軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

火球ってこんなにでかかった?

火魔術は一通り学びはしたが、以前はまったくぱっとしなかった。どれもこれも中途半端だ。基本的に火の魔石に魔力を注ぐ以外にやれることがなかった。実践には耐えられないレベルだったのだ。

しかし今回は魔力量が多いのでかなり期待している。

火の魔術師として、求められるのはやはり攻撃性だ。

今日の授業では火魔術の超初歩をやる。火属性を持つ一年生の生徒が全員集められていた。超初歩なのは、これなら事故も起こらないからだ。あとは魔力量や適性によってさらに難しいことを欲する者は、ほとんど個人的に教師陣に指導を請うことになるのだ。

魔術の実技はあくまで選択制で成績すら出ない。卒業後の職のためのものでしかなかった。

だが、だからこそ誰もが真剣だ。

卒業後王宮魔術師を狙うならばここでしっかり学んでおかねばならない。

「リリアンヌ嬢、おはよう」

「おはようございます、イライジャ様」

相変わらずの軽い調子で私の隣に立つ。

「一緒に授業を受けられるのは嬉しいね」

私は別にどうとも思っていないが、確かに目の届かないところにいられるよりはマシである。確か、イライジャはかなりの火の使い手だったはずだ。技術を盗み見るも良いだろう。

「そうですわね」

ニッコリと社交辞令を返せばあちらも満面の笑みを浮かべていた。

「皆さん集まっていますね、それでは魔術の授業を始めます」

火の魔術の教師はウェセト先生だ。

「魔力回路がようやく開き、魔力練りをして魔力を増やしている途中でしょう。これから試すのは火の魔術の初歩。威力が小さくとも落ち込まないように。初めは放出の仕方も魔力量も手探りでしょう? これから三年間で威力を増していけばよいのです」

授業を受けているのは周りが土壁に覆われた部屋だった。引火の可能性を低くするのが目的だ。天井にはもしもの時に水を放出する魔導具が備え付けられていた。

反対に水は周りが全て石に覆われており、水は貯水タンクへと流れるようになっていた。風は広い何も無い屋外で、土は同じく土しかない屋外で授業が開かれている。

「それでは、皆さん予習はしているかしら? 火球の魔術式はわかっていますか?」

そう言って何も無い壁に唯一備え付けられていた黒板に、ウェセト先生は円を描き、中に属性のシンボルや、方向性、形状など、様々なシンボルを描く。それには迷いがなく、これまで何度となく描いてきたのだろうとうかがえる。

「この火球の魔術式は初歩の初歩です。そして火の魔術式の中で一番シンプルで簡単なものです。これを杖や、手のひらをかざした先に思い描きましょう。ペンで描けないものを頭の中に思い描くことなど、到底無理なことです。何度も書いて覚え、そして魔力で空中に描くのです」

この魔術式は古くから魔術師が研究を重ねていて、年代ごとに改良されている。今周囲の国との国交は良好で、王宮魔術師の仕事は王族の警護、国の防護の魔術式の維持、魔物討伐だ。魔物は森に自然と湧くので、定期的に討伐隊が組まれている。

研究は魔塔が一番だが、王宮魔術師の間でも熱心にされているという。

一年くらいしたところで王宮魔術師が新しい式を生み出したという話を小耳に挟んだ。どんなものかは知らないが。

「火球なら俺に任せて! 石盤にこれでもかってくらい書いたよ。剣技とも相性がいいしね」

右利きなら、右手で剣を握り、左手で魔術を使う。杖と剣を持つのはキツイので、魔術剣士は手袋に特別な紋を刻む。杖よりはいささか効力は落ちるが、基本的なスタイルだ。

「撃つときはこちらの線の場所から、あちらの的に向かって撃ってください」

同じAクラスの生徒にも何人か火属性の者はいるが、座学で分けられていて、実技はほぼ初めての令息令嬢だ。

ペンで書けても思い描くのはなかなか難しい。

皆火属性なので手のひらの前に現れるのは赤い魔力の光の術式だ。

ちなみに、熟練になればなるほどこの術式の大きさを小さくして相手に次の手を悟られないようにするし、発動までの時間が短い。

誰もが撃つことを躊躇う中、イライジャが一歩前に出る。

「見ててね、リリアンヌ嬢」

ウィンクをしてイライジャは、左手を的へ向けた。特別な手袋をすでにしているようで、そのままの状態で告げる。

「【火球】!」

手のひらの前に、赤い術式が現れ、それが燃え上がる火の球へ変化した。そこから真っ直ぐに的へ向かい、打ち抜く。

「素晴らしいですね。発動までの流れも見事です」

イライジャの様子に勇気づけられた生徒たちが次々と己の火球を生み出す。

術式が不確かだと発動せずに式が消えるだけだ。そして、なかなか思い描くというのは難しいらしい。シュン、と音を立てて術式が消えていく。

「リリアンヌさん、出来ませんわ……」

同じクラスの令嬢が嘆くので、紙に術式を書くと彼女の前に差し出した。

「はい、これをなぞるように描いてくださいませ」

お手本が目の前にあると描きやすい。大体完成したところでさっと紙を取り去り、さあ、と促した。

術式の先には的がある。

「【火球】!!」

込める魔力の量が少なかったのか、まだ小さくヒョロヒョロと頼りないが、確かに火球は打ち出され、的を軽く焦がす。

「出ました!」

なかなか思うように出せなかった生徒が紙に飛びつく。

「紙を避けるのが遅いと燃えますから気をつけてくださいませ」

そこからは困っている生徒の前に紙を差し出すことを繰り返した。気づけば授業ももう終わる頃だ。

「リリアンヌさんの火球をまだ見ておりませんが?」

とは、ウェセト先生だ。正直火球なら前も出せたのでやる必要はないのだが、指摘されれば仕方がないので手袋を外す。

床に引かれたラインに立つと、右手を前にかざす。

「【火球】」

普通は人の頭部くらいの火球だが、何故かその三倍はゆうにある大きさの火の玉が飛んて行った。

ドンッ、と音がすると、的が根元からポキリと折れる。

あ……これはやっちまった……おかしい、使った魔力量は変わらないのに、たぶんきっと。

内心しでかしたことにプルプル震えながら完璧なカーテシーをキメる。

先生はもちろん生徒たちの拍手とともに、授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

「お手本を見せるとか、イキってたのが恥ずかしい……」

イライジャが机に顔を伏せている。

そんな姿に私とフィニアスは苦笑いだ。

放課後、スカーレット様が図書室に行くとおっしゃられるのでもちろんお供する。

図書室のテーブルは六人がけで、試験前でもない図書室は広々としているので大体四人で座る。スカーレット様の向かいにギルベルト殿下が。その一つ隣にアーノルドが座り、カタリーナがその向かいだ。真ん中の席を空けてゆったりと座るのだ。

先にいたのはギルベルト殿下なのでそうなるのは当然だ。

私は隣のテーブルに一人で座っていた。

ギルベルト殿下の目的は自分の光属性の魔術式らしい。まあ、お勉強するのは良いことです。国を率いるつもりが欠片でもあるならやるべきだ。スカーレット様は魔塔にない魔導具の専門書を読みたいという。

そこへフィニアスとイライジャが来たのだ。

「やあ、皆さんお揃いで。勉強熱心だね」

「そう言う君も。風か」

ギルベルト殿下が応えると、フィニアスは頷く。

「初歩の魔術が楽しかったからね。魔術式をもう少し学ぼうと」

ドサリと数冊の本を私の向かいの席に置いた。

「お邪魔するね」

断るいわれがない。フィニアスの隣の隣にはイライジャが座った。そしてあの言葉である。

「イライジャの高くなっている鼻をへし折った、リリアンヌ嬢の火球を見たかったね」

「少し込める魔力量を間違えました」

間違えてないのになぜかわからないので今度魔塔へ行った時グスマン伯爵に尋ねるつもりだ。

「そのうち教師に師事を仰がなければならないだろ? 授業では基礎の基礎しか教わらないしね。イライジャも魔術式を調べるんだろう?」

「はぁ、そうですね。剣技と相性の良いものを探したいです」

魔術式はそれこそ無数にある。火球も複数出すものや、火の温度を上げに上げた青い火球もある。自分の魔力量や手数に合ったものを自分で覚えて行くのが初めの一歩である。

魔術式は、何度も書いて覚えるものだ。目を閉じても書けるくらいになってようやく魔力で描く事ができる。

ただ、初歩は形状や方向など割と規則性があり分かり易い。

「ここ、間違ってます」

わかり易いはずなのだ。

イライジャが書く付与の魔術式の間違いが気になって仕方ない。

「あ、本当だ」

慣れないうちは覚えるのも大変だ。

「火矢あたりから始めてはいかがですか?」

「うーん、だけど、火付与はすごく攻撃力が増すと思うんだ」

「それは……間違いないですね。ただ、付与の魔術式はかなり難しい部類、に見えます」

難しい部類なんですよ、イライジャさんよ……。たぶんまだ覚えきれないと思う。シンボルも学ばないといけないし、完全丸暗記入るかだ。

「リリアンヌ嬢はできる?」

シンボル全部勉強しているからね、できるよ!

「うーん、シンボルを正確に描く練習が必要ですね。火矢や火球を飛ばして逃げる方を予測して叩くとかが、正しい剣と魔術合わせての使い方では?」

「そうなんだけどさぁ……」

口を尖らせて火付与の魔術式を書いている。

フィニアスが口を押さえて笑った。

「剣が炎に包まれているのがカッコいいそうだ」

あー、男のドリーム?

「まあカッコいいですね」

殺傷力が高そうだ。傷口を焼かれたら治癒も大変。再生能力の高い魔物なんかにはかなり有効である。

「だろ! ほら、男のロマンわかってくれるこもいるんだよ!!」

「ただ、対人は微妙かな? 即時発動しないといけないんで。魔物狩りとかわかって向かうのと、急に襲われたときに対応するのでは違うので。だから火球や……炎幕なんかはいいと思います。火で敵から分断できるので。護衛はいかに要人を守るかだと思います」

「俺……護衛希望て言ったっけ?」

おおっと未来情報先取りしてるせいでやらかした。

「ああ。魔物相手が希望ですか? みんなだいたい王宮魔術師希望ですからね。王宮魔術師の中でも王族の護衛官が特に。その前提で話してしまいました」

ちょっと本当に気をつけなければならない。

と、そこへ声がかかる。

「皆さんお揃いでお勉強ですか? 私もご一緒させていただいてもよろしいですか?」

ゾワゾワっと鳥肌が立つ。長袖でよかった。

「ああ、マーガレット嬢か! もちろん。図書室は学ぶためにある場所だ」

だとしても、だ。

おいおいおいおい、なぜ殿下とアーノルドの間に座ろうとする??

「マーガレットさん、こちらの席が空いておりますよ」

私が私の隣の席二つを指すが、うん、知ってるの。この人、メンタルつよつよなんです。

「今日ギルベルト様と学んだ光属性の魔術式を調べたいんです。ギルベルト様、よろしいですか?」

口元に右手を当てて小首をかしげる姿はとても可愛らしい。

「ああ。教本を持ってきてしまっているからな。好きなものを読むと良い」

そう。ギルベルト殿下は自分が見たいものぜーーーんぶ席に持ってきているのだ。正直他の光属性の生徒からしたら迷惑だ。

まあ、よい。

その二人は早く仲を進めてほしい。

こんな時スカーレット様はあまり表情に出さない。

一番変化があったのは意外にもアーノルドだった。