軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40 準々決勝

一回戦の勝利は、追い詰められていた上級生たちの心にも良い影響を及ぼした。

Aランク校初の一回戦敗退。

絶対に許されない不名誉な記録を回避し、さらに春の大会で敗れたローザンヌ大付属を倒したことでグランヴァリア王立は波に乗った。

二回戦のCランク校。三回戦のBランク校を難なく倒し、グランヴァリア王立はベスト8に進出。

Aランク校として、最低限の結果は残したことになる。

「よかった。ほんとに安心した」

ほっとした様子のフィオナ先輩。

気遣い屋で、みんなを引っ張っているフィオナ先輩は、やっぱり試合前いつも吐いていて。

僕はフィオナ先輩がこっそり抜け出すのを見つけては、追いかけて「大丈夫ですよ」「絶対勝てます」と気休め程度ながら言葉をかけたりしていた。

そんな姿を見ている分、僕からするとさらに感慨深いものがある。

一方、世間では大物貴族の収賄事件が大きな問題として紙面を騒がせていた。

零細出版社の社長が証拠を見つけて、一気に優勢に立っているとか。

ともあれ、そんなことは学生の僕らにはまったく関係ないことである。

「次の試合勝てばベスト4! これは優勝もあるかも知れないぞ!」

盛り上がっていた先輩たちは、次の対戦相手が決まって意気消沈する。

「アムステルリッツか……」

「アムステルリッツはきつい……」

「毎年ベスト4に入ってる学校じゃねえか……」

肩を落とす先輩たちと、

「強豪だね」

真剣な目で言うフィオナ先輩。

僕はノートを見つめる。

ローザンヌ大付属がくれた出場チームのデータが載ったノートだ。

それによると、次の相手、アムステルリッツ魔道学園はAランク。

新聞での戦力分析では、四位の相手らしい。

『攻撃A 守備SS 連携A 個人能力A 戦術理解S 質の高い選手がバランス良く揃っている。伝統の城塞戦術は強力で、守りの堅さは全国一。控えの選手層も厚い。エースであり、大将を努めるウィンストン・ウェルズは国別代表にも選ばれている有力選手』

三回戦の映像を見るに、なるほどこれはかなりの強豪校。

まともにやれば、少し分が悪い相手かもしれない。

正攻法で戦えば。

そして、僕は本来正攻法よりも邪道な戦術の方が得意な人間だったりする。

「先輩、作戦があるんですけど」

僕が提案した作戦に、先輩たちは目を丸くした。

「そ、そんな作戦があるのか……?」

「見たことないぞ、そんな戦い方」

「でも、ルールブックには反してないから、反則というわけではないが」

困惑する先輩たち。

「勝てます。この方法なら、ほぼ間違いなく勝てます」

僕は言う。

「ただ、まだ試合に出てない控えの三年生に出場して協力してもらわないといけないんですけど」

「俺たちが試合に出るのか?」

「正直、今のチームで戦えるような実力ないが俺たち……」

不安げな三年の先輩たち。

たしかに、彼らはチームの中の序列でも一番下に位置する二人だった。

三年だから。

思い出作りのために選ばれた代表選手。

そんな陰口も耳にしたことがある。

しかし、僕の作戦には二人の先輩の力が必要だった。

二人は、チームの中でもトップクラスに、土属性魔術が得意な二人だったから。

「賭けてみよう」

言ったのは、フィオナ先輩だった。

「他に有力な作戦も無いし、何よりアーヴィスくんはFクラスを優勝まで導いてる。その彼が立てた作戦なら、賭けてみる価値はあると思うんだ」

先輩たちはしばしの間考えてから、

「そうだな、どうせダメで元々だ」

「三年生は最後の大会だしな」

「Fクラスを優勝させたって言う彼の作戦なら、わたしたちも勝たせてくれるかも知れないし」

とうなずいてくれた。

「絶対に勝って。勝たないと許さないから」

そう僕を見つめたクロエ先輩の姿がやけに印象に残った。

それから、関わってもらうメンバーを集めて、具体的な作戦を詰めていく。

最弱と呼ばれている世代とは言え、Aランク校代表選手の実力にはやっぱりすさまじいものがあって、前日に行ったテストの結果は想定以上だった。

「すごい……」

「ずっと控えだった俺にこんなことができるなんて……」

興奮した様子で言う先輩たち。

何を提案したかって?

そりゃ、もちろんFクラスお得意のあれですとも。

◇◇◇◇◇◇◇

side:アムステルリッツ魔道学園主将、ウィンストン・ウェルズ

ウィンストンにとって、それは勝って当然の試合だった。

敵は落ち目のグランヴァリア王立。

去年ならともかく、今年はまず負けるわけがない相手だ。

まず、選手の質が違いすぎる。

(一年の三人はなかなか優秀なようだが、あとはフィオナ・リートだけ。十五人出場する選手のうち、八人はうちなら三軍レベルの選手だ。うちに勝てるわけがない)

しかし、ウィンストンは油断しているわけではない。

客観性の高い一つの事実としてそう認識しているだけだ。

そして、どんな敵に対しても、自らの持つ最高の戦術で叩きつぶすのがアムステルリッツの伝統である。

敵によって何かを変える必要は無い。

ただ、自分たちの持つ最高のものを出せば勝てると彼らは知っている。

「城塞建築、開始」

「「「はい!」」」

一斉に作業に取りかかるアムステルリッツの選手たち。

まず作られたのは土魔術による巨大な土の防壁。水魔術で中の水分を跳ばしつつ、炎熱系魔術がそれを焼き固める。

それは、入学以来彼らが毎日繰り返してきた作業工程。

その早さは既に、職人が作る芸術の域にまで達している。

フィールドに作り上げられたのは、数ヶ月かけて作られたものにしか見えない巨大な城塞だった。

「す、すげえ……」

「この僅かな時間で、あそこまで見事な城塞を作り上げるとは」

「これが、アムステルリッツの城塞戦術……」

息を呑む観客たち。

「俺は十年アムステルリッツを見てきたが、今年のアムステルリッツは良いぜ。突出した選手はいないが、練度は一番だ。グランヴァリアもあわれだね。アムステルリッツじゃなければ、チャンスもあったものを」

一人の観客が腕を組んで言う。

「城塞戦術の前には、際だった個も無に帰すからな。高台の城塞から撃ち出される遠距離攻撃魔術。そもそも、近づくことさえ許されねえ。あいつらに勝機はねえよ。残念ながらな」

その見立ては、会場中の共通認識でもあった。

「木々の影に隠れるつもりだろうな」

ウィンストンは、城塞の上から中央の森を見つめて言う。

「焼き払え」

そして放たれる、巨大な火球。

高所を活かした攻撃が、遠くにいる敵へ一斉に向かう。

可能性が高そうなポイントを攻撃すると、虫の巣をつついたみたいに慌てふためいたグランヴァリアの選手たちが出てきた。

(この距離で攻撃が届くとは思っていなかったか。愚かな)

ウィンストンはため息を吐く。

風魔術で攻撃の射程距離を伸ばすなど、長距離魔術戦闘を得意とするアムステルリッツにとっては当然の戦術だというのに。

グランヴァリアはなんとか、射程距離まで間合いを詰めようとする。

何人も犠牲を出しながら、なんとか前進して、しかし放った魔術は届くことなく城塞の壁に空しく直撃するばかり。

(風魔術による追い風は、敵の遠距離魔術への防御にもなる)

「隊長ッ!? 上から隕石が!?」

驚きの声が上がったのはそのときだった。

影が一瞬視界を横切る。

見上げたそこにあったのは、巨大な氷の塊。

「問題ない。撃ち落とせ」

指示により、一斉に放たれる炎魔術。

氷の隕石は、見る見るうちに小さくなり、水蒸気となって消える。

(なるほど、わかっているやつもいるらしい)

おそらく、優秀な一年の一人だろう。

ヴァレンシュタイン家の『氷雪姫』

優秀な風使いがいるというのも、データ班が作ってくれた資料に書いてあったのをウィンストンは把握している。

(大したものだ。一年であれだけの魔術を放てるとは)

ウィンストンは眼下の森から、姿を見せる小さな姿を見据えて言う。

(だが、それだけだ。一人天才がいたところで、どうすることもできない。我々は、四軍まであるチームから最も遠距離攻撃が得意な十五人を集めてチームを編成している。数の前には無力なんだよ、グランヴァリア)

放たれた巨大な火球が炸裂する。

「直撃を確認しました! 一人撃破されたのを確認!」

『遠視』の水魔術で状況を確認し報告するアムステルリッツの選手。

一人、また一人とグランヴァリアの選手が撃破される。

試合は、アムステルリッツの圧勝で終わる。

そう誰もが思っていた。