛の騎士としてふさわしいかどうかは」

ヒューが忠誠の人だとすれば、ルストって対極の存在だと思います!

ヒューの不在の穴を埋めるために誰かをスカウトっていうのは良いとしても、選んだ人物が地雷過ぎない?

……あ。じっと兄を見つめていてわかったかも。

兄は平静に話し続けているんだけど、冷たさも漂う感じになっている。その冷たさの由来が、かすかに、ほんっとーに微かに、そうは言ってはいるものの遺憾だ、という雰囲気を隠そうとして出ているもののような……?

だとすれば、兄(記憶あり)のしたことに兄も翻弄されている……? なのに、それを引っくり返したりはしていないってことだよね、この状況を考えると。

「素性に関しては、身元の調査は終わっている。バーン子爵家の人間であり、またナイトフェロー公爵家の推薦もあった」

「ナイトフェロー公爵家、というと、おじ……公爵の?」

どうしても、おじ様って言いそうになっちゃう。

つまり、おじ様がルストの後ろ盾になっているってことだ。準舞踏会の後、ルストの身柄はおじ様預かりになった。そしてデレクと一緒に視察の時に行動したり、曲者たちが収監されている監獄塔におじ様と赴いたりしてたんだよね。

おじ様はルストを評価してる?

「そうだ」

兄が頷く。

「――兄上は、ネイサンがクリフォードに向けた問いを覚えておられますか?」

「……何?」

「実力の話です。本来、護衛の騎士は試験を経て決定されるもの。いくら公爵の推薦があっても、実力がわからない者を登用できるのですか?」

私は忘れていない。

準舞踏会中、庭園で襲撃があったときも丸腰アピールをし、『空の間』へ向かう途中、剣を持たせても自分の戦闘能力に関しては言及しなかったルストのことを!

「どうかしら? ルスト」

いまになって、あの発言を翻すっていうの?

「オクタヴィア殿下がおっしゃっておられるのは、準舞踏会でのことでしょうか」

ルストが涼しい顔で応じた。

「ええ」

「――あの場では、自らを誇張して伝えるのは危険だと思ったのです。私は自分の能力を公に評価されたことがありませんでしたので。私自身の評価と客観的な評価が、必ずしも一致しているとは限りません。……であれば、過小評価するのが適当かと」

語ったルストが一礼する。貴族としてのものじゃなくて、ちゃんと護衛の騎士としてのもの。……使い分けてる。普段、色々な人に礼の動作を受けているから、その違いがわかった。

「通常の試験ではないが、バーンに対して、似たものは既に行っている」

補足するように口を開いたのは兄。

「既存の騎士との対戦試合を行い評価した。また護衛の騎士として登用するにあたり全員に課すのと同じ内容の試験を行った。合格点を取っている」

少し渋い顔付きの兄とは対照的に、ルストが微笑を浮かべる。なまじ、ルストに実力があったから、落とすに落とせなかったってやつ?

「納得できないようだな。オクタヴィア」

う。父上が図星をついてきた。

「お前が引っ掛かっているのは、バーンの実力の部分か?」

それだけじゃないんだけど、とりあえず肯定!

「はい。落ち着いた場所で、わたくしの目で見たわけではありませんので」

見たことはあるけど、精神的にだったり、状況的にだったり、何かと切羽詰まった場面だった。ただ……父上の質問もちょっと変なんだよね。別に私が納得していようがいまいが、関係なくない? 私の納得って必要?

そうか、と父上が重々しく頷いた。

「では、この場で証明してみせよ。バーン」