軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 組み合わせ抽選会

全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) の組み合わせ抽選会は王都で行われた。

くじを引くのは学院最強、フィオナ・リート。

フィオナ先輩は、大会が始まる一週間前に強化選手の合宿から帰って来ていた。

青みがかった竜胆色のショートヘアー。

すらりと伸びた長身で、スタイルが良く足が長い。

凜としたボーイッシュな印象の先輩だった。

『君がアーヴィスくんか。すごいって聞いてるよ。よろしく』

先輩が上級生たちに好かれているのは、反応を見ればすぐにわかった。

特に熱烈に歓迎していたのは、二年のクロエ先輩。

『フィオ先輩! お帰りなさい! ずっと会いたかったですっ!』

助走付きで抱きついてからは、ぎゅっと抱きついて離れない。

周囲の男が傍を通ると、「がるる」と喉を鳴らして威嚇する。

『下劣な目で見ないでもらえる? 先輩が汚れるから』

『いや、見てないんだけど……』

困惑するレオンの姿が新鮮だった。

ってか、クロエ先輩こんな人だっけ?

もっとしっかりしてなかった?

しかし、これも先輩たちにとっては日常の風景らしい。

どうやらクロエ先輩は、フィオナ先輩に対してだけは甘えに甘えてあんなことになってしまうようだった。

飼い主大好きなわんこみたいな先輩だな……。

男を見ると、ところ構わず吠えるところも警戒心の強い小型犬っぽいし。

そう考えると、あれはあれで愛らしい存在なのかもしれない。

抽選会場には、Aランクの強豪四校と、唯一のSランク校。そして、全国の予選を勝ち抜いた名だたる魔術学院の生徒たちが集まっている。

不意になつかしい声で呼び止められたのはそのときだった。

「よう、アーヴィス」

「ラルフ!」

思わぬ再会に、僕の胸は弾む。

「もしかして、ラルフも?」

予選を勝ち抜いたんだろうか。

Eランク校が出場ってすごい快挙だぞ、と興奮する僕にラルフは言う。

「いや、普通に一回戦負け」

「……まあ、そうだよな」

「みんながんばって良いところまではいったんだけどな。相手がCランクってのはちょっときつかった」

肩をすくめて言うラルフ。

しかし、それほど落ち込んでいるわけではないらしい。

「俺たちには来年もあるからな。それに、お前のおかげでうちも随分居心地のいい学校になったんだよ。あれ以来ゲイルのやつ、しゅんとして王みたいに振る舞わなくなってさ」

「そうなんだ」

「ああ。負けて初めて人の痛みってのに気づいたんじゃないか? 平民をいじめるのをやめるようになったし。もちろん、だからってすぐに仲良くなるのは無理だけど」

あの学校も、良い方向に進んでいるらしい。

退学させられたとはいえ、やるだけやってさよならした身としては、変なことになってなくて少しほっとした。

「今日は、たまたま王都に用事があったから寄ったんだよ。ってか、お前すごいな!あのグランヴァリア王立の代表選手に一年から選ばれるなんて!」

目を見開いて言うラルフ。

「彗星のごとく登場した天才転校生にして暫定宇宙一強くてかっこいいのが僕だからね」

「よかった。相変わらずバカっぽくて安心した」

安心されてしまった。

失礼な。

頭脳明晰才色兼備焼魚定食な僕だというのに。

「試合がんばれよ。みんなで速報にかじりついて応援してるから」

「ありがとう」

素直にうれしい言葉だった。

ラルフや地元の連中を喜ばせるためにもがんばらないと。

会場である広いホールの中、自分の席に戻る。

トーナメントの組み合わせを決める抽選会は滞りなく進んでいる。

各校の主将がくじをひき番号を掲げるたび、観覧する選手たちからどよめきが漏れる。

あそこに入りたい。

あそことは戦いたくない。

そんな、それぞれの思いが交差しているのだろう。

「続いて、グランヴァリア王立。くじをひいてください」

たくさんの視線が注がれる壇上で、フィオナ先輩が箱の中のくじをひく。

中央に置かれたマイクの前に立ち、くじの番号を掲げて言った。

「グランヴァリア王立、9のBです」

響いたのはざわめきだった。

「おい、9のAにいるのはローザンヌ大付属だぜ」

強豪同士の衝突がほとんどなかった今回の抽選で、それは唯一の結果が予測できない対戦カードだった。

そして、グランヴァリア王立にとっては少し因縁がある相手でもある。

「あの、春の大会でグランヴァリアに大勝したって言う?」

「そうだ。今年のBランク校の中でも勢いがあるチームの一つだぞ」

「こりゃAランク校初の一回戦敗退が現実味を帯びてきたな」

ざわめきが続く中で、一回戦の相手はローザンヌ大付属に決まった。

「フィオ先輩! 落ち込まないでください! 勝てば良いだけのことですっ!」

励ますクロエ先輩と、肩を落とすフィオナ先輩。

「ごめん……多分最悪のところひいちゃった」

それは事実だった。

Aランク校とSランク校が綺麗に別れた今回の抽選で、グランヴァリア王立は初戦で春大会惨敗したローザンヌ大付属と。さらにベスト8でも同じAランクのアムステルリッツ魔道学園と戦わなければならない位置にある。

「たしかに、見れば見るほど状況は芳しくないかもね」

「ん? レオン、何見てるの?」

「 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) は戦力分析が魔術新聞に載るんだよ。各校の地位と名誉に直結する大きな大会だから」

「ほんとだ。載ってる」

紙面には、全チームの戦力分析とその順位が載せられている。

一位から四位まで何の波乱もなくSランク校とうち以外のAランク校が続いていた。

対戦相手のローザンヌ大付属は七位。

グランヴァリア王立は十三位だった。

「……これって大分やばいことじゃ」

「そうだね。Aランク校が二桁っていうのは前代未聞かも」

困った顔のレオン。

「とりあえず、この情報はみんなには隠した方が」

「うん、ボクもそう思う。多分ショックを受けると思うし」

小声で言い合う。

「レオ×アヴィ! ラル×アヴィに続いて濃厚なレオ×アヴィですっ」

どこからか聞き覚えのある声がしたけれど、うまく聞き取れなかった。

多分聞き違いだよな。

Fクラスの女子がここにいるはずないし。

それからの時間はあっという間に過ぎていった。

大会が始まり、日程が消化され――

そして、一回戦の日がやってくる。

「行ってらっしゃいませ、アーヴィス様」

「兄様、がんばってね!」

支えてくれる二人に見送られて、

「うん。行ってくる」

僕は、戦いの地へと出発した。