軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 決戦前夜

「なるほど、屋上で誰かが不審な動きをしているのが見えた、と」

エメリ先生は言った。

リナリー王女暗殺未遂事件は、学院中を騒がせる大事件になった。

調査が行われたが犯人の痕跡はまったく無く、学院は暗殺未遂なのか、事故なのか、未だ結論を出せずにいる。

「あれは暗殺未遂です。それも、相手はかなり手練れの暗殺者ではないかと。直後僕が屋上に行ったときには、証拠を一つも残さず姿を消してましたから」

「そうだね。誰かがいたことを示す証拠は君の目撃証言だけ。この学院のセキュリティを突破できる者などいないと、学年主任は事故で押し通そうとしてるし。おそらく、そこまで最初から計算していたんだろう」

エメリ先生はうなずいて言う。

「敵は単なる外部犯だけじゃない。議会や国の上層部、王立警備隊の中にも混じっている。もしかしたら学院の中にだっているかもしれない。私としては、間違いなく敵ではない君に、引き続き王女の警護をお願いしたいんだけど」

「僕も是非協力したいところなんですけど、ただ一つ問題がありまして」

「問題?」

「最近、僕リナリーさんに避けられてるんです。声をかけても逃げられちゃうというか」

僕はここ数日のリナリーさんとのやりとりを思い返しながら言う。

いつも通り声をかけているはずなのに、リナリーさんは理由を作って逃げていってしまう。

何か悪いことをしただろうか。

他人にそこまで興味が無い僕だけど、仲良くなれたと思っていた相手にあそこまで避けられると、少しばかり傷つくものがある。

「それはどうしてだろう? 君が何か嫌われるようなことをしたとか?」

「してないと思うんですよね。僕も理由がわからなくて」

……やっぱりくさかったんだろうか。

助けた際不可抗力で密着したことを思いだす。

勝手に深読みして少し傷つく僕だった。

「まあ、なんでもいいや」

「良くないんですけど。全然良くないんですけど」

「私にとっては、リナリー王女さえ守れればそれでいいからね。人間の心なんてどんなに考えても理解なんてできないし。そんなことして時間を浪費するよりは魔術の研究してる方が建設的じゃないかな」

「そんなに割り切れないですよ。完全にわかりあうことができないってところは同意見ですけど」

やっぱり天才というのは割り切り方が常人と違うと思う。

僕なんて、わからないのにわかりたくて。一生右往左往してそうなのに。

「とにかく、君もがんばってみてよ。無理なら無理で、それは仕方ないことだからさ」

先生は無理でも仕方ない、と言ったけど、そこにも僕と見解の相違がある。

もちろん、僕にとってエリスが一番なのは間違いなくて。

エリスのためならそれ以外のすべてを切り捨てる覚悟はあるけれど。

しかし、それに関わらない範囲で、周囲の人にはなるべく幸せでいて欲しい。危険な目には遭って欲しくないし、傷ついたのなら相談に乗りたい。

それくらいの真っ当な感覚は僕も持ち合わせている。

学院や王立警備隊が当てにならない以上、僕は今までよりリナリーさんと長い時間を過ごし彼女を守らなければならないのだけど、

「あ、アーヴィスくん、ごめんなさい。今急いでるから」

そそくさと逃げられて、僕は立ち尽くす。

弁当は毎日エリスの分まで作ってきてくれるし、嫌われてるわけじゃないと思うのだけど。

でも、一緒に食べるのは断られるしな……。

女子と関わった経験が浅い僕には、メルセンヌ素数が無限に存在することを証明するくらい難しい問題だった。

しかし、そんな僕を世界は待ってくれない。

Sクラスとの決勝の日が近づいていた。僕は落ち着かない日々の中で出場するSクラス生の情報を集めた。

リナリーさんと『氷雪姫』だけでなく、残りの八人に対しても、性格、行動パターン、嫌いな食べ物に至るまで集められる情報はすべて収集する。

そして自分にできる最良の作戦を立て、それをみんなに伝えた。

練習には、AクラスとCクラスの生徒も協力してくれた。

「現行の制度になって以来、Sクラスがクラス対抗戦で負けたことは一度も無い。それを劣等生と言われていたFクラスが成し遂げたら痛快だなって」

「Fクラスが優勝したら、私様たちCクラスもSクラスと対等の力を持ってるってことになるしね」

ありがたい申し出だった。

自分たちより魔術に秀でたニクラスのおかげで、より実戦的な練習をすることができる。

「そこモーションに無駄があるかな。君の力ならシングルアクションでも十分魔術を放てると思うから」

「しょうがないわね! 私様のお手本を見てなさい。ここをこうやって、こう! わかった?」

二人は魔術の使い方についても丁寧に教えてくれた。教師に見下され、見捨てられていたうちのクラスの生徒たちは、その指導のおかげでめきめきと成長した。

「我々がこんな高度な魔術が使えるようになるなんて」

「これなら、小生来年度のDクラス入りもあるかもしれませんな!」

「やや! 貴様、Fクラス鉄の結束を裏切りDクラスに寝返るというのか!」

「いやいや、誤解しますな。小生はFクラスの仲間を何より大切に思っています。その上でDクラスが迎え入れてくれるのなら、ためらいなくDクラス入りを選ぶというだけのこと」

「結局裏切ってるではないか!」

「こんな掃きだめみたいなクラス、抜け出せるなら抜け出したいに決まっておろう!」

ぽかぽか下級魔術で喧嘩するFクラス生二人。

いつも通り変人奇人が仲良し微笑ましいFクラスだった。

「このクラスは本当に良いクラスになりました。仮病後本当に体調を崩して休んでいたクドリャフカも明日は学校に来るようですし」

ドランは穏やかに微笑んで言う。

「学年主任を襲撃する必要もなくなりましたからね。以前はみんなに見下されていた我々も、今では奇跡の決勝進出を果たしたFクラスとして、応援や激励を受けることも多くて」

「よかった。襲撃まだやる気なのかと思ってたよ」

「ここまで来られたのは、すべてアーヴィス氏のおかげです。本当に何とお礼を言ったら良いか」

「そうかなぁ? えへへ、もっと褒めて」

褒められるのに慣れてないので普通にうれしくなっておかわりまで要求しちゃう僕だった。

「ここまできたら、決勝も勝ちたいよね。みんなをびっくりさせたい」

「そうですね。ただ、個人的には少し違う目標が私はあります」

「違う目標?」

「はい」

ドランはうなずいて言う。

「Sクラス生というのは本当に天才揃いなんです。こんな化け物がいるのか、と心が折られてしまいそうになるような。以前の自分なら、何一つできずにただ蹂躙されるだけだったでしょう。でも、今は違うんです。もう少しやれるんじゃないか。そんな気がする」

心の中を一つ一つ丁寧に形にしているみたいな話し方だった。

「もし、自分がSクラスを相手にちゃんと戦うことができたなら。何かが変わるような気がするんです。天才でない自分でも、この先それを受け入れて生きていけるんじゃないかって。魔術の世界ではダメだったけど、それでもあのとき自分はSクラスの天才たちに一矢報いたんだぞ、と。そんな風に思える気がする。強くなれる気がする」

「なれるよ。絶対なれる」

僕は言う。

「今僕らにできるベストを尽くそう。たとえ負けることになっても、最も美しい敗者として会場を去れるように」

「はい、隊長」

やれることはやった。

あとは今できる全力を尽くすだけ。

うなずきあう僕らを、少し離れたところで女子たちが見ていた。

「アーヴィス様×ドラン……ある」

「禁断の三角関係」

「いえ、ここはエメリ先生も加えて四角で」

「地元には昔から支えてくれた親友もいると聞いたわよ」

「五角関係……まさか、アーヴィス様ハーレム……!?」

こうして、女子たちの間で新たな薄い本が大量に生産されることになるのだが、そんなこと僕は知る由もない。