軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヒューに、矛盾する二つの命令を下したのは、兄?

いや、でも、兄がシル様の排除なんてことを命じるはずが……!

でも、問うた瞬間に、ヒューが息を呑んだ。

動揺、した?

「答えなさい」

追撃する。

……わずかな沈黙が流れ、ヒューが息を吐いた。

私を凪いだ目で見返す。

ついで、答えを、言葉に乗せた。

「――私がセリウス殿下から受けた厳命は二つありました。一つは、殿下がバークス様と出会ってから。バークス様をお守りするように、と」

そして、それを忠実にヒューは守っていたはず。

もう一つは、とヒューが続けた。

「かつてのセリウス殿下から」

昔の、兄……?

「同性と結婚し、世継ぎは姉妹から――自分がこれまでの王と同じ道を辿りそうになったら、必ず止めるように。私がそうしようとしていることを、殿下には決して悟られぬように。――そう、厳命を受けました」

兄が、そんなことを……?

「命令への抵抗は、覚えなかったの?」

「私の感情ですか? 我々騎士はいち感情を優先しません。殺したいほど憎い人間であっても主君の命であれば守り、愛する人間であっても殺すでしょう」

でも、ヒューは、深入りしないように、シル様との間に壁を作ったじゃない。

「人間的に、という意味であればバークス様を嫌いではありません。しかし、彼の存在は、かつてのセリウス殿下の望みと相反していました」

「だから、シル様の排除を?」

「それが、最も適切でしょう?」

「本気で、殺す気だったというの?」

牢の中のヒューが、目を伏せた。

「成功しても、やむを得ないとは思っていました」

じゃあ、失敗しても構わなかった?

……ううん。失敗して欲しかった?

相反する二つの命令のうち、ヒューは従いたいほうに従った……。そこに嘘はないと思う。

だけど、言葉通りに受け取って良いのかな。

……何か、引っかかる。

ヒューなら……。――そうだ。これだ。兄の命令に従ったなら――ヒューなら、絶対に成功させようする。そうしなくちゃ、おかしい。厳命だったんだから。

なのに、シル様を排除する……成功することには、こだわっていない?

つまり、成功しても失敗しても、どっちでも良い、なんて、命令を遂行しようとする姿勢じゃないんだ。何故?

実際、ギリギリの線で、シル様は無事だった。偶然とか運が関係しているのは、確かにそう。でも、結果的には、シル様が命を落とすかもしれない、ヒューが本気だと思わせるスレスレで留まっていたからだ、とも言える。シル様が助かる余地も、残してる。

そこに、ヒューの意志が、あった?

そして、成功でも失敗でも、ヒューにとっては変わらない、その先が。

命令とは別の、ヒューの――。

「あなた自身の目的は、何だったの?」

もしかしたら、兄のための。

「成功すれば、かつてのセリウス殿下の命令を遂行したことになります。失敗したとしても――未来は、変わるでしょう。私の裏切りによって、セリウス殿下がご自身へ疑問を抱くことになったのであれば」

でも――。

「けれど、『いま』の兄上には、あなたが『昔』の兄上から受けた命令のことを、言いたくなかったのでしょう?」

たぶん、自分の命令のせいで、なんて知ったら、兄がショックを受けるからだ。

「……ご本人はお忘れになっていることです」

それに、とヒューが続けた。

「罪人の事情など、知る必要がありますか? 為したことがすべてです」

「ヒュー」

確信めいたものが、頭の中に生まれた。

「――本当は、成功しても失敗しても、死んで終わらせるつもりだったのね」

クリフォードに、自分を殺させようとした。

理由は、語らずに。

だから、語るしかなくなったとき、嘘と事実を織り交ぜた動機を騙った。

たくさんの兵士たちに囲まれた、公の場で。それが真実になるように。

いま、たぶん本当のことを口にしているのは、私たちだけだとヒューが思っているからだ。この地下牢みたいな、薄暗い闇の中へ葬られると。

「首謀者の罪人が死に、内側に巣くっていた潜在的な敵とそうでない者の区別もついたのです。これ以上、何を望むことが?」

紡がれたのは、完全には叶わなかった、ヒューの理想の結末。

「……兄上の傍に、あなたがいないわ」

「私がいなくとも、ネイサンや、デレク様がセリウス殿下を支えるでしょう」

「だから、本望だというの?」

「ええ」

でもね、ヒュー。

「――兄上」

私は後ろに下がって、遠くに佇む人影に呼び掛けた。

はっとヒューが牢から、その方向を見た。鉄の鎖が動く。

コツコツと、足音が近づいてくる。

「わたくしたちの話は、お聞きになりましたか?」

「……ああ」

松明の明かりの中に――橙色に染まった兄の姿が、浮かび上がった。

兄が、牢の前に立った。

護衛もつけずに、たった一人で。

軽率なわけじゃない。きっと、故意に。

「ヒュー」

決して大きくはない声で、兄が、静かにヒューを呼んだ。

「…………」

観念したように、ヒューが目を閉じる。

やがて――。

セリウス殿下、と。

兄に対し、その場で膝をついた。

「何か、言いたいことはあるか」

もう一度、執務室で放った問いを、兄が口にした。

ヒューが顔をあげる。

「あなたへ変わらぬ忠誠を。――しかし」

そして、ゆっくりと頭を垂れた。

「――どうか、反逆者へ正しき処罰をお与えください」