軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62 後日談

大会が終わって、僕らは日常に戻る。

「お腹を空かせた妹がいるんです! どうか優勝のご褒美にこのお肉持ち帰らせてください! なんでも! なんでもしますからっ!」

引率の先生に全力でお願いした結果、おいしい霜降りお肉を持ち帰ることに成功した僕!

まるで小雪が降った後みたいに、白が散る宝石のようなお肉たち。

早速エリスに食べさせることにした。

リナリーさんに教わったやり方で、一枚一枚丁寧に焼く。

「ほら、エリスお肉焼けたよ。ウルトラスーパーおいしいお肉だよ」

タレを入れた小皿にお肉を載せる。

目が見えないエリスだけど、お皿の位置さえ教えてあげればあとは手で空間を認識しながら器用に食べることができる。

うちのエリスはすごいからね!

その辺の妹とは格が違うのだ、格が。

って僕の妹は世界中に一人しかいないんだけど。

「え、嘘……!! これすごい、すごいね、兄様!」

声を弾ませるエリスに僕は幸せになる。

かわいい。

かわいいなぁ。

「幸せってこんなところにあったんだなぁ」

「いきなりどうしたの、兄様?」

「ううん、こっちの話」

うれしいことは他にもたくさんあった。

街や学校でサインを求められたり、握手してくださいって言われたり。

あれ? 僕有名人? って、うれしくなる。

まあ、 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) 優勝チームの一年生エースにして、三年間一度も撃破されてなかった『フォイエルバッハの皇帝』を倒して、十連覇を阻止した僕だからさ!

ふはははは、みんな僕をもっと褒めるのだ!

称えるのだ!

中でも、うれしかったのが、ラルフから手紙が届いたこと。

びっくりしてるのが言葉に表れまくっていて、にやにやが止められない僕だった。

ふっふっふ、この我がもっと驚かせてやる。

楽しみにしておくが良い。

覚悟しとくのだぞ、ラルフよ。

エメリ先生に呼び出されたのはそんなある日のことだった。

「まずは優勝おめでとう。君のおかげで六賢人の周辺を探ることができた。やっぱり君は優秀だね。想像以上のはたらきだったよ」

「誠意は言葉ではなく金額です。そう思うなら、どうぞ金額に色をつけていただけると」

「うん、少し上乗せしておいたから。この国一の魔術医に予約もしておいた。普通なら少なくとも半年は待たないといけない人なんだけどね。私が話したら、特別に診てもらえるって」

「神! 大好き! ありがとうございます!」

全力で頭を下げつつ、僕は拳を握りしめる。

これでやっと……やっと、エリスの目を治してあげられる。

エリスに、世界を見せてあげられる。

「わかったことを君にも共有しておこう。まず、六賢人は黒だ。控え室で悪魔の痕跡を発見した。彼らの中に、おそらく『あのお方』と呼ばれる悪魔の王がいる」

「そうでしょうね。内部に協力者がいないと、あんな大規模な魔法陣を起動させることはできないと思いますし」

「まさか、ウェンブリーそのものが魔術師を殺す魔法陣だったなんてね。あのフィールドが作られた百年以上前から、悪魔はこの国の魔術の中枢を支配していたということだろう」

エメリさんは深刻な顔で言う。

「私が思っていたよりずっと、敵は狡猾で強大だったということか」

「じゃあ、危ない橋は渡りたくないので、僕はこれでこの件からは手を引くことにしますね」

「君の妹さん、家で退屈してるんじゃないかな。目が治ったら、学校になんて通えたら喜ぶんじゃないかな」

「…………」

「私なら、名門初等魔術学校に奨学金付きで入れてあげられるけど」

「ちくしょう、悪魔ども! 許せねえ! ぶっ倒してやりましょう、あんなやつら!」

やっぱり、僕と悪魔の戦いは続くみたいだった。

早くエメリ先生の力を借りずに暮らせるだけのお金を手に入れて、平和に安全に暮らしたいと願うばかりである。

にしても、学校か。

エリス喜ぶだろうな。

初等魔術学校なんて、お金持ちしか通えないところにエリスを通わせられるなんて。

兄冥利に尽きるぜ。

やばい、参観日とか泣いちゃいそうだな。大丈夫かな。

って、まだ目も治ってないから、そんな幸せ未来は先の話なんだけど。

「それから、もう一つ。考えないといけないことがある」

「なんですか?」

「あの日、ウェンブリーに乱入してあの場にいた全員を救った組織のことだよ」

エメリさんは、真剣に何かを思案してる様子で言う。

「一体何者なのか。敵なのか、味方なのか。見定めていく必要がある。何せ、あの悪魔たちを一方的に倒してしまったほど凄腕揃いの集団だ。あのスーツの効果なのか、術式の構造は読み取れなかったけど、君のものにも近い未踏魔術まで使っているようだったし。彼らは世界にとって、救世主にも脅威にもなり得る。もしかすると、悪魔以上の脅威にさえなるかもしれない」

「…………」

反応に困った。

謎の組織、ねえ……。

「……いやー、大丈夫じゃないですかねぇ、多分。よく知らないですけど」

「そういう声も多いね。今朝も賞金首が一人捕まったらしい。王立警備隊よりよほど頼りになると、彼らの活動を正義の味方として応援する人も多い。受け取れる賞金を受け取らないあたりも、人々の好印象に繋がっているようだ」

エメリさんは口元に手をやって続けた。

「しかし、一体何が目的なのか。まさか、本当に正義の味方をしようなんて考えているわけがないし」

「…………」

「おそらく、人々の支持を集めてから、真の目的に向けて行動するのではないかと私は見てるんだけど」

「うーん、どうなんですかね」

当たり障りのない返事をしてその日は別れた。

「何かわかったことがあればすぐに教えて欲しい。あの大会で、君はこの国で最も注目される魔術師の一人になった。接触してくる可能性もあるだろうから」

そう言われてもなぁ、と思いつつ僕は学院の敷地を抜け、ストロベリーフィールズ家の私設図書館に向かう。

エレベーターの隠しスイッチを掌紋認証で開け、ボタンを押して地下九階へ。

そこに広がっているのは、まるでスパイものの小説の秘密基地みたいな施設だ。

七種の魔術生体認証でロックされた扉が開く。

長い廊下を抜け、たどり着いた円卓の会議室では、黒衣の仮面たちが騎士の礼をして僕を迎えた。

「お待ちしておりました、000(ゼロ)様」

「うむ」

「計画通り、倒産寸前だった玩具メーカーを買収して作った『黒の機関変身ベルト』と『黒仮面スーツフィギュア』は好評だったようです。救貧院の子供たちはみんな、クリスマスの朝のように喜んでいたと007(セブン)から報告がありました」

「素晴らしい。また世界の闇を一つ、蹂躙してしまったな」

円卓の最奥、置かれた仮面を僕は装着する。

恭しくお辞儀をする黒仮面たちに振り返り、言った。

「今日も始めようか。世界を変革するために」

ごめん、エメリさん。

黒の機関の総裁僕なんだ、実は。