軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117 反撃

メリア・エヴァンゲリスタにとって、今回の王位継承戦は不満が残るものだった。

ローゼンベルデの魔術師たちをぎゃふんと言わせてやろうと意気込んでいたにもかかわらず、まさかの序盤で退場。

状況的に最善の判断をし、アーヴィスを逃がすことには成功したものの、学生生活最後に暴れ回ってやろうと思っていたメリアからするとこの結果には不満を感じずにはいられない。

(しかも、控え室に悪魔が押し入ってくるし。プロの魔術師たちもあっという間に無力化されちゃうし)

咄嗟の判断で控え室の排気口に避難し、拘束されずに済んだものの、狭い排気ダクトの中は居心地がいいとは言えない。

お気に入りの洋服も汚れてしまう。

とはいえ、この状況はこの状況である意味胸が弾むものではあった。

(アーネンエルベフィールドが悪魔に蹂躙されてる中で、見つからずに潜んでるってこれなかなか面白い状況じゃないかしら)

学校にテロリストが襲ってきた際、自分だけたまたま見つからずに済んで……みたいな、中学生諸氏の夢が詰まった状況ではある。

そして、自らが面白いと感じるものに対しては偏見なく素直なメリアもそうした嗜好の持ち主であった。

「姉様。どうしましょう……大変なことに……」

「大丈夫よ。それより今このシチュエーションを楽しみましょう。私これ映画で見たことあるわ。こっそり外と連絡をとって、中の様子を伝えたりするの。すごく楽しそう!」

「……姉様には心配という感情がないんですか」

「そんなことしてもしょうがないじゃない。失敗したら立て直す方法を考えるだけよ」

メリアは排気口の隙間から眼下の部屋をうかがう。

あわてて避難したので通信端末は控え室のテーブルの上だ。

どうにか回収したいものの、中には見張りの悪魔がいる。

どうしたものか、と考えていたそのときだった。

廊下の外で響く物音。

悪魔を蹴り飛ばし、中に入ってきたのは黒仮面の騎士。

(黒の機関……!)

メリアは、悪魔が無力化されたのを確認して排気口から控え室に飛び降りた。

「誰だ――」

「待って、落ち着いて。私は味方よ。貴方達に協力したいと思ってる」

「聖アイレスの策士、メリア・エヴァンゲリスタ」

「知っていてくれてうれしいわ」

メリアはにっこり目を細めて言う。

「アーヴィスくんのお友達さん」

「…………!?」

仮面の下からでもわかる動揺の兆候。

(かかった……)

メリアは口角を上げる。

彼女自身確信があったわけではない。

ただ、 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) 閉会式での悪魔騒ぎと、アイオライト王都での邪神の復活。そして今回の王位継承戦。そのすべてで彼の周辺に気になる動きがあったことを察知していただけだ。

しかし、メリアの優れた頭脳は八通りの仮説を導き出している。

そして、この問いかけにそういう反応をするということは、可能性は一つ。

「なぜそれを知っている」

「彼に聞いたの。緊急時だから私にも黒の機関の一員として手伝ってほしいって」

「しかし、そんな連絡は――」

「この状況だもの。連絡が行き届かないのは仕方ないわ。彼はフィールドの中に閉じ込められているわけだし」

メリアは言う。

「私がこの事実を知っている。それが何より、私がアーヴィスくんに聞いてるって証拠でしょう? ね、私にも手伝わせて」

「ふむ。ならば、一つだけ条件がある」

「条件?」

「世界の闇と戦う秘密結社はかっこいいと思うか?」

メリアは少しの間押し黙ってから言う。

「最高だと思うわ!」

「よし! 君は仲間だ! 至急戦闘用スーツを持ってこさせる」

「二つお願いできる? 妹も一緒にやりたいって言ってるから」

「レリア・エヴァンゲリスタもか! これは頼もしいな! 頼む!」

本部に連絡を送る黒仮面の騎士。

排気ダクトから降りたレリアは、あきれた目で姉に言った。

「……姉様。貴方って人は」

「人生一度きりよ。だったら思う存分楽しまないと損じゃない?」

メリアはにっと目を細めた。

◇◇◇◇◇◇◇

選び取った選択の対価は安くなかった。

速さではスコーピオンに分があるものの、牛頭の怪物の攻撃は一発一発が即死級。

加えて、動けないリディアから気をそらしながらの戦いだ。

悟られずに殺すために特化した技能を持つスコーピオンには最も苦手な分野。

時が経つにつれ、怪物の攻撃がスコーピオンを捉え始める。

そして遂に、強烈な一撃がスコーピオンに直撃した。

「――――!!」

巨人に蹴り飛ばされたかのように地面を転がるスコーピオンの体。

後ろに跳ぶことで衝撃をいなしたものの、それでも即死を免れる程度の効果しかなかった。

「がはっ……」

痛みなんて感覚には慣れているし苦にならない。

しかし、現実として体が動かない。

(右腕と肋骨をやられたか……)

もう時間を稼ぐことさえ難しい。

逃げるしかないのは明白だった。

これ以上戦ったところで自分にできることは何もない。

(逃げに徹すれば、まだなんとか生き残る道は)

よろめきながら立ち上がったスコーピオンの視界に映ったのは、リディアに斧を振りかぶる怪物の姿。

気がつくと地面を蹴っている。

渾身の氷の短刀は、怪物の手を止めるくらいの効果は発揮してくれた。

「エミールくん、だめ! 逃げて!」

言葉はむしろ逆効果だった。

この状況で、自分にそんなことを言ってくれる。

やっぱりこの人は良い人だ。

だから助けたい。

彼女のためじゃない。何より、自分のために。

もしここで彼女を助けることができたなら、空っぽな自分の人生にも意味があったんじゃないかって思えるから。

しかし、終わりの時は無慈悲に訪れる。

振り抜かれた右腕がスコーピオンを捉える。

壁に叩きつけられて、びくんと一度痙攣してからスコーピオンは倒れ込む。

「エミールくん……!!」

響く悲鳴にスコーピオンは申し訳ない気持ちになる。

ぼんやりとした視界の中で怪物が近づいてくるのが見える。

上段に振りかぶられる大斧。

終わった、か……。

遠のく意識の中で、彼の耳に届いたのは一つの声だった。

「褒めてあげましょう。よく時間を稼いでくれました」

瞬間、黒衣の仮面騎士たちが怪物に殺到した。