軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 決戦準備

side:救貧院のシスター、メアリー

シスターメアリーは、静まりかえった街の中を急いで避難していた。

子供たちの熱を持った小さな手を引く。

怪物に近いこのエリアではほとんどの人が既に避難を終えていて、残っているのは理由があって逃げ遅れた人たちだけ。

「助けて……助けてくれ……」

瓦礫の下敷きになっている人の姿もある。

そんな声を聞くたび、メアリーの心は激しく揺さぶられる。

助けたい。

でも、自分には守らないといけない子供たちがいる。

無力な自分には瓦礫をどうにかできる力はなくて。

だから助けることはできないのに。

そうわかっていても、胸を刺す痛みは消えてくれない。

「たすけないの?」

戸惑った顔で自分を見上げる子供たちの顔が、尚更胸を締め付ける。

「私たちじゃ、助けられないから……」

「それでいい。我々が助ける」

そのときだった。

現れたのは黒尽くめの戦士たち。

黒い仮面に外套を翻した彼らは、見事な手際で瓦礫を撤去して下敷きになっていた人を救出する。

「くろのきかんだ!」

「すげえ! ほんもの!」

「ん? あれ? なんかちいさくないか?」

彼らの身長は、大人のそれとは違い小さかった。

等身や身体のつくりも、なんだか知っている 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) より小さいような。

「遂に、遂にあたしも現場での仕事が……!!」

小さな戦士はそう拳を握ってから、メアリーたちに向き直る。

「あたし……じゃなかった。私に着いてきてくれ。ココア、安全な避難ルートのオペレーションを頼む」

まるで子供みたいに小さな黒い戦士に、メアリーは半信半疑でついていく。

一体この子たちは何者なんだろう?

◇◇◇◇◇◇◇

『こちら本部オペレーションチーム。救出作戦は順調に進んでいます。怪物から半径五百メートルのエリアに取り残されていた被害者全員の救出を確認。当エリアの避難も完了済みです』

仮面内蔵の通信機、333(トリプルスリー)ことカナタの声がドランに届く。

「ありがとう。その調子で頼む。作戦開始までにできれば半径二千メートル以内の避難を完了させておきたい」

『任せてください。みんなで力を合わせて必ず完了させます』

「000(ゼロ)様の妹君の避難についてはどうだ」

『501(ファイブハンドレッド・ワン)が行ってくれています。妹君は000(ゼロ)様負傷の一報にひどく取り乱し、傍に行きたいと主張しているようですが、なんとか説得して地下秘密基地に避難してもらっています。あと、妹君の護衛を務められている方が戦線に加わりたいと言っているようですが』

アーヴィスの妹、その護衛を務めている従者のことをドランは知っていた。

王女誘拐事件で、悪魔を圧倒する姿は強く印象に残っている。

「是非頼むと伝えてくれ。彼女は優秀だ。心強い戦力になる」

オペレーションチームへの指示を終え、ドランはほっと息を吐く。

アーヴィスがいない今、組織の指揮系統トップは最古参でナンバー2のドランに託されていた。

ノリと勢いだけで始めた黒の機関。

急拡大し、国の情勢さえも揺るがす強大な組織になった今、自分がその地位にふさわしい存在でないことをドランは知っている。

(所詮私は、劣等生の掃きだめFクラスの一生徒だ)

魔術の才能も、集団を率いる才能も無い。

(Fクラスを率いて、クラス対抗戦を優勝させたアーヴィス氏とは違う……)

心の内は不安でいっぱいだった。

もし失敗したら。

自分の指示は多くの人に迷惑をかける可能性がある。

代わってくれる人がいるなら代わってほしい。

そんな弱い自分をドランは懸命にはね除ける。

(アーヴィス氏はいない。自分でやるしかないんだ……!!)

ドランは懸命に考える。

あらゆる事態を想定し、前もって答えを用意しておく。

頭が悪い自分にできるのは、人より時間をかけることだけ。

能力が無い自分でも、みんなをうまく動かせるように。

少しでもみんなの役に立てるように。

ドランは戦う。

自身が持つすべてを注ぎ込んで戦っている。

◇◇◇◇◇◇◇

集まってくれた人々の姿はリナリーを勇気づけるものだった。

(こんなにたくさんの人が私たちに協力してくれるなんて……)

ここまで多くの人を動かすことができたなら、自分が始めたことも間違いではなかったのかもしれない。

いや、正しい選択だったことにしないといけないんだ。

怪物を倒して、王都を守ったという結果によって。

状況は次のフェイズに移行していた。

集まった戦力で、いかに怪物を撃退するか。

「強欲の邪神の弱点は体内にあるコアよ。建国の英雄はこのコアに剣を突き立て悪魔を沈黙させた。もっとも、当時の技術と力では完全に破壊することはできなかったみたいだけど」

地下秘密基地第九階層。

中心に大円卓の置かれた作戦室。

リナリーは 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) たちに情報を共有する。

それはアイオライト王家に伝わる、怪物への対処法。

「コアを攻撃するには近づく必要がある。そのためにまず対処すべきは触手。似た姿のクラゲから考えると、長さは優に三百メートル以上。『八つの谷と八つの峰を覆う無数の触手』という記述からするとそれよりさらに射程が長い可能性もあるわ」

「迎撃してくる触手を押し返して、突破口を開く必要がある」

イヴの言葉にリナリーはうなずく。

「加えて、記録にある『完全回復能力』というのにも警戒する必要がある。伝承には、まるで神の奇跡のように欠損した触手が瞬く間に再生すると書かれているの」

「それが強欲の邪神と呼ばれる由縁なのだったな」

「そう。欲深く神の奇跡さえ我が物にした。だから強欲の邪神」

「弱点として伝えられているのは炎。用意してくれてるブルーウォーターを使った作戦を考えた」

イヴは大円卓のみんなに作戦を伝える。

「対象はまだ完全体への変異を完了してはいない。早い内に攻撃を開始すべき。至急共有をお願いする」

集まった魔術学院生たち、有力貴族たちにも黒の機関からの作戦が共有される。

「良い作戦だと思うわ。さすがこれだけ国を騒がせてる組織だけあるってことかしら。作戦開始時のフォーメーションについては、もう少し改善の余地もあると思うけど」

配布された資料に目を落とすメリア・エヴァンゲリスタ。

その二つ隣でオーウェン・キングズベリーが言う。

「前線の位置はあと少し高い方が効果的だと思うが」

「ちょっと! 私も言おうとしてたのに先に言わないでくださる? これだから良い選手を集めることしか能が無い金満学院は」

「失礼ですよ、メリア・エヴァンゲリスタ! うちの学校に選手が集まるのはそれだけ優れた環境と伝統があるからです! 何より、いつも思っていましたが隊長になんと無礼な」

むっとした様子で間に入ったのは、フォイエルバッハ副隊長のモニカ。

「俺は気にしてないが」

「さすがです、隊長。どこかの誰かと違って器が大きい」

「あら? どこかの誰かって誰かしら?」

「そう言う辺り自覚あるんでしょうね。噛みつくしか能が無い万年二番な策士さんは」

「誰が万年二番よ!」

「お、落ち着いて姉様! 暴力はいけません、暴力は!」

あわてて止めに入るレリア。

羽交い締めにされながらメリアは言う。

「貴方だってフォイエルバッハでは二番じゃない!」

「私は、隊長を支えるのが職務ですから」

「そんなこと言って、試合映像を繰り返し見てる私は知ってるのよ? 貴方が隊長のこといつも目で追ってること」

「……へ?」

「たしか昔から誰かさんのファンだったのよね? で、側に行きたくて努力して同じ学校に入って副隊長。すごいことだと思うわ。これについては、私も素直に評価してあげる」

「な、なんのことだか」

「しらばっくれるならいいのよ? ねえねえ、フォイエルバッハの隊長さん。実は副隊長さんって貴方のこと――」

「だ、ダメです!」

真っ赤な顔でメリアの口をふさぐモニカ。

「え、うそ、力強っ……レリア! レリア助けて!」

「今のは姉様が悪いと思います」

レリアはため息をついて言う。

「すみません、姉様がお騒がせして」

「構わない。賑やかなのは嫌いじゃない」

オーウェンの言葉にレリアはほっと胸をなで下ろす。

「そうだ、お菓子作りブログの新作レシピすごくよかったです。『ドライいちごと紅茶とブランデーのスコーン』」

「作ってくれたのか」

クールなその顔がかすかにゆるむ。

「オリーブオイルを加えるのがポイントなんだ。これは以前作ったチョコとオリーブオイルのスコーンの応用で」

普段通りに見える四人の姿に、007(セブン)ことソニアは感心する。

有名選手は、どんなときもベストのパフォーマンスを発揮できるよう、必要以上に深刻に考えないようにしているものなんだろう。

メリアとオーウェンだけでなく、戦線に加わった有力貴族や王立警備隊員からも改善案がイヴに伝えられる。

(彼だったらどうするだろう……?)

イヴはそう考えながら、改善案の取捨選択をする。

一番最適なバランスの構築を目指す。

(彼は必ず戻ってくる。わたしの仕事は少しでも彼の負担を減らすこと)

それは黒の機関構成員全員の思いでもあった。

「002(セカンド)のご実家から届いた支援物資と装備、配備完了しました!」

「こちら第七支援部隊! D4地点に逃げ遅れた人を発見。救出を開始します!」

「稼働している病院の状況とその経路を一覧できるデータファイルができました! 使ってください!」

大切な一人のために。

そして、王都で暮らすみんなを守るために。

彼らは今、全力でこの国を救おうとしていた。