軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢スカーレットの巻き戻らない報復〜リリアンヌの分まで覚悟はよろしくて?〜3

第三の被害者?

デクラン・グスマン。

「何度も申し訳ございませんね、グスマン伯爵様」

「いや、当然の権利です」

最近よくお会いしますね、グスマン伯爵。

デクランは無表情。いつもの無表情だ。

「デクラン様は本当にいったいどういった目的でマーガレットと一緒にいるかがわからないのです。できれば本人の口からお聞きしたいのですが……」

だが、彼は答えるつもりがないようだ。

デクランはもともと、マーガレットのそばにいるとはいえ、そこまで彼女に媚びるような雰囲気はなかったのだ。基本的に魔導具を作ったり研究したりすることが楽しいようだ。これは私調べである。

伯爵家の長男だし、顔も成績も魔力も三点セットで合格なのだが、女性が近づけないような雰囲気を作っていたのだ。そして気付いたら、マーガレットのそばにいるようになっていた。

「他の方は、どうみてもマーガレットに気持ちが傾いているようでしたが……デクラン様はそこまでではありませんよね?」

こちらを攻撃してくるようなこともなかった。

「……だ」

「はい?」

「虫除けだ。マーガレットはちょうどよい虫除けになった。それだけだ」

はい?

「私は魔導具や魔術式の開発に興味があるだけだ。正直女性に煩わされるのが面倒だと思っていたんだ。どうしても伯爵という地位から近づいてくる者が絶えない。父からも、散々言われてる。はっきり言って、結婚する気はないんだ。爵位は弟が継げばいい」

「デクラン!?」

「今までにも何度も言っていますよね、父上。私は爵位はいらないと。研究だけしていたいと。将来は学園の教師を考えています。魔塔は面倒ですからね。父上が、伯爵として両立している実績もあるので結局結婚は勧められるでしょうし。私の妻となれば寂しい思いをさせることが確定している。可哀想でしょう? しかも、そうやって放置してたら知らぬ子が生まれてもまた困る。……マーガレットが、悩んでいることがあるだろう、なんなら自分を利用してくれて構わないと言うんだ。一体何を知っているのかわからないが、そこまで言うのならと利用しただけだ。彼女の周りにいれば、煩わしい女性からのアプローチはなくなる」

グスマン伯爵が額に手を当てて、お悩みですね! いやーそれは、予想外。

「聖女を隠れ蓑にするとは……豪胆なお方ですね」

「だが、貴族が嫁を取らないとは……」

「教師なら実例がたくさんいる」

それは確かにそうだが、伯爵位でそれは許されるのだろうか?

「メイナード様もそうでしょう、父上」

「……あれは、違うぞデクラン」

「メイナード様は、違うなぁ」

グスマン伯爵とラングウェル公爵様の眉間のしわが増えた。

メイナード? 確か魔導具の授業の教師だったか。

「グスマン伯爵家の問題は、おいおい考えていただくとして、それでは、デクラン様はこちらと敵対するつもりはないと?」

「また虫除けを考えなければならないけどな。結婚に興味がなく、結婚生活にも興味がない、子どももいらない爵位もいらない女性がいるならいいんだが……」

「それは都合がよすぎでしょう……」

みんなそれぞれ事情があるのだなあと改めて思い知らされる。

「とはいえ、そんなに一緒に過ごしていないので、そちらに有利な証言を持っているわけでもない」

くっ……使えない!! とはいえ、とりまきの一角が機能していないのはまあよしとしよう。

そんな裏事情があったとはいえ、今回の醜聞が十分彼への罰となるのだ。

◇ ◇ ◇

第四、第五の被害者?????

フィニアス・カスティル、イライジャ・エフモント。

スカーレット様とラングウェル公爵様は、王宮の一角、離宮にあたる建物へやってきた。かなり小さめの建物だが、それでもリリアンヌのタウンハウスよりは大きいし、豪華だ。

王宮の兵士たちが周囲を巡回し、馬車が止まると使用人たちに出迎えられる。

その向こうにはかなり立派な身なりをしたフィニアスがいた。後ろには騎士の服を着たイライジャだ。

「ようこそ、すまないね。そちらへ向かうのは少し煩わしくて」

「いいえ。護衛も必要になりますし。お時間をいただき光栄です」

この冬、城で新年の宴が開かれたとき、フィニアスは毒を盛られた。マーガレットの力で一命を取り留め、一部の貴族にはその正体が、隣国、アーランデ国の王子だと知らされた。王位継承権を持たないと言われているが、王子は王子だ。離宮を借りの住まいとしているらしい。

スカーレット様たちは立派な応接室に通され、ソファに腰掛ける。フィニアスの後ろにはいつもは笑顔を絶やさないイライジャが、無表情で立っていた。

「今回は大変だったね。殿下に殴られた令嬢は?」

「未だ意識を取り戻しません」

「それは……気の毒だな」

なんだかとてももやもやする。表情は心配をしているものだったが、なんだか私の気持ちがおかしい。

「国のゴタゴタに巻き込んでしまい、申し訳ないと思っておりますのよ」

「巻き込まれたとは思っていないよ。私も聖女を慕う一角だからね」

「……そうですの」

スカーレット様がすっと目を細める。

「フィニアス様とイライジャ様は、本当にマーガレットを愛していらっしゃるの?」

「もちろん」

フィニアスは青い瞳を輝かせて笑顔で答える。イライジャは軽く頷くだけだった。

なんだか気分がとても悪い。なんだろう、この感情は。

こう、もどかしいというか、お腹の中がぐるんぐるんとなるような、なんとも言えない不快な感触。

「今回のことは残念ですね。ただ、聖女は少し居づらくなるでしょうし、しばらくアーランデに来ないかと誘うつもりですよ」

むむむ……。

「彼女がいなくなれば、少しは話がシンプルになるでしょう?」

スカーレット様がイライジャを見ると、彼はまた頷く。

二人の意思は決まっているらしい。

「マーガレットを、アーランデへ……ですか」

「ええ。スカーレット様にとっても、悪くない提案でしょう? もちろんフォースローグ王国にとってもね」

渦中の聖女がいなくなれば、殿下以外は落ち着くだろうということだ。

え、それは、殿下との婚約が復活するかもしれないということ? 嫌だなぁ……。

「本当に、あの聖女で役に立つとお思いですか?」

「……役に?」

ニコニコと始終笑顔だったフィニアスの表情が変わる。

「魔王誕生を阻止するために、あの娘にということでしょうが、あれは魔導具の魔の字もわかっておりませんよ?」

ファッ!? えっっっ!?

完全にフィニアスの顔色が変わった。

「魔王の狂化を防ぐための魔導具が壊れたという情報はこちらでもすでに掴んでおります。大聖女エリザベート様と協力して作られた魔導具だそうですね?」

「……」

「魔導具について学んだことのない、男性とのおしゃべりに学園生活を費やした彼女を連れて行っても、無駄に終わるだけだと思いますけど」

「……ご存じでしたか」

ふう、とため息をついて、フィニアスはソファにもたれる。前髪をかきあげ、天を仰ぐ。

「人族にそこまでばれているとは思わなかった。……こちらもせっかく手に入れた平穏を守るために必死なのだよ。スカーレット様には悪いことをしたとは思うがね」

フィニアスの顔は、最近よく見る表情をしていた。

ラングウェル公爵と、スカーレット様が楽しそうに悪巧みをする時の顔だった。

王子様なだけあって、顔がいい。その仕草も似合ってる。

ただ言ってることがひどい。

「まあ、あの娘がどういった意図であのようなことをしていたのかは知らないけれど、私の目的は魔導具の修理だ。留学先で魔導具に精通している者を探すつもりだったのだが、まさかの聖女だろ? 是非魔導具の前に連れて行きたい。聖属性ということでどうにかなるならそれが一番なのさ。ただ、難しかろうという話も聞いている。魔導具に精通した者を、と言う方が話が早そうだ。十年二十年の話ではないが、このままでは確実に魔王は生まれる。長年の信頼を失うのも、安住の地を失うのも、我々の望むことではないのだ」

「彼女を得るためにこの惨状を?」

「やめてくれ、私たちが意図したことではない。が、止めなかったのは確かだ。聖女と殿下が破滅してくれれば、彼女をこの国から連れ出しやすいと思ったのだ。あの、殴られた令嬢には悪いと思ってるよ」

むぐぐ。もやもや再び。

しかし、フィニアスの考えがそんなところにあったとはつゆ知らず。イライジャも一緒なのだろう。彼はフィニアスの剣だ。

「わたくしには?」

「スカーレット様? そちらは……正直感謝してもらってもいいのですよ? あの男に貴方はもったいないでしょう。他でいい結婚相手を探した方がましだ。なんなら、私の方で引き受けてもよろしいですよ? その場合はこちらで暮らしたいなぁ。故郷は、王位継承権がない私に対して暗殺を繰り返すような親族が大勢いるので、生きた心地がしない……冗談ですよ、ラングウェル公爵」

公爵がおこーっ!!!

私も、私も……おこ! というか、むぅぅぅ。

「まあ、そんなわけで、もし邪魔なら連れ出しますよ。国も聖女ならあの魔導具を直せるのではと思うでしょうからね」

「……少し考えさせてくださる? 彼女を連れて行っても無駄にしかならないと分かっていながら送ったとなってはそれはそれで国際問題になるかもしれないでしょう?」

「なりませんよ。我々の国の魔導具は壊れてなどいないのだから」

そのような建前なのだ。