軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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私のオススメは特製イーバだけれども、同率でオススメしたいのが、シュー! すんごく簡略化されているけれども、要するに前世のシュークリームとほぼ同じ。ふわっとした生地と生地の間にバタークリームが詰まってる! これはエスフィアでは王侯貴族向けのお菓子。私も大っぴらに食べられて、大満足な逸品!

何を隠そう、アレクが帰って来ると信じて、脇門に行き始めた日から城の料理長に毎日作ってもらっていたのです! なので、このところ、私の食後のデザートはシューだった。

「……はい」

はにかむようにアレクが笑った。さっきとは違って、素直な「はい」だった。

シューを一つ手に取ると、口に運ぶ。すぐに一個目のシューはアレクの胃の中へ消えた。ただ、十四歳の少年なのに、シューを手で食べているのに! 気品が漂っているのは詐欺!

私も特製イーバを手に取った。ミルクティーとイーバ。甘さと甘さのハーモニーがこの二つの場合は絶妙なんだよね。

「そのイーバ……」

アレクが何かに気づいたように呟いた。

「王城の料理人が作るものではありませんね」

我が弟の観察眼は並ではなかった。でも、さすがに、どこの、まではわからなかったと見た!

「ナイトフェロー公爵家別邸の料理人が作った特製イーバよ」

「……ああ。姉上がいつも残さず食べていた……」

別邸訪問時には、たまにアレクもついてくることがあった。私のイーバの食べっぷりを見て、「姉上。どうぞ」ってアレクは自分の分をくれたんだよね……! 横取りはさすがにできなかったので――ただしアレクの優しい気持ちは受け取るってことで――半分こした思い出がある。

「密旨で城を留守にしていた間のアレクのことも聞かせて欲しいわ。もちろん、話せる範囲でよ?」

二個目のシューを食べ終わっていたアレクが少し考え込んだ。

「姉上に聞かせるような話は特に……」

「新しい出会いがあったとか」

「出会い……」

お、反応あり?

「道中で、偶然バルジャンの第三王子にお会いしました」

ミルクティーを飲んでいた私は、噴き出しそうになった。ごくりと飲み込む。セーフ……!

もしや、それって……。

「ヤールシュ王子、かしら?」

私に婚約の打診が来てる、あの?

「そうですが……」

「どんな方?」

アレクの眉間に皺が寄った。

「……苦手です」

一言。え? 不安になるんですけど! 釣書に書いてあった内容なら、アレクが「……苦手です」なんて言うことになる? でも、さすがはアレク。ちゃんと客観的な意見も述べてくれた。

「探究心が強く、一人行動がお好きな方のようです。父上と交流があり、親しいのではないかと思います」

父上と交流? 父上個人としては、婚約を推してるっぽかったのはそのせい?

「でも、何故そんなことを訊くのですか?」

あー……。それはね……。

「バルジャンからわたくしに婚約の打診があったの。お相手がヤールシュ王子だったものだから」

「…………!」

アレクが右手に持っていた、食べかけだったシューを握りつぶした。

ふ、拭くもの!

「アレク? それは廃棄して、手を拭……」

「いえ、大丈夫です」

潰れたシューを口に入れ、指についたバタークリームをペロリ、とアレクが舐めた。その後に、机に一応用意してあった用途自由の布で手を拭く。

「アレク……」

王子としてはどうかと思うよ? それ。ていうか、指を舐める仕草も全然下品じゃないアレクの遺伝子はどうなっているのか……! むしろ絵になってた……!

いや、お姉ちゃんとしては見過ごせない!

「……相応しくない行動だったのはわかっています。ですが、姉上が私のために用意してくださったものを捨てるなんてできません。それに、自分で潰しただけですし、食べられる状態でした」

シュンとしながらも言い募るアレクが可愛い……!

「わたくしだけだったから良かったものの……」

「姉上しかいないから、大丈夫だと思ったんです」

「仕方ないわね……」

私はあっさり敗北した。

「でも、アレク。そんなに驚くなんて」

「それは――姉上に政略結婚など、して欲しくないからです」

「アレク、忘れたの? わたくしには恋人がいるのよ?」

だから政略結婚の可能性はほぼゼロになったと言っても良いはず!

偽のだけどね? ちょっと前までは、その偽の恋人役すら影も形もなかったけどね? いまなら堂々と言える! サンキューデレク!

一度は、アレクに頼むしかないのかもってところまで追い詰められていた。だけど、アレクに情けないところを見せたくない、という別の見栄はこれで守られた!

「明日は、披露目の日でしたね」

目を伏せた小さくアレクが呟いた。

すぐに顔をあげる。

「姉上の好きな者というのは……誰ですか?」

夕食会の後で訊かれて、あのときは答えられなかった問い。ここで話すことではないって、誤魔化したあの日を懐かしく思い出す。

もう、この質問にも答えられる。

「デレク様よ」

アレクがエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。

「……デレクですか? ナイトフェロー公爵家の」

私は微笑んで頷いた。

「では……あのとき、何か理由がある、と肯定したのは」

「デレク様だったからよ。兄上の親友だもの。そのことを考えると、少し……難しい関係性でしょう? だから、隠していたのよ」

嘘なのに、割と信憑性が感じられるのが自分でも驚き。つまり、やはりデレクは最善の選択肢だったということ!

「私には、言ってくれても良かったのではありませんか?」

傷ついたような色が、アレクの瞳に宿る。見栄を張りたい、の方向に寄っていた私のゲージが、本当のことを打ち明けたい、へ大きく偏った。

でも、敵を欺くにはまず味方から、とも言うし……!

「……だから、ナイトフェロー公爵家のイーバがここにあるんですね。さっき、デレクとすれ違ったのも」

あああああ、アレクが俯いてしまった。

「――アレク」

呼びかける。

「いままで黙っていたのは、ごめんなさい」

アレクに秘密にしていたっていうことも駄目だったんだろうけど、これは、きっとアレだと思うんだよね。前世で、私がお姉ちゃんに彼氏ができたとき感じたやつ。

お姉ちゃんを取られたかのようなジェラシー。ちょっとした寂しさ。……まあ、あれはお隣の幼馴染みが明らかにお姉ちゃんに片思い中だったから、二人がくっ付くことを願っていた私としては邪魔者が割り込んだように感じたってのもある……。

「でも、恋人がいるからって、わたくしとアレクの関係はこれからも何も変わらないわ。あなたはわたくしの大切な弟だもの」

「大切な、弟……」

「ええ。現に、秘密にしている間、わたくしは何か変わった?」

「……いいえ」

アレクが首を緩く横に振る。

「デレク様がいようと、アレクは私の中で不動の位置にいるわ」

「……はい」

ようやく、アレクが微笑んでくれた。

「――姉上」

「何かしら」

「準舞踏会の会場は、天空の楽園だったでしょう?」

「? ええ」

「『空の間』には行かれましたか?」

言葉通りなら、何てことのない、質問。だけど、私にとっては、重い質問だった。

「いいえ。行っていないわ」

私は嘘をついた。アレクの言っている『空の間』は、誰もが知る『空の間』のほう。でも、実際には、もう一つの『空の間』が存在する。……どちらも、行った。そして、これは表向きじゃない襲撃の話に繋がる。アレクにも伏せるべきことだった。

行ったのに、行ってないって答えたことに、罪悪感が湧き上がる。

だって、アレクに「行かないでください」って言われた場所だったのに!

「――なら、いいんです」

あそこは、良くない場所だから。

俯いたアレクが囁くかのような声音で呟いた。

――直後、鳥かごが大きく揺れた。

見ると――レヴ鳥が暴れてるっ?

っ? 鳥かごから、飛び出したっ?

扉の留め具が外れたんだ……! て、翼をばたつかせてアレクに襲いかかってるんですけど! 何で興奮してるのかわからないけど……!

「こら! 止めなさい!」

駄目だ。全然言うことをきかない! 私じゃ……。

「っ! クリフォード!」

私は部屋の外へと叫んだ。

「この子を捕まえて!」

両手でレヴ鳥からの攻撃を防いでいたアレクが、ぼそりと何かを呟いた。

片手を伸ばし――。

その手が届く前に、クリフォードが背中からレヴ鳥の首の辺りを掴んだ。いつの間に来てくれたのか、全然わからない。捕まえたのがクリフォードだったからか、レヴ鳥が羽ばたくのを止めた。……落ち着いたの?

そのまま流れるような動作で鳥かごへ入れ、扉を閉めると留め金をかける。

騒動の名残として、羽毛が室内を舞った。

嘘みたいに、静寂が満ちる。

アレクは――呆然と立ち尽くしていた。

「アレク?」

近寄ると、アレクがビクリとした。私を避けるように下がる。

「あ……」

それだけがアレクの唇から漏れる。

「――違います。姉上のせいではなく、私の……」

私は首を振った。

「アレクは何も悪くないわ。……怪我をしていたレヴ鳥を保護したの。負傷中は挙動が不安定になるかもしれないから注意するようにと言われていたのに、アレクに伝えておかなかったわたくしの落ち度よ」

「助けたレヴ鳥……。――そん――も似――ね」

後半は、何て言ったんだろう。アレクが、泣きそうに見えた。

「……怪我は?」

近づかずに、その場に立ったまま私は尋ねた。

「……平気です」

でも、答えたアレクの表情は、その言葉を裏切っている。身体的な怪我はなさそうだった。だけど……。

先に、アレクが口を開いた。

「――姉上。やはり、帰ってきたばかりで少し疲れているようです。途中ですが、失礼しても良いですか?」

「……ええ」

良くない。全然良くなかったけど、強い拒絶を感じて、私はアレクを引き留められなかった。

「明日。またお会いしましょう」

無理やり作ったような笑みをアレクが浮かべた。