軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49 準決勝4

間に合って良かった、と僕はほっと息を吐く。

よし、後は敵大将のメリア・エヴァンゲリスタを倒して、決勝へ行くだけ。

圧縮した空気で無数の刃を作って攻撃する、レリア・エヴァンゲリスタの得意魔術は強力だけど。

魔術である以上、僕の『 時を消し飛ばす魔術(スキップ・ザ・クロックス) 』で無力化することはできる。

つまり、既に勝利は手中に収めたようなもの。

さあ、勝負だエヴァンゲリスタ姉妹!

そう、視線を向けたときには、エヴァンゲリスタ姉妹は全力で後ろの建物に逃げていた。

「え?」

「優れた戦略家は、時に逃げることも辞さないものなのよ」

あっけにとられる僕を尻目に、二人はフリルのロングスカートを揺らして、廃墟の階段を駆け上がる。

二階建ての廃墟の屋上に立って僕らを見下ろした。

「ふう、これで一安心ってところかしら」

「一体何を……」

そこで、僕は愕然とした。

二人が立つ位置までの距離は、十七メートル以上。

これでは、魔術を無効化することができない。

「貴方の戦い方は映像でじっくり見せてもらったわ。動きが速くなる魔術と瞬間移動。だけど、瞬間移動はずっと使っていられるわけじゃない。移動できる距離にも限界がある」

「いや、無限に使えますけどね。うん」

「想定外の事態にはあんまり強くないみたいね」

メリアは微笑んで言う。

厄介なことに、実際彼女の言葉は、僕の魔術の限界を言い当てていた。

「加えて、さっきの謎の魔術。おそらく、こちらの術式を改変して無力化するってところかしら。魔術しか攻撃手段がない私たち魔術師にとっては脅威だけど、それも離れた相手には使えない。だって、そうじゃなかったら、仲間を犠牲にしながら砂煙を目くらましに、強引に守備陣へ突撃なんてしないでいいはずだもの」

「…………」

なにこの人。

これ反則じゃない?

折角すげえ強い新技覚えたんだぞ!

これバトルものの小説なら、絶対僕活躍するところじゃん!

なんで初戦から完全に弱点看破されて、ピンチにならないといけないんだよ!

「あと、距離を取っての魔術砲火に対しては何もできてないから、遠距離攻撃を止める術は無いと考えて良い。つまり、ここからそこに倒れてるフィオナさんを倒せばチェックメイト。レリア」

「はい、姉様。『 高貴で優美な桜吹雪(エアリー・リーフ・ストーム) 』」

放たれる圧縮された空気の刃。

「ぐっ……」

僕は咄嗟に時間を止め、二人を移動させる。

また時間が動き出したとき、隠れきれなかった僕を見て、メリア・エヴァンゲリスタはにっこり目を細めた。

「瞬間移動は、連続使用できない。つまり、これでここまで距離を詰めるのはさらに難しくなった。さあ、この絶望的な状況をどう打開するの? 一年生策士さん」

「別に絶望的じゃ無いですよ。彗星のごとく現れた天才一年生にして暫定宇宙一頭が良い僕には、こんな状況簡単にひっくり返せますから」

「すごい! 面白い」

メリアは目を輝かせる。

「もっと私を楽しませて」

放たれる透明の花びら。無数の刃は、僕が身を隠した瓦礫の壁をあっという間にみじん切りにする。

「無駄です。私の花びらは、その程度で止められるものではありません」

「いいえ、レリア。彼の狙いは刃を止めることじゃないわ」

「え?」

「巻き上がる砂塵を利用して、不可視の刃の位置を把握しようとしてるの」

「そんな狙いが……」

驚いた様子のレリア。

いや、超音速で解説始めないでくれるかな。

僕この方法で一分は時間稼ごうと思ってたのに。

「なら、見えていてもかわせない攻撃をすれば良いだけです」

レリアは、僕を見つめ右手をかざす。

『 高貴で優美な桜の嵐(エアリー・リーフ・テンペスト) 』

放たれたのは、それまでの規模とは比べものにならない量の桜の刃。

僕が身を隠した二階建ての廃墟は、一瞬で粉微塵になり、轟音を立てて後方に吹き飛ばされる。

桜の嵐はそれでもまだ止まらない。

建ち並ぶ石造りの廃墟を次から次へと瓦解させながら、旧市街地に巨人が通ったような大穴を開けた。

その一撃は――人類が放てる最高位、第七位階級。

全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) の出場選手でも、二人しか使えない第七位階級魔術。彼女は、その使い手の一人だった。

「あっけない幕切れでしたね」

冷ややかな目で言うレリア・エヴァンゲリスタ。

よし、僕が射線を切って視界に入らないよう攻撃をかわしたことには気づいてない様子。

あとは、こっそり後ろに回り込んで奇襲を――

「終わってないわよ。彼は攻撃をかわしてる」

「え?」

「そうね。多分、あのあたりかしら?」

メリア・エヴァンゲリスタは花びらの刃を放つ。

僕は隠れていた瓦礫の壁から飛びだして、刃をかわす。

「ほら、いた」

にっこり笑うメリア。

なんでわかるんだよ……。

最善と判断した行動取ってるからそれがわかれば読めるのかも知れないけどさ。

「あの一撃をかわすなんて……」

信じられないという顔のレリアに、

「すごいわよね! 私の期待以上!」

声を弾ませて、メリアは言う。

「ねえ、貴方今からでもうちに転校しない? 貴方がうちにいれば、絶対にっくきフォイエルバッハも倒せると思うの」

「憎いんですか?」

「良い選手集めてるだけだものあんなチーム。個人技でただねじ伏せるだけ。バカでもできる戦術。全然頭を使おうとしない。一方的で試合面白くないし、品がないし、王者ぶってるし大嫌い。隕石落ちて校舎無くなれば良いのに」

「いや、それはさすがに言い過ぎなような」

「いいのよ! 偉ぶってるもの。あんな連中、罰が当たれば良いんだわ!」

気に入らない、という様子で言うメリアさん。

「その点、貴方はすごくいいわ。高い能力を持ってるのに、ちゃんと頭を使って戦ってる。私好み! ねえ、一緒に戦いましょうよ」

「姉様、しかし聖アイレスは女子校です」

「大丈夫よ。女装すれば何とかなるって」

「…………」

ならないと思う。

「遠慮しておきます。女装して転校なんて通報されて刑務所行きの未来しか見えないんで」

「大丈夫よ? そうなったら、私も脱獄計画協力するし」

「捕まる未来は変えられないんですね」

「刑務所からの脱獄ってわくわくするじゃない? 一度、やってみたかったのよね。私が作戦立てれば、多分そんなに難しくないだろうし」

子供みたいに声を弾ませて言うメリアさん。

戦いの途中なのに、自由というか何と言うか。

そういう無邪気なところが、彼女の人並み外れた発想の源でもあるんだろう。

だけど、そこは僕がつくことができる『聖アイレスの策士』唯一の隙でもある。

さて、時間稼ぎはそろそろ十分かな。

「でも、やっぱり転校はできないです。だって、そうなると決勝に行けないじゃないですか」

「たしかに、この大会では出られないでしょうね。でも、次の大会なら」

「いえ、決勝に進むのは僕らなので」

「え?」

「この試合、勝つのは僕らだと言ってるんです」

メリア・エヴァンゲリスタはじっと僕を見つめてから「面白い」と口角を上げた。

「この絶望的な状況を貴方はひっくり返せると言うの?」

「ええ。今までのはただの時間稼ぎ。僕には時間をかけてやっと使用できるまだ使ってない奥の手があるんです」

「本当に奥の手があるなら、わざわざ口にしないと思うんだけど」

「それだけ余裕があるってことですよ。僕は宇宙一強くてかっこいいので」

「…………」

じっと僕を観察するメリアさん。

言葉の真偽を確かめようとしているのだろう。

おそらく、はったりというのはバレている。

だけど、もしかしたら――

僕の未踏魔術を完全に理解できてないメリアさんでは、どうしてもその思考を捨てきれない。

優秀であるがゆえに。

そして勝利を確実にものにしたいと考える優位な位置に立っているがゆえに。

万が一奥の手があったとしても、勝てる方法を考えてしまう。

「では、そろそろ試合を終わらせましょうか」

僕は瓦礫の壁から一歩歩み出る。

二人の視線が僕の身体に集中する。

一体何をしようとしているのか、察知して最善の対応をするために。

息を一度深く吐いてから、僕は固有時間を加速させて地面を蹴る。

三・五倍速――現状できる最高速は、しかしレリア・エヴァンゲリスタの高い魔術制御力を振り切るには至らない。

『 高貴で優美な桜吹雪(エアリー・リーフ・ストーム) 』

吹き荒れる桜の刃は、僕の身体を精確に捉えている。

瞬間、僕は世界の時間を止めた。

『七秒を刹那に変える魔術(ストップ・ザ・クロックス)』

桜の暴風をかわし、全力で走って距離を詰める。

しかし、連続で使用したせいで、七秒が経つ前に時間は動き出してしまった。

「また消えた……!?」

「問題ないわ。ここで仕留めれば良い」

レリアの桜吹雪が、僕を襲う。

おそらく、何かあるならここだとメリア・エヴァンゲリスタは思うはずだ。

だから、意識は集中する。

僕の些細な動きの一つも見逃さないように。

必然、他への意識は甘くなる。

優れた頭脳を持つ『聖アイレスの策士』なら尚更、その集中力は人並み外れているはず。

その長所は、時に弱点にもなり得る。

「――なっ!?」

それはこの日、初めて聞くメリア・エヴァンゲリスタが不意を突かれた声。

そう、さすがにこれは想定できなかったはずだ。

手負いでボロボロのフィオナ先輩とクロエ先輩が、逃げるのではなく背後から回り込んでいたなんて。

そんな作戦、思いついたって選べない。

二人が、自分から作戦を提案してくれない限りは――

『君は、敵を引きつけて。わたしが背後から回り込んで大将を倒す』

『――っ! 私も。私も行きます。戦えます』

そう、これは僕の作戦ではなくて、フィオナ先輩とクロエ先輩の作戦で、

その違いはノイズとなって、メリア・エヴァンゲリスタの優秀な頭脳を少しだけ狂わせていた。

「頼みましたよ、先輩」

桜の刃は僕の身体を切り刻む。

安全装置で身体が転移するのを感じながら、僕は見えないところで戦っている二人の先輩にすべてを託した。

side:聖アイレス女学院、大将メリア・エヴァンゲリスタ

ありえない――

メリアが最初に思ったのはチームの頭脳を務める自分にはあってはならない思いだった。

(なぜフィオナさんと副隊長の子がここに?)

しかし、実際にそれは起きている。

ならば、何が起きているのか答えを導き出さないといけない。

メリア・エヴァンゲリスタにとってそれは難しい作業では無かった。

彼女の明晰な頭脳は、最も実現可能性が高い可能性を瞬時に導き出す。

(まさか、二人ともあの状態からまだ私を奇襲しようと背後に回り込んでたの……!? そんな作戦無茶にもほどが――)

自分ならとてもできない。

だから、気づけなかったのだとメリアは思う。

フィオナとクロエのこの試合に賭ける思いは、メリアの想定よりもさらに強かった。

(速い――!? 脚は限界のはずなのに)

精神は肉体を凌駕する。

強い思いは、時に自身の限界をも超える。

ボロボロの脚で、しかしフィオナはこれまで生きてきた中でも最高の速さでメリア・エヴァンゲリスタに迫っていた。

この速さでは、既にアーヴィスへの攻撃を開始しているレリアは間に合わない。

(フィオナさん、貴方はすごいわ。本当にすごい)

メリアは思う。

(でも、だからこそ全力で迎え撃つ。それが全てを出し尽くしてくれた相手への最大限の礼儀だと思うから)

「『 高貴で優美な桜の雨(エアリー・リーフ・レイン) 』」

掲げた右腕から桜の暴風がフィオナを襲った。

「これで終わりよ、フィオナさん」

フィオナは桜の刃をかわそうとする。

しかし間に合わない。

最善の回避行動を取るには、右足を踏ん張らないといけなくて――

しかしフィオナの右膝にそれができる余力は残っていなかった。

すべてはメリア・エヴァンゲリスタが計算した通りに。

桜の暴風がフィオナを切り刻む。

瞬間、割り込んだのは一つの影だった。

「フィオ先輩――!!」

副隊長だ。

副隊長のクロエ・パステラレインが、フィオナを最善の回避位置へ突き飛ばす。

花びらの刃は、クロエを切り刻む。

身体が転移する中、クロエは叫ぶ。

「行ってください先輩! 夢を自分でつかみ取るために!」

フィオナはよろめき、バランスを崩しながらもしっかり両脚で地面を蹴る。

メリアに迫る。

それは、メリアにとって予想外の事態だった。

(副隊長の子を甘く見たのが敗因、か。あの子もこの試合のために必死で努力してきた一人だった。侮ってはいけなかった)

もう間に合わない。

メリアは右腕を降ろした。

いついかなるときも優雅に。

それが、聖アイレスの頂点にいる自分の流儀だから。

「良いものを見せてもらったわ。ありがとう、フィオナさん」

「ありがとう、あなたは本当に強い敵だった」

フィオナは指を鳴らす。

「『 炸裂する火花(ファイアクラッカー) 』」

爆炎を残して、試合は決着した。

「勝った! 勝ちましたよフィオ先輩っ!」

転移して控え室に帰ってきたフィオナ先輩に、クロエ先輩が抱きつく。

控え室はすさまじい盛り上がりだった。

「やった! 決勝! 決勝だぞ!」

「俺たちが決勝に行けるなんて」

「しかも、会場はあのウェンブリーだぜ!」

喜びの声をあげる先輩たちを見てると勝てて良かったと思う。

「すげえな、アーヴィス! あのエヴァンゲリスタ姉妹に勝っちまうなんて!」

「暫定宇宙一強くてかしこいかわいいなのが僕なので」

「ははっ、言ってやがる」

そんな輪の中で、フィオナ先輩は未だに現実を受け止め切れてないという顔でぼんやりしていた。

全力で手を伸ばしていた夢が、気づいたら本当に手の中にあって。

その事実を、ちゃんと受け止めるのに少し時間がかかってるんだろう。

不意に部屋に入ってきたのは、二人の少女だった。

「フィオナさんと、副隊長さん。それから一年生策士さんはいるかしら」

「ね、姉様。いきなり入室というのはさすがに失礼では」

「いいのよ、こういうのは思い立ったらすぐ行動することが大切なの。人生は有限なんだから」

堂々と周囲を見回すメリアさんと、怖々視線を彷徨わせながら、姉の背中に隠れるレリアさん。

外見はそっくりなのに、性格は全然違う二人らしい。

「なんでしょうか」

二人を睨んで言ったのは、クロエ先輩だった。

警戒心の強いクロエ先輩は、フィオナ先輩を庇うように前に立っている。

「貴方すごくよかった! 私の想像を見事に超えてくれた!」

「え?」

「すごく良いプレーだったわ! 瞬時に、安全な位置を見極めてそこに突き飛ばすなんて! 自分が切られる恐怖もあるでしょうに、なんて精神力と判断力! 貴方みたいな選手がチームには大切なの」

クロエ先輩の肩を掴んでメリアさんは言う。

「貴方は良い選手よ。自信を持ってがんばってね」

クロエ先輩はしばしの間呆然とメリアさんを見つめてから、

「あ、ありがとうございます……」

頬を緩ませて、顔を俯ける。

ちょろかった。

思っていたより大分ちょろかった。

そりゃ、世代を代表する有名選手から褒められたらうれしくもなるだろうけど。

「フィオナさんもおめでとう! 本当に良い試合だったわね。私、こんなに楽しかった試合久しぶり!」

「ありがとう。私も楽しかった」

微笑み返すフィオナ先輩に、メリアさんは小声で耳打ちする。

「右膝、一度診てもらっておきなさい。知り合いの名医を紹介するから」

肩をぽんと叩いて、それから近くにいた僕に向き直った。

「貴方はうちに転校するのよね!」

「しませんから」

「いいじゃない。楽しいわよ、聖アイレス。お祈りの時間とかあるし」

「そもそも僕男ですって」

「大丈夫。今のメイクってすごいのよ?」

「嫌です。捕まりたくないので」

「ちょっとだけ! ほんのちょっと! 一日だけでいいから!」

「断固として拒否させていただきます」

「けち」

唇をとがらせて言ってから、メリアさんはにっと目を細める。

「貴方と話すのは本当に楽しいわ。私の想定とちょっと違う言葉を返してくれるから。また、お話ししに行くから、そのときはお相手してね」

右手を振って「それでは皆様、ごきげんよう」と控え室を後にする。

慌てた様子でぺこりと一礼して、レリアさんも後を追うように出て行った。

嵐のような人だったな……。

なんか気に入られたっぽいし。

変人に好かれやすくなる能力でも持ってるんだろうか、僕。

まあ、悪い人ではなさそうだし、話してて楽しいと言われるのは光栄なことではあるけれど。

フィオナ先輩が、すっと立ち上がって控え室を出て行ったのはそのときだった。

感情の無い、ぼんやりとした顔に僕は心配になる。

またため込んで余計なこととか考えてないと良いけど。

そう思いつつ、こっそり後をつけていると、後ろから肩を叩かれた。

「アーヴィスくん、何をしてるのかな?」

クロエ先輩がにっこり目を細めていた。

あ、死んだな僕。

「いえ、ちょっと番狂わせ起こして聖アイレス倒したチームのエースっておいしい立ち位置を最大限利用して、ちやほやされてこようかな、と」

「フィオ先輩に不相応で下賤で低俗な感情を抱いてるとしたら……」

「抱いてないです! 全然まったくこれっぽっちも抱いてないです!」

「本当でしょうね……!!」

至近距離から鋭い目で僕を睨むクロエ先輩。

怖い。

すげえ怖い。

「本当です! 僕は妹以外の女子には比較的興味が無い方です!」

「……しょうがないわね。その残念さに免じて許してあげる」

「ありがたき幸せ!」

「行くわよ」

「え?」

クロエ先輩に袖を引かれて僕は驚く。

「行くってどこに?」

「フィオ先輩は、消耗してる。もし階段で躓いて転倒でもしたら、それこそ選手生命が終わってしまうかもしれない。ウェンブリーにも立てなくなる。それだけは絶対に嫌だから」

早足でフィオナ先輩の後を追いながら、言った。

「貴方の魔術なら、転んで怪我する前に助けることもできるでしょ。私が間に合わなかったら、お願い」

本当にフィオナ先輩のことを大切に思ってるんだな、と思う。

やさしいひとなんだよな。

ちょっと、いや大分怖いけど。

フィオナ先輩は、歩いて行ったのは会場の人気が少ないエリアだった。

早く追いつかないと、と角を飛び出そうとしてクロエ先輩は慌てて足を止めて引き返した。

「どうしたんですか」

「……見ればわかるわ」

そう指さして、僕の後ろに回る。

何事だろう、と顔だけ出して覗き込む。

薄暗い通路の真ん中で、フィオナ先輩は壁に額を押しつけて泣いていた。

肩がふるえていた。

涙は次から次へとこぼれ落ちて。

止めようとしてるのに、止められないみたいだった。

「フィオ先輩、良かった……良かったですね……」

クロエ先輩も泣いてるし。

勝てて良かった。

僕は泣き虫な先輩たちを見ながら頬を緩めた。