軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114 王位継承戦7

『 穿つ灼熱の千剣(レーヴァテイン) 』

豪雨のように降り注ぐ炎の大剣。

触れたものすべてを蒸発させるそれは――

『 絶対神政(テオクラティア) 』

重力の檻に囚われて地に落ち大地を赤く染める。

「ったく。噂通りいかれた性能してやがる」

「そうでもありません。私の体に傷をつけたのは貴方が久しぶりです。怪我を抱えてそれとは。さすがはローゼンベルデの至宝というところでしょうか」

「かすり傷ひとつで褒められるとは。俺も落ちたもんだね」

ヴィルヘルムは口角を上げる。

「俺も久しぶりだ。こんなに心が騒ぐのはよ。まるで、魔術を始めたガキの頃に戻ったみてえだ。感謝する。立ち塞がってくれてありがとよ」

それは彼の混じりっけ無しの本音だった。

高みへの挑戦。

それこそがヴィルヘルムが最も好むもの。

「超えさせてもらうぜ、世界最強」

「超えられるものなら」

二人が術式を起動させるその直前だった。

聞こえてきたのは悲鳴。

百戦錬磨のプロフェッショナルであるはずの魔術師たちが、赤子のように逃げ惑っている。

「なんだ……?」

一体何が起きた。

山上を見上げるその視線の先で、振り向いた一人の魔術師の体が塩に変わる。

煙のように大地に山を作る。

あらゆる生者を塩に変えるその力をヴィルヘルムは知っていた。

アーネンエルベ宮殿地下に封印された、悪徳の街を作った『色欲の邪神』の力。

「一時停戦といかねえか。何か相当にまずいことが起きてる気がする」

「同感です」

人が塩の山に変わっていく凄惨な光景の中、黒山羊の頭をした男は悠然と現れた。

◇◇◇◇◇◇◇

「……妙だな。様子がどうにもおかしい」

「そうですね。上で何かあったのでしょうか」

離れた場所から遠視の水魔術(エインズワースさんの)で様子をうかがっていた僕らは状況を見極めようと山岳地帯を見回す。

怪物を前にしたように逃げる男の姿が、一瞬で塩の山に変わり地面に落ちる。

目の前の光景が理解できなかった。

何が……何が起きている……?

「……まさか、邪神の力」

マティウス王子が言った。

「邪神?」

「ローゼンベルデの伝承だ。見た者を塩に変える『色欲の邪神』。その体の一部がアーネンエルベ宮殿の地下に封印されている」

『強欲の邪神』が持っていた完全回復能力に類する力。

しかし、そうだとしてもこれはあまりに無茶苦茶すぎる。

「なんで邪神が目覚めてるんですか」

「わからない。何者かが目覚めさせたのか」

「もう王位継承戦どころじゃありません。国中の戦力を集めて邪神の迎撃に当たるよう指示を出してください」

「しかし、まだ王位継承戦の途中――」

「それどころじゃないって言ってるんです。優先順位を考えてください。王の座より命の方がずっと大事です」

「わ、わかった」

マティウス王子は通信端末で統括本部に連絡する。

「こちらマティウス。異常事態だ。継承戦の中止と邪神討伐のため国の全戦力を動かすよう進言する」

『申し訳ありません! こちらもそれどころでは』

「何が起きた?」

『怪物が、怪物が統括本部に! 警備隊も歯が立たなくて。ひっ、やめ、やめろ!』

悲鳴と共に通信が途切れる。

宮殿に連絡しても結果は同じだった。

アーネンエルベ宮殿とフィールドは何者かに蹂躙され、正常な機能を失おうとしている。

「外を制圧したのは中の魔術師を外に逃がさないためだと思われます。敵はここで継承戦に参加した者を一人残らず抹殺しようとしている」

エインズワースさんの言葉に、マティウス王子が言った。

「何故わかる?」

「連中の思考はわかります。わかりたくもないですが」

僕も同意見だった。

首謀者は間違いなく悪魔だろう。

姿を変えられる悪魔もいる以上、抹殺した魔術師に成り代わるなんてことも考えられる。

王家の人間なんて、それこそ利用価値しかないはずだ。

「もう争っている場合ではありません。中にいる生存者で協力して、この状況を切り抜けるべく最善を尽くしましょう」

絶対にエリスを、みんなを守らないといけない。

たとえどんな手段を使ってでも。

僕はカフスボタン型通信機で黒の機関本部に連絡を取る。

「緊急事態だ。応援を頼みたい」

『わかっています。既に最大戦力を投入する方向で動いています』

「え? なんで知ってるの?」

『001(ファースト)からローゼンベルデの危機だと指令が。上位ナンバーのみなさんも既にローゼンベルデにいるみたいで』

「もう既にいるの? どうして?」

『ボクはわかりませんが、優秀なみなさんのことなので、何らかのルートから悪魔の動きを察知して動いていたんじゃないかと』

「…………」

天才かな?

僕も全然気づけてなかったのにすごいな、あいつら。

しかし頼もしいし、心強い。

あとは応援が来るまでみんなを守り切ること。

どう動くべきか考える僕に、通信端末から鋭い声が届く。

『前方で異変が――!』

現場に向かう僕ら。

山岳地帯に隣接した森の入り口では、第九王子が塩の山の前でうずくまっていた。

「どうして……そんな……」

「大丈夫か? 何があった?」

マティウス王子が駆けよって言った。

「我が友が……トーマスが……」

第九王子はふるえる声で言う。

「頼むマティウス! なんでもする! なんでもするからどうか此奴を! 此奴を助けてくれ!」

「……すまない、兄よ。俺にはどうすることも」

「嘘であろう! 嘘だと言ってくれ、マティウス!」

必死にすがりつく第九王子。

僕はじっと、塩の山を観察する。

◇◇◇◇◇◇◇

フィーネ・シルヴァーストーンは目の前の出来事が信じられなかった。

黒山羊の頭をした怪物を、『炎剣』ヴィルヘルム・ローゼンベルデと共に強襲した。

ヴィルヘルムの炎剣は、黒山羊の右腕を切り飛ばし、フィーネの『 絶対神政(テオクラティア) 』は怪物を巨大な大穴と共に大地に縫い止めた。

勝っていたのは間違いなくこちらだったはずだ。

なのに何故――

何故、ヴィルヘルム・ローゼンベルデが消えている?

ヴィルヘルムがいた場所に降り積もる同じくらいの体積の塩の山。

その存在がフィーネをなぜかぞっとさせる。

「答えなさい。何故ヴィルヘルム・ローゼンベルデは消えている」

「見事だ。二人がかりとはいえ、まさか私をここまで圧倒する魔術師がいるとは。卿らに敬意を表す」

「黙りなさい」

フィーネは鋭い声で言う。

重力負荷が怪物の体を軋ませる。

「答えなさい。でなければ、次は頭を潰します」

対して、劣勢に立たされているはずの怪物の声は落ち着いていた。

「卿らの敗因は私を殺そうとしなかったことだ。息の根を止めるべく最善を尽くしていれば卿らは私を殺すことができていただろう。塩になった彼も半身を失うくらいで済んだのではないか」

「答えろと言って――」

瞬間、フィーネの頭をよぎったのは一つの可能性。

ローゼンベルデの伝承にある見た者を塩に変える邪神の力――

咄嗟にフィーネは怪物との間に宝石の壁を作る。

踵を返し、全力で退避を選択する。

もし敵が邪神の力を手に入れているとすれば、この状況下でも自分を一瞬で葬る術を持っている可能性がある。

だったら、今ここで戦うのは危険だ。

まずは一度退いて、応援を呼び連携しての対処を選択すべき。

大きな力にはそれだけの責任があることをフィーネは知っている。

悔しいが、仕方がない。

(ヴィルヘルム・ローゼンベルデ。貴方の敵は必ず取ります)

決意を胸に、フィーネは地面を蹴る。

「逃げたか。あの状況で撤退を選択するとは」

不和の悪魔はその選択に感心する。

一見優位に思える状況を作りながら、それを放棄して退くことを選択するのは早々できることではない。

(最強の魔術師と言われるだけのことはあるか)

しかし、不和の悪魔は敵を追うことをしない。

そんなことをせずとも、勝利は自分の手の中にあることを知っているからだ。

フィールドの外では自身が率いる第六師団が待機している。

いくら最強の魔術師と言えど、単独で突破できる数ではない。

加えて、自分は今邪神の力を手にしている。

見た者を塩に変える絶対的な力。

誰が相手だろうと敗北はありえない。

神に逆らえる力など、人にはないのだ。

(どうせ元に戻そうなどと考えているのだろうな。神の力に対し、人間がそんなことをできるわけないというのに)

不和の悪魔は口角を上げる。

(不可能だ。それこそ、時を逆行させでもしない限りは)

◇◇◇◇◇◇◇

「あ、治せた」

銀色の時計が浮かび上がり、針が逆行して事象が巻き戻しになる、『事 物の時を巻き戻す魔(クロック・ロールバック) 術』

塩の山だった男性はきょとんとした顔で周囲を見回していた。

第九王子が声をふるわせて言う。

「トーマス……トーマスであるよな……?」

「お、俺は一体……」

「トーマス! よくぞ、よくぞ戻った!」

感極まった様子で、塩の山にされていた友人に抱きつく第九王子。

肝心のトーマスさんはまだ状況が飲み込めてないようだけど。

「すみません、少し質問に答えてもらいたいんですけど」

念のため体に問題や意識の欠落がないかを確認。

うん、大丈夫そう。

「まさか、そんなことが……」

呆然とするマティウス王子。

「意外となんとかなりました。あ、そのリアクション気持ちいいのでもっとやってくれていいですよ? ええ、思う存分やっていただけると」

「い、いや、そのすまない。本当に驚いている」

「良い! すごく良いです!」

頬を緩めて気持ちよくなっていた僕に抱きついたのは第九王子だった。

「よくぞ、よくぞやってくれた……! ありがとう! 本当にありがとうな……!」

涙声で熱烈に抱きしめられて、ぶんぶんと揺すられる。

「なんでもしてくれます?」

「する! 勿論だとも! 受けた恩には報いるのが麻呂の主義だ」

「楽しみにしてます!」

よっしゃボーナスゲット!

なにもらっちゃおうかな。

やっぱもやしかな? 十年分くらいかな?

内心拳を握りつつ、僕は言った。

「逆襲を始めましょう。人類の底力を見せるときです」