軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔塔にお邪魔します

お父様からは許可された。全て正直に話すか聞かれたが、それはやめてもらった。心配をかけたくない。単に魔導具に興味のあるスカーレット様について行きたいといった風を装うことにした。

魔塔は才能ある魔術師の憧れの場所だ。平民よりは貴族の方が魔力が多いので、圧倒的に貴族の魔術師が多い。しかし、稀に平民でも高い魔力を持つ者がいる。早期発見しなければ、成長に伴い魔力を暴発させて残念なことになるので、保護し育てるのが魔塔に課せられた役目でもあった。

平民の魔塔への保護は無償であるし、定期的に親元へも顔を見せることができる。魔術師として励んでいれば待遇もすこぶる良い。

森に湧く魔物の討伐に参加する義務はあるが、危険な仕事である分給料も良い。

子どもの魔力が多いことを望む平民の親もたくさんいると聞く。

「最近はなかなか豊作でな。魔物討伐に向かわせるには少し魔力が心許なくても、魔導具に魔力を込めることはできる。研究熱心な子どもも多い。ただ、魔塔に入れば貴族も平民もないとしているので、多少の不敬は目をつぶってくれ」

「わかりました」

「研究熱心なのは良いことですね」

「人を敬い敬語を上下関係なく使うよう指導しているが……これは貴族の子どものほうがなかなか難しいらしいな」

「貴族としての習慣は抜けないでしょうからね」

貴族の子息、令嬢で魔塔に入るのは、よっぽどの魔術師で次期魔塔主を狙う者か、親が男爵位で魔塔入りという地位が欲しい者、研究熱心な者に分けられる。もちろんそれらが重複していることも多い。

王宮勤めの魔術師という道もあるのに、貴族としての扱いを返上してまで魔塔に入るのはそれなりの理由があるのだった。

「お帰りなさいませ、パーシヴァル様」

ラングウェル公爵邸に集まり、そこへグスマン伯爵が迎えに来てくれた。そのまま転移でスカーレット様と私、そしてなぜかラングウェル公爵までもが魔塔へ移動したのだ。

「護衛は必要だろ?」

本来は護衛される側の人間のはずだ。

「今回はリリアンヌ嬢の魔力量を測る。あまり他の者に漏らしたくないので護衛をつけないで済む方法はこれくらいだった」

「ご配慮ありがとうございます」

親にも内緒なのだから、護衛にもあまり知られたくない。

魔塔への転移は、転移の間でしかできないようになっている。機密の多い魔塔ならではのことだ。

そのまま塔を登ってグスマン伯爵のお部屋へ向かう。魔塔というだけあって、建物は筒状のそれだった。五本ある塔のうち、真ん中の塔の最上階が魔塔主の部屋だ。

早速魔力量を測ることとなる。

魔力測定機は、手のひらに握る。そして起動するとすぐに魔力量がわかる――のは、性能の良いものだ。性能が悪いと三十分ほど握って動かずにしていなければならない。

もちろん魔塔にあるのは性能の良いものだ。直ぐに結果が出た。

「やはりこの年にしては多いな。魔力回路が完成し、普段から魔力を高めようと努力した子どもが、学園を卒業するころに得るくらいはあるだろう」

ギグぅ、ですわ……。つまり時を遡る前。

私はもともと魔力が少なめで、それでもスカーレット様のお役に立ちたく在学中は日々魔力を練って魔力量の増大に注力していた。

「次は魔力回路の発達を調べよう」

これは、苦手です。

定期検診のときにされるのだが、人の魔力が体の中を走るので気持ちが悪い。そして、計測する専門家とはいえ、他人の前で手袋を外すのがためらわれることだ。

「たまに気分が悪くなる者もいる。その場合はすぐに教えてくれ」

「はい……」

手袋を外し、両手を差し出すとグスマン伯爵が軽く目を見張る。

「やり方を知っているのだな」

しまった。これを初めて知るのはほとんどが入学直前のことだ。そんなときはお兄様である。

「お兄様から少し聞きました。ゾワゾワっとすると」

「まあ確かにな……ナイジェル」

「ナイジェル・ラングウェルが、これは正式な検査として保証する」

手袋は人前で外さない。特に異性の前ではご法度だ。決まり事ではないが、女性の自己防衛策として、幼い頃から手袋をして過ごしている。

男性も、女性への配慮ということでしていることが多い。

今日は覚悟してやってきたのだが、反対に驚かれた。気をつけよう。

「本来は保護者の立ち会いのもとやるのだが、今回は内緒だからね。証書も用意してあるからリリアンヌ嬢の不利になるようなことは何も無い。それじゃあ始めようか」

手のひらを上にした私の手に、青い平べったい石がそれぞれ一つずつ置かれる。その上にグスマン伯爵が手を乗せると、右手首、右肘とゾワゾワっと魔力が走り抜けた。

「もうほとんど開いているな……あと一、二ヶ月といったところか」

体の中心を回り、左手から抜けていく。

「気分は?」

「だ、大丈夫です」

昔入学前に検査した時よりははるかにマシだ。あの時は貧血を起こしてしまった。

「顔色も問題ないな」

ラングウェル公爵が顔を覗き込みながらウンウンと頷く。

「先日の暴発目的の魔力の練り上げで、回路が壊れなくてよかった。今後は無理はしないよう。魔力練り上げは学園で学んでからにしなさい」

「ご心配おかけしました」

そこはもう完璧なのですけどね。

「リリアンヌ嬢は、魔術師としての才があるのかもしれんな」

「それは……良いかもしれません。魔術師としてスカーレット様のお側に仕えるのはのぞむところですから」

この先さらに魔力量を増やせればそういった選択もあるのだ。

「そうではなく……自分の望みだ」

「私の望みはスカーレット様の――」

「まあいい。これからやりたいことも見つかるだろう」

公爵が強引に話を終わらせる。

正直な話、卒業後もスカーレット様の手伝いをして派閥拡大を狙ってしかいなかった。そのためのお相手だったし、そのための学園生活だった。

「さて、せっかくだから魔導具を見て回ろうか……例の髪色を変える案を出したのは、実は元平民の魔術師なんだ。とても研究熱心な青年でね。最近城下で流行り始めている歌劇の役者が、何やら今回は一人二役演じるらしく、違うのが髪色だけらしい。早着替えがあるのでどうにかならないかと相談を受けたそうだ。というのも、彼らはもともと知り合いらしくてね。普段から役に応じて髪を染めるのも髪が傷んで悩みのタネだったそうだ」

部屋を出て階段を下りる。塔は最上階を除いて、中央が空洞となって、壁際に扉があり部屋へと続くようになっている。階段があちこち左右上下あらゆる方向へ走っているのでなんとも不思議な光景だった。

「皆が自分の便利なように階段を作っていったらこうなってしまったのだ」

「前に来た時より煩雑になっている気がする」

ラングウェル公爵が言うと、グスマン伯爵は首を傾げた。

「定期的に全部潰してやってるんだがな……皆階段をかける技術だけは上達していく」

途中塔と塔を結ぶ通路を通り、次の塔へと渡る。

この通路が太いとは言え、単なる縄と板だけで作られており、風が吹くと揺れる。当然のごとく足が竦んだ。

「ほら、大丈夫だからおいで?」

先を行くラングウェル公爵が手を差し出すが、スカーレット様は完全に固まって動けないでいる。ここは私が、と思うが下を見てこちらもまた一歩も動けなくなってしまった。

地面は遥か下。落ちたらおしまいだ。

「後ろがつかえているので早く進んでもらえませんか?」

まだ幼い、声変わりをしていない男の子の声だ。

振り返ると、グスマン伯爵のグレーの瞳、白に近い金髪を肩口で揃えた、デクラン・グスマンがいた。

お久しぶりだ。まあ、あちらも私も本来は初めまして。

「そう言ってやるな。塔を結ぶこの通路は初めて塔に訪れるものの第一の試練だ」

「何が試練ですか。魔術が掛かっていて落ちることはないと教えて差し上げればよいのです」

そう言って、大人二人がぎりぎりすれ違えるくらいのそれをスタスタと渡っていく。

彼の言葉に、二人を見やると、悪い顔をしていた。

「お父様!?」

「まあそう怒るな。ほら、おいで。落ちないとは言え、板の隙間から下が見える」

確かに、隙間はあった。それでもデクランの言葉を聞いたあとでは気持ちが違う。

「なぜこのような不安な橋にするのですか? きっちりと石で作り上げれば良いのに……」

手を引いてくれるグスマン伯爵に尋ねると、彼は軽く首を振る。

「この塔はいざというとき人が行き来できないよう、橋を切り離す。だからこんな簡易的な物なんだ。それでも魔術でしっかり補強しているから普通の石の通路よりは強靭だよ」

渡りきり、案内された先にはデクランが待っていた。

「そんなことより初対面だろう。紹介させてくれ。息子のデクランだ。君たちとは同い年だね」

「スカーレット・ラングウェルです。よろしくお願いしますね」

「リリアンヌ・クロフォードと申します。よろしくお願いいたします」

二人揃って挨拶すると、彼もきちんと礼をとる。

「デクラン・グスマンです。よろしく」

「二人はこれから魔塔に通うことになる。会うこともあるだろう」

「入学前の貴族の令嬢が? スカーレット様は次期王妃になられる方ですよね?」

「二人とも魔導具には興味があるそうだ。それに、早くから魔術に触れることは悪いことじゃない。だろう?」

父親の言葉にデクランはどこか不満そうだった。

「まあ、僕には関係のないことです。約束の時間に遅れますから失礼しますね」

そう足早に去っていった。

「やれやれ、愛想のないやつに育ってしまった」

「それは父親の教育の賜物だろう」

ラングウェル公爵の言葉に伯爵は肩をすくめた。

「息子の非礼を詫びるよ。今日は師事している魔術師が来る日でね、急いでいるのだろう。君たちには先程の髪色を変える魔導具を開発したユールを紹介するよ」

次の塔の中に入るともう少し下る。目の前の階段は中央でいくつもの階段と結びつき、また分かれていく。それを何度か繰り返し、下った先にある緑の扉を、伯爵がノックする。

はい、とくぐもった声がして、扉が開くと、青みがかった黒髪に、 片眼鏡(モノクル) をした青い目の青年がいた。フードの付いている紺色のローブは魔塔員の証だ。

「パーシバル様!」

「やあユール。入ってもいいかな?」

「あ、はいもちろん、その、散らかっていますが……」

部屋は二部屋続いていて、奥は寝室。プライベートな空間だ。手前が研究のための机などがあるスペースらしい。もちろんもっと広い共同の研究設備もあるという。

何かよくわからないものと、高そうな書籍が山ほど積まれていた。

「こちらは君の作った髪色変化の魔導具のヘビーユーザー」

「スカーレット・ラングウェルです」

「リリアンヌ・クロフォードです。よろしくお願いします」

「ユールです……あの……」

「二人はまだ入学前なのだが、魔導具に興味があるそうだ。しばらく週に一度遊びに来るから相手を頼むよ」

ぶん投げ!?

驚いてグスマン伯爵を見るが、涼しい顔、というよりもなんだか楽しそうな顔をしていた。

「あ、相手ですか……」

「女性はいないのか」

ラングウェル公爵の懸念はあからさまだ。

「お望みの方向性に合いそうなのは二人ほどいるが、性格がたぶん合わない。あちらは二人ともかなりせっかちなんだ。ユールはとても相性がいいと思う。研究してるものも興味深いしな」

「まあ、何を研究していらっしゃるのですか?」

すっかり魔導具に魅了されているスカーレット様はグスマン伯爵の話にすぐ食いついた。

「最近は……その、絵を描かせるとかなり時間がかかるとかで、その画面を切り取り写し取る、映写機と名付けた物の開発をしておりまして……」

「映写機、ですか?」

「例えば、この部屋の今私たちが話している姿を残す魔導具です」

なんですって?