軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59 閉会式

「優勝だ! 優勝!」

「俺たちがあの、フォイエルバッハに勝ったなんて!」

優勝が決まって、控え室はとんでもない騒ぎになった。

みんな、百万年に一度のお祭りみたいに、歓喜の声を上げる。

「俺、グランヴァリア王立に入って良かった……」

「わたしも……」

泣いてる人も続出してるし、

「やりやがったなお前!」

「あの状態からオーウェン・キングズベリーを道連れにするとか、ファインプレー過ぎるっての!」

男の先輩たちはやたら僕に抱きついてくるし、

「すごい! どこまでいっちゃうんですかアーヴィスくんハーレム! 最高! 最高です!」

それを見てまたFクラス女子の幻聴が聞こえるし。

「良かった……本当に良かったですね、フィオ先輩……」

クロエ先輩なんて、もう子供みたいに泣きじゃくっていて、大変で。

「アーヴィスくんも本当にありがとう。おかげで、フィオ先輩を……フィオ先輩を……う、うううう……」

「無理して言わなくても良いですから」

「でも、言わ、言わなきゃ……私、男子嫌いだからアーヴィスくんにもよくない態度取っちゃってた気がするし」

「そうでしたっけ?」

「ありがとう。本当に、ありがとう……」

声をふるわせながら、それでもがんばって言ってくれるクロエ先輩に、僕の胸はあたたかくなる。

リナリーさんはそんな輪の中から少し離れたところでぼんやりとしていた。

「ねえ、アーヴィスくん。私……」

近づいた僕にまだ半信半疑という様子で言う。

「少しだけ、特別に近づけたかもしれない」

がんばってきたことが、想像以上の結果になってびっくりしているみたいだった。

一生懸命な姿を近くで見てきた分、よかったな、と心から思う。

僕も、これでエリスの手術費をばっちり稼ぐことができたし。

うちの学校も優勝して、みんな幸せなハッピーエンド!

よかったよかった!

悪魔とか、魔術の中枢がどうこうみたいな話もあったけど、その辺はエメリ先生の仕事なので僕には関係ないし。

手伝い? しないしない。

だって、報酬もらえないし。

もらえるならすぐ行くけど。全力で駆けつけるけど。

試合の後は閉会式だった。

フィールドの端で準備する間、声をかけてきたのは長身の男だった。

「おめでとう。良い試合だった」

オーウェン・キングズベリー。

最強、フォイエルバッハの絶対的エースにして、今大会最高の選手。

「ありがとうございます」

「また、戦えるのを楽しみにしてる」

あまり口数が多い人ではないのだろう。

それだけ言って、僕に背を向ける。

……本当に、フォイエルバッハに勝ったんだな僕ら。

全然実感が湧かなかった。

ほんの二ヶ月前まで何もできない劣等生してたはずなのに。

遠いところまできたものだ、と思う。

ラルフめ、魂抜けるくらいびっくりしてるだろうな。

次会うときが楽しみだ。

『これより、第百十三回、 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) の閉会式を行います』

アナウンスと共に、閉会式が始まる。

『始めに、大会審判委員長。並びに、アイオライト王国高等学校魔術連盟会長を務めるアルメン・ファン・ブロンクホルストに講評をいただきます』

壇上に立ったのは白髪の男だった。

「それでは、講評を行います。今大会は最後まであきらめないプレーや試合が多かったのが印象的でした。中でも、特に印象的だったのが優勝したグランヴァリア王立魔術学院の快進撃です」

お、僕たちのこと。

「前評判は芳しくなかった中で、チームは試合を重ねるごとに成長し、最後は絶対王者として十連覇を目指していたフォイエルバッハ魔術学園さえも破ってしまった。ここまで劇的な形で幕を閉じた大会は、過去にあったでしょうか」

ふふふ、褒められてる、褒められてる。

「また、プレーの一つ一つの質が非常に高かったことも印象的です。フォイエルバッハ魔術学園の選手の魔術は本当に素晴らしかった。グランヴァリア王立の選手についてもそうです。六大原質以外の、新しい魔術を一年生にして使う選手までいた。ここまで技術的に高度な魔術戦が繰り広げられた大会は過去にないでしょう。選手のみなさんを誇りに思います」

感慨深そうに笑みを浮かべ、アルメンさんは言った。

「才能あるみなさんの未来をここで断つことができる。私はそれがうれしくてたまりません。六賢人の方々、会場の皆様もそうです。死ぬために、今日ここに来てくださって、本当にありがとう」

「え?」

ざわつく会場。

その中心で白髪の男は、にっこりと笑った。

「それでは、宴を始めましょう」

膨張する身体に耐えきれず、男の肌が裂ける。

現れたのは筋肉質な人間の身体に、黒鳥の頭を持つ悪魔だった。

巨大な身体は二階建ての建物ほど。

黒尽くめのコートに、空を覆う黒い羽根が不気味に広がっている。

「ば、化け物……!?」

腰を抜かす運営の人たち。

警備員を務める魔術師が、すかさず攻撃魔術を放とうとする。

しかし、黒鳥の悪魔は既に魔法陣を起動していた。

『 対魔光子悪性化術式(エーテル・ディスターバー) 』

それは、ウェンブリーフィールドにいる、すべての人々を死に至らしめる魔法陣だった。

身体の中にある 魔光子(エーテル) を悪性化させあらゆる魔術の行使を封じ込める術式。

人魔大戦で悪魔が人類を滅ぼすために用意していた切り札――

会場の人々が一斉に崩れ落ちる。

悪性化した 魔光子(エーテル) は身体機能を低下させ、身動きを封じた上で衰弱させる。

一時間もすれば、九万の観衆は一人残らず亡骸に変わっているだろう。

この術式が恐ろしいのは、強い魔術師ほど受ける影響が強いということ。

必然、僕はまともに身体を動かすこともできず、倒れ込んでいた。

やべえ、めっちゃいてえ……死ぬ……。

目に映るすべての人が倒れ込み、うずくまっている。

立っているのは悪魔だけだった。

警備員の魔術師が身体を痙攣させながら言う。

「どうして、どうしてウェンブリーにこんな魔法陣が」

「それは間違いですね。ウェンブリーにこの魔法陣があるのではありません。ウェンブリーが、この魔法陣のために作られた施設なのです」

「え?」

呆然とする警備員に、悪魔は満足げに笑みを浮かべて言う。

「コンパスで書いたように円形の外周。観客席と、古代遺跡を模したフィールドの幾何学模様。まるで何かを描いているようではありませんか?」

「ま、まさか……」

口角を耳まで裂いて笑った。

「ここは最初から、貴方方を誘い込み殺すための施設だったのです」

それは受け入れがたい恐ろしい事実だった。

設備の一つ一つを構成する幾何学模様は、すべて一つの大きな魔法陣を描いていた。

中の人間を殺すための魔法陣が。

本当に、胸くそ悪い話だと思う。

フィオナ先輩が、そして会場の人たちがどんなにこの場所を愛していたか。

その思いを全部、踏みにじりやがって。

観客席から、人間に化けていた悪魔たちが次々に姿を変えてフィールドに降りてくる。

僕らを取り囲む。

「さあ、死んでもらうことにしましょうか。決勝を戦った優秀な両チームの選手には、その栄誉を称えて特別に私が手を下してあげましょう。まずは、そうですね。放置しておくと危険そうな未踏魔術使いと泣きじゃくっていた優勝チームの主将から」

ふざけんな……!!

僕はエリスを幸せにしてあげないといけない。

フィオナ先輩も、他のみんなも殺されてたまるか……!!

立ち上がろうと力を振り絞る。

しかし、身体は動かない。

動いてくれない。

黒鳥の悪魔は、巨大な槍を取り出す。

「終わりです」

大槍が振り下ろされる。

(エリス――!!)

しかし、僕らの身体を粉微塵にするはずだったその一撃は、もっと強い力によって寸前で止められていた。

「実に愚かだな」

そこに立っていたのは黒衣の男だった。

「死地にいるのは貴様自身の方だというのに」

それも、一人ではない。

三十近い人数の黒衣の仮面が、黒鳥の悪魔を取り囲んでその動きを封じている。

「バカな……『 対魔光子悪性化術式(エーテル・ディスターバー) 』の中で動ける人間なんているはずが」

「お父様とお祖父様の力はすごいんだから! このスーツにはあらゆるよくない術式を無効化する機能が――むぐっ」

「ダメです、002(セカンド)! 雰囲気が崩れます!」

……あれ?

この声、どこかで聞いたことがあるような……。

そう言えば、さっきのかっこいい台詞も、うちのクラスのよく知っているやつに似てる気がする。

「き、貴様らは一体……!?」

驚き目を見開く黒鳥の悪魔。

黒衣の仮面。

その声が、僕の鼓膜をふるわせる。

「――黒の機関。世界の闇を狩る漆黒」

ねえ、その声ドランだよね。

何やってんの、ドラン。