軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 ベスト4

「すごい! すごいよアーヴィスくん! ベスト4だよ!」

フィオナ先輩は興奮した様子で言った。

「あの城塞戦術をあんなに簡単に破っちまうなんて……!!」

「お前、ほんとにすげえやつだったんだな!」

「アーヴィスくんがいれば優勝できるかも!」

先輩たちに褒められて僕はうきうきだった。

「任せてください。最強無敵IQ二億七千万の天才優等生である僕には、このくらい余裕です」

頭良い策士キャラ的な感じを出しつつ僕は言う。

「それに、今回は別働隊のデニス先輩たちががんばってくれたおかげですから」

「そうだよ! すげえな、デニス!」

「あの城塞戦術を破ったんだぞ、お前!」

デニス先輩はびっくりした顔をしてから、

「あ、ありがとう」

と照れくさそうに言った。

先輩たちがいてくれてよかったと思う。

ほんと、先輩たちのおかげで成功した作戦だからな。

僕の作戦は、城塞戦術の地盤を崩壊させること。

つまり、城塞そのものを落とし穴に落とすことだった。

まず、最低限支えられるだけの強度が残るよう気をつけつつ、地盤の下に穴を掘って空洞を作る。

城塞が崩壊するのに必要な深さと広さまで穴を開けてから、水魔術で地盤をゆるくして一気に崩落させたわけだ。

不安要素としては、崩落前に看破されると一気に劣勢に陥ると言うことだけど、なんとかうまくいったみたいでよかった。

最前線で、めっちゃ苦戦してる演技をしまくった甲斐があったぜ。

「少し話したい相手がいるんだが」

選手控え室に訪ねてきたのは、アムステルリッツの主将だった。

「ああ、ウィンストンくん。誰のこと?」

フィオナ先輩が言う。

国の世代別代表に選ばれている二人は、顔見知りらしい。

「あの男……フィオナ先輩に話しかけるなんて……」

クロエ先輩はやっぱり殺し屋の目をしていた。

試合前フィオナ先輩を励ましてたのバレたらこれ僕殺されるんじゃないかな。

絶対に隠し通さなければ。

そう強く決意する。

「あの作戦を立てたやつだ。フィオナ・リートが立てる作戦ではないと思ったが」

「ああ、それならアーヴィスくんだよ。一年の」

「一年であの作戦を……」

アムステルリッツ主将は真剣な顔で言ってから僕に近づいてくる。

「君が、作戦の立案者か」

やばい、この人背高い。魔術師なのにガタイ良い。

『卑怯な作戦使いやがって! ぶん殴ってやる!!』

みたいなことになるんじゃなかろうか。

やめて! 暴力反対!

ラブ&ピースだよ! 愛は世界を救うんだよ!

「争いは新たな争いを生むだけです。心を整え、怒りを静めましょう。誰かを許すこと。それこそが、本当の強さなのです」

僕は心優しい牧師的な身振りで言った。

「こいつは何を言っているんだ?」

「ごめん、ちょっと変わった子で」

あれ?

なんかあきれられてるっぽい?

完璧な対応だと思ったんだけどな。

僕の圧倒的カリスマにみんながひれ伏して、愛を教義にした新たな世界的宗教が誕生するところまで妄想したのに。

首をひねる僕に、アムステルリッツの主将は言った。

「見事な戦いだった。あそこまで見事に城塞戦術を破るとは。我々もまだまだだと気づかされた。ありがとう。次の試合での活躍を期待してる」

大きな手で肩を叩かれて困惑する。

良い人だった。

やっぱり主将に選ばれたり代表選手に選ばれるような人は人間もできてるものなのかもしれない。

「来ましたっ! アーヴィス様ハーレムに新たなメンバーが――むぐっ」

ん?

今微かに聞き覚えのある声がしたような。

最近たまにあるんだよな。

Fクラス生がここにいるわけないし、姿も見えないから気のせいだとは思うんだけど。

ともあれ、無事Aランク校のアムステルリッツ魔道学園を破り、ベスト4に進出した僕らだった。

その日の帰り道は、リナリーさんと一緒だった。

リナリーさんは試合の内容に納得がいってないようで、隣でずっとむくれていた。

「私もわかってるのよ。あれが最善だったっていうのはその通りだと思う。でも、私は決定力と撃破率が武器だから、選手としてああいう使われ方は納得できないというか」

「大丈夫、わかってるから。今回みたいに特別な制約のある試合以外は、最前線で戦ってもらうつもりだし」

「それなら、いいけど」

まだ不満げにうなずいてから、リナリーさんは言う。

「私、今日すごく我慢したの。チームが勝たないと次の試合はないから、好きじゃないディフェンスも全力でやった」

「うん、おかげですごく助かった。リナリーさんいないと、あの強力な超長距離攻撃相手に、あそこまで耐えることはできなかっただろうから」

「だから、その……」

リナリーさんは少しの間言いよどむ。

それから、意を決したように僕を見つめて言った。

「私は、ご褒美を要求します」

「ご褒美?」

「うん、ご褒美」

「わ、わかった……」

僕の指示でさせたくない仕事をしてもらったわけだし、たしかに対価は払ってしかるべきかもしれない。

「こ、これで勘弁してください。お願いします。うちには病弱な妹が」

「……これは何?」

「僕ができる精一杯の誠意。半額もやしが十袋買える百アイオライト銅貨だけど」

「…………」

リナリーさんは無の顔で僕を見つめて言った。

「いらないから。お金は求めてないから」

「え!? ほんと!? よかった!」

心から安堵する。

リナリーさんが良い人で良かった。

僕だったら間違いなくお金要求してるもん。

「じゃあ、何が欲しいの?」

「そ、それは……」

リナリーさんは、途端言葉に詰まる。

そっぽを向いて、視線を彷徨わせる。

「ど、どうしよう……ハグは心臓止まっちゃうし、頭ぽんぽんは息できなくなるし……」

僕は触れると致死性の毒がある生き物なんだろうか。

「でも、折角のチャンスだしアーヴィスくんがしてくれたらうれしくて幸せいっぱいになれることをお願いしたいから、えっと」

「さっきから、思考だだ漏れてるけど大丈夫?」

「い、いいの! 私アーヴィスくんを絶対振り向かせるつもりだし! そのためには、アーヴィスくんのこと好きって気持ちはどんどん出していきたいと思うし」

顔を真っ赤にして言うリナリーさん。

「……ど、どうも」

そこまでストレートに言われると、僕も照れてどうしていいのかわからなくなってしまう。

「アーヴィス様! いけません! それは、間違った道! 貴方が進むべきはドラ×アヴィ! ドラ×アヴィこそが至高――むぐっ」

なんだか、微かにFクラス女子の声が聞こえた気がするけど、やっぱり気のせいだろう。

疲れてるのかな、僕。

最近試合の準備で忙しかったから。

「手! 手を繋ぎましょう!」

リナリーさんは、意を決した様子で言った。

「う、うん、わかった」

ただ事じゃ無い感じに、僕まで緊張してきてしまう。

思えば、エリス以外の女子と手を繋ぐなんて生まれて初めてのような。

やばい、手汗大丈夫かな。

変に思われないと良いんだけど。

しかし、男として生まれた以上、僕も動揺してるところを見られたくないという見栄がある。

いや、僕からすると手を繋ぐなんて日常茶飯事だからね。

呼吸みたいなものだから。意識せずとも自然にしてるというか?

余裕がある体を装いつつ手を差しだす。

リナリーさんはじっと僕の右手を見つめてから、おずおずと手を差しだして握った。

――僕の制服の袖を。

「そこ?」

「い、いいの。直接は手汗とか気になるし。今はこれでも十分幸せというか」

顔を俯けて言うリナリーさんは耳まで真っ赤になっていた。

二人並んで帰り道を歩く。

いつもより近い距離。

会話はうまく続かなかった。

強気で自分をしっかり持っていて、怖いものなんてなさそうなリナリーさんなのに、今は人見知りの女の子みたいにただ引かれるがまま僕についてくるばかり。

一応ご褒美のはずなんだけど、こんなんでいいのだろうか。

口下手で申し訳ないな、と思っているうちに、アイオライト王家の別邸――リナリーさんの家に着いてしまう。

相変わらずすごい豪邸だなぁ、と素直に感心しつつ、リナリーさんに向き直った。

「着いたよ」

「……もうちょっと」

「え?」

「もうちょっとだけ。お願い」

「わかった」

学校みたいに大きな豪邸の周りを意味も無く一周する。

格子の柵の向こう、運動場みたいに広い庭園では季節の花が咲き誇っていた。

再び門の前で、リナリーさんは手を離す。

顔を俯けて、おずおずと言った。

「す、すごくよかった」

よかったんだ。

僕何もしてないけどあれでよかったんだ。

「アーヴィスくんはどうだった?」

「どうって?」

「ドキドキ、してくれてたらうれしいなぁ、みたいな」

真っ赤な顔で言ったその破壊力はすさまじくて、僕は思わず頭を抑える。

「……今、すごいドキドキした」

絞り出すように言った僕に、「ほんと!?」とリナリーさんは声を弾ませて言った。