軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逆転令嬢リリアンヌのもっと楽しい!?義実家訪問〜アーランデ国でも暴れちゃいます〜8

別室へ連れていかれ、女性の騎士により確認されました。くっきりついた手の痕。なんか変だなと思っていたのだが、一日経つと一カ所丸く、より濃い痣がついていた。

「なんで、そのとき言わないんだ!」

「だって、フィニアスに言ったらまた怒るし、前のときみたいに……」

「怒りはしない……心配なんだよ、リリアンヌ」

えー、前に怒ってその後何したか覚えてるかな、彼は。

再び謁見の間。だが先ほどとは様子が違う。

第一王子ターネルもまた、ジュマーナや私と同じ場所に立たされていたのだ。

正面の正妃の顔が完全なる無になっていて恐ろしい。

ラーヴェリヒ陛下はもう怒気を隠すことはしていなかった。

「何か言い分はあるか?」

私は隣に並ぶ二人を見る。

彼らは下を向いたまま。何も話さない。話さなければ状況は変わらないのだが、さて、どうすべきか。

このまま一緒に黙っていれば、私はお咎めなしとなるのか、それがわからない。余計なことは言いたくないが、必要なことも言わないで終わってはフィニアスの立場も悪くなる。

それに身分的にはターネルが一番上だ。彼が話すのを待つべきなのだろうか?

かなり長い間、誰も何も話さず、刻一刻と王の圧が増していく。心なしか瞳の色が変わって来ているようにも思えた。

またも隣に立っているフィニアスだが、彼も何も言わない。ターネル、ジュマーナと違うのは真っ直ぐ前を向いていることだ。

じっと二人の頭に視線を注いでいたラーヴェリヒだが、やっと私の方を向いた。彼らに浴びせていたような圧はない。

ジュマーナでさえあれだったのだから、陛下の赤目の圧は立っていられるかしらと思っていたので助かった。

「そやつらは何も言うことはないそうだ。そなたはどうだ、リリアンヌ」

考えをすべて述べるのは簡単なのだが、そうなるとさらに恨まれる。私だけでなくその恨みはフィニアスにまで行く。これから大使として二つの国を取り持つ役目につこうとしている彼の障害になるのは嫌だなあと考える。

「恐れながら陛下。わたくしは今、先ほどまでと同じく疑われている状態なのでしょうか?」

「いや、これらの様子を見れば一目瞭然だろう」

罰は免れた、と。

「やはり壊れたのは大聖女様のお作りになった……?」

「そう、だ」

「狂化を防ぐ物だとお聞きしております」

「少し違うな、魔素の多いこの土地は、そのままでは何もかもが魔物化していく場所だ。魔族はそんな中でも暮らしていける。だがそれでも、多すぎる魔素は少しずつ精神を蝕んで行くのだ。王は、そんな中で一番魔素を取り込み、一人先に狂うのだ。だが、大聖女様が作ってくださった魔導具で、この土地から多すぎる魔素を日々集め、魔素石としていく。さらにその魔素石を浄化する魔導具を作ってくださった」

前情報通りだ。魔導具は二つある。吸い上げる物と、浄化する物。

「今回壊れてしまったのは?」

「各地にある魔導具から一カ所にまとめる、魔素を吸い上げる魔導具だ」

そしてそのまま冷め切った目でターネルを見る。

「魔導具の部屋に入れる者は限られている」

さて、私の疑いも晴れている。

とすればやることは一つだ。

恩を売って差し上げましょう!

「魔族は、魔力が多く力強い故に、魔導具作りなどの細かい作業を不得手とする、と聞いております」

「ああ、そうだな、この国にある魔導具は、人族の国で作られた物を買ったり、人を招いて作ってもらったりしている」

「前回壊れた時も、そうやって修理したと」

ラーヴェリヒは一瞬フィニアスに視線をやるが、頷く。

「もうその技術者が亡くなってしまったとも聞きました」

「ああ、我が国に尽くしてくれた。今でも彼には感謝している」

「直す人がいらっしゃらないなら、わたくしが直しましょうか?」

ざわりと部屋が揺れた。

「直せる、のか?」

私はにこりと笑って頷く。

「リリアンヌ……いつの間に」

フィニアスにも驚かそうと内緒にしていた。結構大変だったけど。

「実は春に、少し色々ありまして」

なんとも不思議な夢を見た。

あの夢で、フィニアスは、フォースローグに魔導具に精通した者を探しに来たと言っていた。

「フィニアスに確かめたことがあるんです。なぜ留学をしたのか、と。もちろん、王位継承権に関わることでいろいろあったとは聞いていました。ただ、結局ことは起こりましたし、留学する意味がそれだけとは思えなかったのです」

ああ、なんて私は後付けの理由が上手いのだろう。

フィニアスは少しばつが悪そうに、魔導具に関しての話をしてくれた。この先、あの大切な魔導具が壊れることがないともいえない。そんなとき、魔導具大国と言われているフォースローグに友人を作っておくのは悪いことではないと考えた、と。

「なので、あちらで文献を調べたら、設計図がきちんと保管されていました。誰でも閲覧可能というわけではございませんが、魔塔主にお願いをしたのです。この先フィニアスに嫁ぐということは、わたくしはフォースローグの民でもありますが、アーランデの者にもなるのだ。この魔導具は彼らにとって命綱となる。修繕が必要か、定期的に検査できるように、せめて仕組みを理解しておきたいと」

周囲の人々の空気が和らぐ気がした。

「わたくし、新しく魔導具を一から作り上げる才能は残念ながら持ち合わせておりませんが、すでにある設計図を読み解いて作ったり修繕したりすることができるくらいには優秀なのですよ」

にこりと、微笑む。

ああ、と誰かが声を漏らした。

素晴らしいと、何という志だと、私を救世主だと叫ぶ声が聞こえた。

隣に立つ二人は、握った拳を震わせていた。

ターネルとジュマーナは今後詳しく取り調べるとし、私は申し訳ないが、とすぐに魔導具の修理にかり出された。

さすがに二日三日で終わるわけがなく、家族はそれぞれ仕事がある。滞在期間ギリギリまでいたが、後ろ髪をひかれまくりながら帰っていった。

スカーレット様とメイナード、さらに魔塔主のグスマン伯爵にしごかれた私は、粉々に砕け散った魔導具を修繕と言うよりほとんど一から作り直すことになった。

「どうだいリリアンヌ? お茶にしないか?」

フィニアスは私に甘い。少しでも疲れた様子を見せれば休憩だ、今日は作業を終わりにしようと言って、魔導具修理の成り行きを見ている官吏たちのイライラを増大させている。

「あとは頼んでいた魔石が手に入ったら、二日くらいかなぁ。ちょっとさすがに魔力が、かなり増やしたのに、それでも魔力が足りない」

魔力が足りなくなってめまいがするので、魔石は少しゆっくりとってきてもらいたい。

ジュマーナが壊してから何年も直らなかった魔導具だ。それでも狂化とはならなかったので、期間には余裕がある。

ただ、あんまりのんびりしていると授業が始まってしまうのだ。

作業部屋を出て、ソファに座る。

私のために準備された部屋だ。奥には寝室まである。完全に、閉じ込められている状態だ。まあ、助けて恩を売ると決めたのだからそれはいいのだが、フィニアスは気に入らないらしい。

「リリアンヌ様、街の一等地が確保できたらしいよ」

いつも通り、リリアンヌ嬢と呼んでいたら官吏たちに睨まれたと、イライジャはここでは様をつけることにしたらしい。結婚するまで、学生の間は今まで通りでと言っていたが、私はここで今、彼らにとって救世主だ。婚約者のフィニアスはまだしも、イライジャは同等ではないらしい。

「お父様、帰ってすぐ話をつけたらしくて、支店を作る準備中ですって」

「建物も何から何まで陛下が用意してくださるそうだから、好きなように言ってしまったらいいよ」

「そうさせてもらおうって、話しておいたわ」

魔石によるが、あと一週間くらいで終わるだろう。そうしたらさっさと帰ろう。

誰も彼もが私を様付けで持ち上げるのだ。ちょっと居心地が悪い。このために私が仕組んだと言われても仕方ないレベルだ。断じてしてはいないが。

「これなら学園の方がましだ」

こうやって話している時も、アーランデの人々に見張られている。

「最終学年ですもんね。イライジャはAクラスは?」

「それは無理! Aの層が厚すぎる」

「リリアンヌ、魔術の授業は風をメインにするの?」

「そのつもりです。かなり覚えてはきていますが、もっと使わないと、身体が覚えないので。三重くらいまでしかまだ前準備なしでは使えませんし」

「三重を使えるだけですごいけどね」

そんな風に学園の話をしていると、本当に早くあの空間に戻りたくなってきた。

スカーレット様と楽しく過ごせるのもあと一年だ。

ふうっとため息を漏らすと、フィニアスが不満そうにしている。

「今、スカーレット様のことを考えていただろう」

「……フィニアスは本当に鋭いです」

「もう少し私のことを考える時間を増やしてもいいはずだ」

婚約者からの要望に、私は肩をすくめる。

「卒業したら、一年のうち四分の三はフィニアスのことを考えておりますよ」

「四分の三?」

「冬はたぶん、スカーレット様とたくさんお茶会やパーティーに参加します」

はあと盛大なため息を漏らすフィニアスと、腹を抱えて笑うイライジャ。複雑そうなアーランデの者たち。

「諦めてください、フィニアス」

「私はずっと追いかける側だな」

呆れたような彼に、私は笑いかけた。