軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 檻の中の少年

side:奴隷少年たち

狭い檻の中。

押し込められた少年たちが動くたび、冷たい鎖がこすれて音をたてる。

カナタはそんな奴隷少年の一人だった。

中性的で整った顔立ちのカナタは、女装の少年奴隷として市場では人気商品だった。

奴隷商に仕込まれた少女のような外見と振る舞いも今ではすっかり馴染んで、むしろ男子として振る舞っている方がなんだか違和感があるくらいなのだけど。

そんなことはもうどうでもいい。

自分たちは今日出荷される。

少年奴隷を買っては、虐待して殺しまた新しく買う。

闇市場の奴隷たちにもっとも恐れられている最悪の貴族に。

檻の中にはすすり泣く声が響いている。

そこにあるのは絶望と諦念だ。

今までだって生活は嫌なこととつらいことばかりだった。

誰に大切にされることも無く売られた少年たちを待っていたのは家畜以下の扱い。

暴力は日常茶飯事で、身体はいつも傷だらけ、痣だらけ。

その上、さらに酷い目に遭うことになるなんて。

「なんでぼくたちこんなにつらい思いしないといけないのかな」

「もう嫌だよ。生きていたくないよ……」

「死にたい……」

声をふるわせる少年たち。

カナタもまったく同じ気持ちだった。

(生きていても、いいことなんて何も……)

地下闇市場が騒然となったのはそのときだった。

逃げ惑う商人たち。

現れたのは黒い仮面の戦士だった。

素人のカナタでも、その力が常人とはまったく違う域にあることはすぐにわかった。

あっという間に無力化されていく商人たち。

現れた複数の黒仮面は見事な手際で彼らを簀巻きにしていく。

そして、一人の黒仮面が近づいてきて檻の鍵を開けた。

「ひっ」

怯えた声をあげる奴隷少年たち。

カナタは勇気を出して、ふるえる声で言った。

「あ、あなたは……?」

「黒の機関」

黒仮面は短く言った。

「君たちには、これから我々の仲間になってもらう」

そして連れて行かれたのは、巨大な地下施設だった。

「い、一体ここは……?」

「街の地下にこんな巨大な施設があるなんて」

戸惑う少年たち。

まず通されたのは、夢のように綺麗で広い入浴施設。

心地よい温水の感触に、少年たちは呆然とする。

「ぼくたち、本当にこんなところに入っていいのですか?」

「で、でもたしかに入るよう言われましたし」

「みなさん、おれたちを貴族のご子息と勘違いしてるんじゃ」

半信半疑のまま、温水に浸かる少年たち。

カナタも戸惑いながらあたたかい湯船に浸かることになった。

「す、すごい。これすごい」

「お湯に入るのがこんなに気持ちいいなんて!」

「嘘……夢みたい」

カナタもまったく同じ気持ちだった。

身体を洗うのはいつも冷たい水。

お湯に浸かるなんて生まれて初めてで、気持ちよすぎて何が起きてるのかわからない。

夢心地をしばらく体験した後、困惑しつつ入浴施設を出た少年たちを待っていたのは信じられないくらい仕立ての良い服だった。

今まで着ていたぼろ切れとはまったく違う。

身体をそっと包んでくれるやさしい感触。

「こ、この服を着ていいのですか?」

「こんな綺麗な服、夢みたい……」

嘘のような好待遇はそれだけに留まらなかった。

「これを全部食べても!?」

「こんなにおいしいごはん、生まれて初めて!」

「お腹いっぱい食べたの初めてだ……」

おいしいごはんに、

「こ、このベッドで寝て良いの……?」

「こんなに綺麗な部屋、ぼくたちが住んでいいところじゃ……」

清潔で綺麗な部屋。

(こ、こんな生活していいの、ボクら……)

呆然と立ち尽くす少年たちに、声をかけたのは仕立ての良い上品な服を着たお嬢様然とした少女だった。

「わかる。わかるぜ、あんたたちの気持ち。ここに来たときのあたしもそうだったからな」

「君は?」

聞いたカナタに、

「あたしはモカ。『チルドレン計画』であんたたちより先に黒の機関に入れてもらったんだ。スラムでクソ貧しい生活してたところを拾ってもらってさ」

モカは言った。

「スラムで……君が?」

信じられない。

どこをどう見ても貴族のご令嬢にしか見えないのに。

「あんたたちと一緒さ。全部 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) の方々がくれたんだ」

「 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) ?」

「仮面とスーツ。そしてコードネームを与えられた機関の最上級戦士たちだよ。あんたたちも見たんじゃねえか、すさまじい強さを誇る黒衣の仮面の姿を」

「見た……たしかに、見た」

すさまじい強さを誇る黒衣の戦士たち。

その姿は、カナタの目に強く焼き付いている。

「恵まれすぎてて不安もあるかもしれない。あたしもそうだった。でも、心配することはねえ。あの人たちは本当にすげえ人たちだからな」

モカは言う。

「見てる世界が違うんだよ。あの人たちは世界を救おうとしてるんだ」

「世界を救う……?」

「そう。だからあたしたちのような不幸や理不尽に苦しんでいた連中も助けてくれる。きっと、本当に清廉な心の持ち主なんだろうな。自分の欲なんて全然無くてさ。奉仕の気持ちでこの世界を本気で救おうとしてるんだ」

すごい人たちなんだ、とカナタは感心する。

まるで聖書に出てくる救世主様のようだ。

「あの人たちは、あたしやあんたたちに共に戦う仲間になってほしいんだと。世界の闇っていうのはやっぱり簡単に勝てる相手じゃ無いみたいでさ。もっと力を蓄えないといけないらしいんだ」

モカは真っ直ぐな目でカナタを見る。

「お互い、がんばろうぜ。もらった恩を返せるように。あの人たちと一緒に、世界の闇を倒せるように」

カナタはうなずく。

「うん。ボクもがんばるよ。救ってくれたあの人たちに、少しでも恩返しできるように」

――彼らは知らない。

黒の機関がそんな高尚な組織では無く、ただかっこいいから、わくわくするから、という理由で世界の闇と戦っている残念な集団であることを。

二人の会話を、尊敬する二人の 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) が、

「はぁはぁ、奴隷美少年ショタ最高です! その上外見はまるで女の子みたいってどれだけわたしの性癖をこじらせれば気が済むんですか! もうたまりません!」

「ああ、モカちゃん尊いよ、尊すぎる! やんちゃな感じとか、なのにお嬢様な服を戸惑いながら着てる感じとか、新入りが不安じゃないかなって気遣って安心させに行くお姉ちゃん属性な感じとか! 良い! すごく良いよ! ずっと見てたい!」

懸命に声を抑えながら、排気ダクトの中から全力で見ていることを。

強く強く尊敬する 黒仮面騎士(ナイトオブラウンズ) が、その実とっても残念な集団であることを――彼らは知らない。