軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二人をなんとかくっつけろ!

真新しいドレスは深い藍色だ。髪は念入りにニーナによってセットされた。

「うちのお嬢様はまるで聖女のようですわ」

ニーナは昔から私贔屓だ。

が、聖女はいただけない。あの女を思い出してしまう。

「私は聖女より悪女になりたいです」

「あら、また恋愛小説の影響ですか?」

可愛らしいと、ニーナが笑う。

「王妃様の前では悪女は遠慮してくださいませ」

今日は突然、スカーレット様の王妃教育に同行することとなったのだ。

建前は、お茶会のときのマナーと会話の回し方を学ぶ。だが、本当の目的は、カタリーナの品定めであった。

絶対私は必要ないと思うのだ。

が、なぜかラングウェル公爵から、よろしく頼むと言われ、オーラン伯爵からもくれぐれもよろしくと何度も手紙をいただき、カタリーナと第二王子の仲を取り持つよう厳命されていた。

十二歳児にさせる仕事ではない気がする。が、これで第二王子の婚約者としてカタリーナを担ぎ上げられれば、憂いが一つ減る。

以前の記憶と事前調査によれば、第二王子は至極生真面目な性格で、常に第一王子のスペアとして育ってきた。

何をやるにしても、もしも第一王子になにかあったときのため、でしかなかったのだ。

誰かの一番になること。

それが彼の望みだった――と、例のシュワダー・レフサーの小説にありました。

恐ろしいまでに第二王子、オズモンド殿下の人物像にそっくりなのだ。

ただ、誰かの一番になりたいオズモンド殿下が、なぜたくさんの男たちに取り囲まれているマーガレットに縋るのかがわからない。

まあ、私も男心が全てわかるわけではない。とにかく上手く縁談の運びになれば打てる手が増える。

十分すぎるほど気合を入れて馬車へと乗り込んだ。

お茶会はホスト役が本来は客人到着より前に待っているものだが、今回は王妃陛下主催なので待っていたのは……お久しぶりですクソ殿下。

「お初にお目にかかります、ギルベルト殿下。クロフォード子爵の長女、リリアンヌ・クロフォードでございます」

「ああ、スカーレットが可愛がっていると聞いている。そなたの席はこちらだ。もうしばらく待っていてくれ」

親のいないお茶会は初めてだ。

王妃主催だからできる。

案内された席に座る。残りの席は五つ。すぐカタリーナがやってきた。

「ごきげんよう、カタリーナ様」

「ごきげんよう、リリアンヌ様」

普段はさん付けなのだが、今日はお互いよそ行きの挨拶だ。

「ふふ、緊張されていますね」

最近はみんなの前でもわりと笑顔を見せるようになってきたカタリーナが、今日は顔が固まっている。

「わ、わたくしがこのような場に……」

「あら、カタリーナ様は伯爵令嬢でしょう? このような場というならわたくしですわ」

いやほんと。

まあフォロー役なのはわかる。

「スカーレット様のお友だちということで呼ばれていますから、気楽に行きましょう。そう言えば最近のおすすめの本は何かありますか?」

「懇意にしている商人に、シュワダー・レフサーの作品を集めさせております。まだ読まれていない物があればお貸ししようと目録を作りました」

「ふふ。すっかり彼の作家は令嬢たちの心を掴んでしまっていますね。勧めてくれたお兄様に感謝しなければ」

「本当に。お会いする機会があれば素敵な出会いにお礼をしたいです」

カタリーナの緊張をほぐすために、今後の何か良い催しなどを相談していると、スカーレット様がいらっしゃった。

「ごきげんよう」

ギルベルト殿下にエスコートされ席に着くと、時間を置かないうちに王妃陛下がやってくる。その後ろに第二王子のオズモンド殿下。三人ともそっくりで、王子は二人とも王妃似だ。

チラリとカタリーナを見ると、膝の上の握り拳がプルプルと震えている。

スカーレット様主催の趣味の会では、慣れてきたのか自然な笑みをこぼすようになってきていた。

慣れれば大丈夫なのだ。

頑張ってもらうしかない。

「今日はよく来てくれた。スカーレットから仲良くしている話を聞いてね。少しお喋りをしたくなったのだ」

茶会が始まり給仕たちが動き出す。

「ギルベルトは知っているだろうが、弟のオズモンドは初めてだろう」

「皆様はじめまして、オズモンドです」

はじめまして、よろしくお願いしますと声が上がる。

「一年遅れて学園に入学します。ぜひ色々と教えてください」

「こちらこそよろしくお願いいたします」

そこからはいたって普通のお茶会である。

たださり気なく、王妃陛下と私からオズモンドとカタリーナへの話の振りが行われるのだ。

「皆さんで定期的に集まりを催しているとか?」

「ええ、毎回何かしら皆で一緒のことをやります。例えば……先日は一緒にクッキーを作りました」

「クッキーを?」

とはギルベルト殿下。

「うちのコックに手伝ってもらいますけどね。型抜きや、レーズンなどのドライフルーツを一緒に混ぜ込んだものなどです」

「カタリーナ様が作ってらした、杏のジャムを乗せたものが一番人気でしたね」

「杏ですか?」

オズモンド殿下が反応する。

ラングウェル公爵からの横流し情報で、オズモンド殿下が杏が好きなことは調べ済みだ。

「あの、はい。わたくしの領地で採れた物が送られてきたので、それを使ってジャムを作っていたのです。クッキー作りと聞いて、持っていって乗せたら喜んでいただきました」

「ジャムもカタリーナ様が作られた物だそうですよ」

「カタリーナ嬢が?」

「あ、はい。伯爵令嬢がするようなことではないと言われるかもしれませんが……昔から領地でお菓子作りが趣味で……」

「あら、わたくしも趣味で武術を習いますよ。趣味は趣味です。相応しくない趣味なんてありません」

ですよね? と眼力込めてオズモンドへニッコリ笑いかけると、オズモンドも頷く。

「趣味があるのは良いと思います。私も食べてみたかったですね、杏ジャムのクッキー」

「そういえばオズモンドは杏が好きだったか」

王妃陛下が頷き、カタリーナへ向き直る。

「オーラン伯爵領は杏の産地だったな。今度ジャムをもらえるか?」

「はい。父に相談いたします」

「楽しみにしています」

オズモンド殿下もカタリーナにニコリと笑いかけた。

カタリーナの反応は、悪くない。

ギルベルト殿下は顔がいい。どうしたって顔のいい者同士から産まれているのだからよっぽどのことがない限り見かけは良い。

割と俺についてこい系の人で、その性格が顔に現れている。自信に満ち溢れ、不敵な笑みを浮かべている。

反対にオズモンド殿下は、もちろん顔は良いのだが、どこか柔らかい印象がある。たぶんだが、常に兄の一歩後ろに控え、ふんわりと柔和な笑みを浮かべて状況を見守っているからだろう。

「次回は乗馬に挑戦することになりました」

さらに私は話題をぶち込む!

「乗馬? 令嬢たちだけでか?」

陛下の驚きの声に、スカーレットが頷く。

「はい。郊外にあるラングウェルの馬場へ。ピクニックがてら参ります」

「乗馬は苦手な方がいらっしゃいますから、希望者だけですけれど……カタリーナ様もいらっしゃるんですよ」

さすが伯爵令嬢カタリーナ、馬は平気だそうだ。

「馬は昔から好きなのです。乗るのもですが、世話をするのが」

「私も愛馬の世話で、よく厩舎に出入りしております」

ニコニコと応えるオズモンドに、カタリーナも微笑みかける。

そんないい雰囲気の二人に水を差すのはさすがのクソ殿下。

「たまになら良いが、そなたは毎日らしいではないか。王族として他にやるべきこともあるだろう」

「申し訳ございません」

ギルベルトが言えば私たちは口を挟むことはできない。これを取りなせるのは王妃のみだ。

「まあ、兄として心配なのもわかるが、国王陛下から頂いた愛馬のことを可愛がっているのであろう。……その乗馬の会は何人くらいの令嬢が来るのか?」

「我々を含め六人になります」

「そのくらいの人数ならさほど混乱もあるまい。どうだ、ギルベルトやオズモンドも参加するのは」

瞬間、両者の反応は真逆のものだった。

ギルベルト殿下は顔をしかめ、オズモンド殿下は、輝かせた。

クソ殿下、馬乗るの嫌いだもんね。馬が嫌いらしい。そしてその気持ちは馬に伝わり、馬は言うことを聞かなくなる。渋々乗せるのだ。

スカーレット様は本当になんでもお出来になる方なので、もちろん乗馬も上手にこなす。たが、ギルベルト殿下が好きではないのであまり乗らないようにしていた。

相手に合わせて自分の好きを潰すなんてほんっっっっとうに人生の無駄だ!

スカーレット様はそんな反応を見てどう返答すべきか悩んでいるようだった。自分の婚約者が嫌がっているのはわかるから。

「私以外は、伯爵家の方たちばかりですから大丈夫だと思いますよ」

憂いの理由を、突然殿下が来て令嬢たちの対応は大丈夫か? という方向に誤解してるふりをして後押しする。

「まあ短い時間だろう」

王妃にダメ押しされれば頷くしかなくなった。

「父と相談して時間をお知らせいたしますね」

その後は少しギルベルト殿下のご機嫌をとる話題を振りつつ、お茶会は無事お開きとなった。

カタリーナも受け答えは淀みなく、なんとかこなし終える。出会った頃よりは落ち着いたし、そうなれば教育はしっかりされている伯爵令嬢なのだ。

「とても楽しい時を過ごすことができました」

「お時間をいただけて、嬉しかったです」

と、口々に礼を並べ馬車へ乗り込む。迎え出てくれたのはギルベルト殿下のみだったが、帰りはオズモンド殿下も一緒に見送ってくれた。

ギルベルト殿下はもちろんスカーレット様をエスコートする。

オズモンド殿下が少し悩んだようだったので、私がすっと一歩引くと、軽く頷いていた。

我ながら普通にアリだと思うのだがどうだろう。後は他の家門をいかに抑えるかだ。亡くなった婚約者の家門からの反発も考えなければならないだろう。が、結局手出しをしてこなかった周りの面々だ。物申すのは婚約者の家門くらいだろう。

正直オズモンド殿下のことはあまり把握していなかった。調べるにしても、それは私では無理だった。

ラングウェル公爵から好きなものの情報を得るくらいである。

家門の力関係とか、令嬢令息の年齢、あらゆるもののレベルなんかを資料として欲しい。

十二歳の自分を呪い、巻き戻り前の己を罵る。スカーレット様とその周りにしか情報の手を伸ばしていなかった。

「うう、使える手足が欲しい……」

帰宅して湯浴みをしながらそうつぶやくと、髪を梳いていたニーナが驚いた声をあげる。

「私は使えませんか?」

「ニーナは私のお世話で手一杯でしょ! そうじゃなくて、こう、情報収集をしてくれる人が欲しい……」

「あら、誰か気になる方でも?」

「オズモンド殿下のね〜」

「なら、アシュリー様にお聞きしたら良いのではありませんか? ですが僭越ながら……お嬢様とオズモンド様では家格が釣り合わないかと……」

「馬鹿ねぇ、そんなことはわかってるわよ! わたくしのことではなく、お友だちの話です。で、なんでお兄様が?」

「アシュリー様はお友だちもたくさんいらっしゃいますし、城で文官として働いてらっしゃいますから、自然と情報は入ってくるかと」

「ニーナ! お兄様にお手紙を書くわ!」

兄の登城する日が読めないので手紙でお願いが一番だ。

「まずはお風呂を終わらせましょう」