軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第105話.ルイゼの魔道具

フレッドと別れたあと、ルイゼは再び見回りや各ブースの補助に入りながら忙しい時間を過ごした。

(本当はフレッド殿下に【光の路】だけじゃなくて、【水の庭園】と【息吹く街】も見てほしかった……)

とちょっぴり残念に思うものの、体験型ブースはどれも順調に稼働している。

どこもかなり好評のようで、嬉しい声はいくつもルイゼの耳元に届いてきていた。

体験型ブースの横に設置した販売ブースでの魔道具の売り上げも上々のようだ。

しかし――どこも想定以上に列ができてしまったのが嬉しい誤算で。

(エニマ様が魔法警備隊の方にお手伝いを依頼してくれて、本当に良かった)

その中には、ルイゼが先日知り合ったノインの姿もあった。

今日は非番で、遊びに来ただけという彼らだったが、上司であるエリオットに命じられると敬礼で即座に応じていたのが印象的だった。

まさか研究所の催しに、こんなに人が集まるとは彼らも思っていなかったのだろう。

かなり驚いていた様子だったが、その分も生真面目に手伝ってくれて非常に助かったのだ。

エリオットは魔道具祭の責任者として、ほとんど休みも取らずに動き回ってくれていた。

つい先ほども、一般客の間で列に割り込んだとかでちょっとした揉め事があったのだが、エリオットがあっさりと決着をつけてくれた。

普段から魔法警備隊を率いているだけあり、彼女は揉め事に慣れている様子だ。

そして今日は、ルイゼにとって嬉しい来客もあった。

「ケイト!」

「ルイゼお嬢様! お元気でしたか?」

カーシィ辺境伯子息に嫁いだ、レコット家の元侍女見習いであるケイトである。

灰色の髪をふわりと揺らし、目尻を下げて微笑んだケイトは、以前会った頃に比べてもずいぶんと元気そうに見えた。

ケイトとは十年ぶりに再会してから、何度か手紙のやり取りをしている。

その中でいつも頻繁に名前が登場するのが、彼女の夫であるアイザック・カーシィだ。

結婚して間もない二人はとても仲が良さそうだ。アイザックの言葉の端々からケイトへの気遣いが感じ取れて、ケイトも終始ニコニコとしていて……それだけでルイゼも幸せな気持ちになる。

ルイゼは初対面だったが、ケイトに連れ添うアイザックは落ち着いた風貌の貫禄ある青年だった。

笑ったときの目元が、彼の父親であるロレンツにそっくりで――ルイゼはまたあの武人めいた男性に会いたくなった。

(以前は、ゆっくりと話す時間もなかったし……)

ルキウスとは昔なじみであるというロレンツとは、ぜひのんびりと語り合いたいものである。

そんなことを思いながら、ケイトから体験型ブースの感想を聞いていると。

なぜかキョロキョロと周囲を見回してから、ケイトが口の横に手を当てて耳元に囁いてきた。

「ルイゼお嬢様、これは内緒の話ですが」

「どうしたの?」

昔のクセは抜けないらしく、ケイトは未だに双子の姉妹のことをお嬢様と呼んでいる。

そう呼ぶケイトが決して苦しそうではないので、ルイゼは特にそのことには触れないでいたのだが。

「私がルイゼお嬢様に会いに行くのを知ったリーナお嬢様ったら、ものすごーく遠回しにですが、ルイゼお嬢様の体調や近況を報告するよう言ってきたんですよ……」

「まぁ」

思いがけない言葉に、ルイゼは目を丸くする。

「素直じゃありませんが、ルイゼお嬢様のことを心配しているご様子でした。もちろんレコット伯爵も」

堪えきれなかったのか、くすりと笑うケイト。

ガーゴインはともかく、リーナがルイゼを案じてくれている、というのはそれこそ信じられない話だったのだが。

(二人とも、元気なのね……)

何度か顔を合わせていて、出立の直前も話してきたというケイトが穏やかな様子なのだ。

暗黒魔法の後遺症はあれど、リーナもガーゴインも無事なのだ。

そのことにルイゼは安堵して、笑みをこぼさずにはいられなかった。

「ケイト、今日はどうするの?」

「王都に宿を取っていますので、一泊する予定です。そろそろ宿に戻ろうと思っていますが」

ルキウスの魔道具【 扉(ゲート) 】を使えばひとっ飛びの距離だが、辺境は遠い。

ケイトたちは今日は早めに就寝し、明日からヤズス地方に向けてまた馬車を走らせる予定だという。

「そう。では、予定ではあと一時間後くらいなのだけれど……」

「手紙に書いてあった、ルイゼお嬢様の魔道具――ですね」

ケイトが両手を合わせ、目を輝かせる。

彼女には、魔道具祭に向けてルイゼが魔道具の開発に取り掛かっていることを手紙で伝えていた。

王都の宿からであれば、十二分に 見(・) え(・) る(・) 距離だ。

「楽しみにしています、お嬢様」

そう言って笑うケイトに、ルイゼも満面の笑みを返して頷いた。

◇◇◇

それから、ちょうど一時間後のこと。

夕日が落ち、虫が鳴く声が聞こえ始めた夕闇の時刻である。

魔道具祭は間もなく終了となり、年に一度である魔道具研究所の一般開放日は無事終わろうとしている。

人混みは閑散とし、帰りの馬車の到着を待つ人々が、入り口の門の外に列を成していた。

話題に上るのは当然ながら、魔道具祭の話ばかりで――中には、両脇に魔道具が詰まった袋を抱える人物も少なくない。

そんな、穏やかな秋の時間が流れる中。

それは唐突に起こった。

――ドンッ! と。

何かが爆発したような音が辺りに響き渡り、訝しげに何人かが顔を上げる。

空の方角を見やった彼らの目が、静かに見開かれる。

雲ひとつない薄暗い空を、まるで駆けるように昇っていく、一筋の白い光を目にして。

「あれは……?」

その景色は、とある少女が開発した魔道具によって生み出されたものだ。

風・炎・光という、三つもの魔石を使用した魔道具は、否応なしに設計上の難易度が格段に跳ね上がる。

しかし、開発に関わった人々の想定通り……あるいは想定を超える形で、一筋の光はどこまでも美しく伸びていって。

そこに刻まれた魔術式は実に短い。

――『空高く打ち上がり、花開く』。

見上げるいくつもの視線の先、まばゆい光が弾けて。

空に、ひとつの花が咲いた。