軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101 手駒

「……隠し通路。かなり入念に準備してあるな」

アーネンエルベ宮殿。

張り巡らされた隠し通路を点検しながら僕は言う。

見失いはしたものの、この通路を知れたことが一つ収穫かな。

しかし、それにしてもびっくりした。

専用スーツを着ての000(ゼロ)モードで、アーネンエルベ宮殿に侵入しようかなと準備していたら、いきなり壁の上から黒尽くめの二人組が降りてきたのだ。

その服装に僕は思わず見とれた。

目元を除いて全身黒で覆われたその姿は、まるで伝説のアサシンのよう。

世界の闇と戦う影のヒーローごっこしてる僕には、正に打ってつけの相手!

そう思って、雰囲気出しまくりながら声をかけたのだけど、

「……めちゃくちゃ楽しかった」

一瞬の攻防を思い返してつぶやく。

あれこそ、正に闇に生きるエキスパートって感じ。

できれば、またどこかで戦いたいところ。

あの人たちもこの宮殿で活動してるみたいだし、きっとまた会う機会あるよね!

ともあれ、折角宮殿に来たことだし、早速侵入作戦を開始しますか。

「――状況開始」

魔術光学迷彩で闇に溶ける。

王位継承戦参加者――十六の王子、王女が集うアーネンエルベ宮殿に潜入する。

僕の目的は敵対することになる王子、王女の情報を集めることだった。

敵の情報は戦略を立てる上で最も重要な要素。

それぞれのプロフィールと普段の生活、周囲からの評判など隈無く調査する。

「ねえ、例の未公開株の件はどうなってる?」

「順調に進んでおりますルナ様。ご安心ください。裏帳簿はこの私が絶対に見つからないよう管理しておりますので」

ふむふむ、億単位の不正と収賄ね。

裏帳簿のコピーと音声データ確保。

「ほっほっほ。誰も気づいておらぬよの。まさか第九王子である麻呂と第十二王子である其方が密かに手を結んでおるとは」

「これで我らは王に一つ近づいたであるな」

おっけえ。把握。

証拠写真と音声データ確保。

「爺。薬の準備はできたか?」

「はい。体内 魔光子(エーテル) 量を増やし、魔力を高める薬です。戦いが始まる一時間前にお飲みください。くれぐれも見つからないようお気をつけを。見つかると、選手としても永久追放になってしまうゆえ」

よし、全部下剤にすり替えておこう。

ってか、禁止薬物にまで手を出す人がいるなんて。

この王子もローゼンベルデの一部リーグで活躍してる選手のはずなのに。

キャリアを捨てるリスクを負ってでも、それだけ勝つのに必死というわけか。

十六人も王子や王女がいれば、叩けば埃が出る者も中にはいるわけで。

順調に弱みを握ることができて僕は満足する。

持ち帰った情報と証拠データを見せると、メリアさんは目を輝かせて言った。

「すごいわね。どうやったの、こんなの」

「こういうの得意な知り合いがいるんですよ」

「知り合い、ねえ」

メリアさんは興味深そうに僕を見る。

「まあ、そういうことにしといてあげるわ。早速この情報を使って作戦を立てましょう」

万全の準備を整え、僕とメリアさんはアーネンエルベ宮殿に向かう。

「申し訳ないですが、入れるわけにはいきません。宮殿に入るにはローゼンベルデ家に属する方の許可が必要ですので」

入り口でスーツ姿の男が僕らに言った。

「ニナ王女から許可はいただいてます」

「入れるわけにはいきません」

宮殿でニナ王女はローゼンベルデ家の人間にカウントされていないらしい。

「わかりました。では、第十六王女、ルナ様に面会をしたいので取り次いでいただけますか」

「承知しました」

僕らを他の警備隊員に任せ、スーツの男は宮殿の中へ入る。

「会わせてくれますかね」

「まあ、無理でしょうね」

やがて、戻ってきた男は僕らに言った。

「お忙しいのでルナ様はお会いになれないそうです」

しかし、ここまでは想定通りだ。

僕は用意していたカードを切る。

「『ブレイン産業の未公開株』とルナ様専属の執事長さんに伝えていただけますか?」

「承知しました」

執事長さんの反応は早かった。息を切らせて駆けてきた。

「是非お話を伺いたく思います。どうぞお入りください」

執事長は僕らを私室に通す。怯えた様子で言う。

「一体どこでそのことを」

「我々は世界を見通せる優れた目を持っている。それだけのことですよ」

作戦の先を考えると、第十七王女陣営を脅威だと思ってもらった方がいい。

はったりをまじえて言うと、執事長は首を振って言った。

「しかし、証拠はどこにも」

「貴方が作った裏帳簿のコピーです。見事な仕事ですね。さすが学生時代経済学を専攻していただけのことはあります、ゼブルス執事長」

「……ルナ王女は関係ありません。すべて私の独断でやったことで」

僕は携帯魔術端末で音声データを再生する。

「関与の証拠を我々が掴んでいないとでも?」

「…………」

言葉を失った執事長に僕は言う。

「ルナ王女に会わせていただきます」

執事長は僕らをルナ王女の私室に案内してくれた。

「少々お待ちください」

扉の前で待つ。

中から、声が聞こえる。

「はぁ? 意味わかんない。最悪なんだけど。あたし今日の午後は人に会いたくないって言ったよね。なんでそんな簡単なこともできないわけ」

「それが、少し事情が」

「あの出来損ないが呼んだ連中なんでしょ。アイオライト王国なんて魔術後進国の、しかも学生らしいじゃない。そんな雑魚連中と話すことなんてないからさっさと追い返して」

「ですがルナ様、彼らは例の未公開株の件を知っているようでして」

「………………は?」

中に通される。

金色の髪と緑青の瞳はニナ王女の母とは違う正妃からのもの。

やや低めの身長は、僕の一つ下の年齢であることを考えると一般的な部類だろう。

ルナ王女は、鋭い瞳で僕らを見返した。

「あんたたち、どれだけ不敬なことをしてるかわかってる?」

「不敬?」

「魔術後進国の雑魚のくせに、ローゼンベルデの王女を脅すなんてありえない。言っとくけど、あたしは絶対に屈したりしないから。証拠があろうとあたしの力ならこれくらい簡単にもみ消せる」

「億単位の不正ですよ。巨額収賄事件としてローゼンベルデの歴史に名を残せる額です。さすがにもみ消すのは不可能だと思いますが」

「うっさい。できるったらできるの! わかったらさっさと証拠を渡せ、雑魚」

机を叩いて言うルナ王女。

「状況がわかってないようなので教えて差し上げます」

僕は両手を組み直して言う。

「この件が明るみに出ると、あなたは犯罪者だ。王女としての地位は失墜し、一生陰口を言われながら生きることになる。学校では優等生で通ってるんですよね。成績は優秀で品行方正。悪口一つ言わないと教師生徒からの評判は非常に良いとか」

「それがなんだって」

「幼い頃から、同い年のニナ王女に対する周囲の陰口を聞いて育ったあなたは人に悪く言われることを恐れている。好かれたいんですよね。嫌われたくないんですよね。自分を殺して外では良い人を演じ、不満を宮殿の中で執事やお手伝いさんにぶつける。内弁慶な仮面優等生。結構なことだと思います」

「別にそんなことは」

「よかったですね。あなたは晴れて悪者だ。国中の人たちから悪意をぶつけられることになります。お楽しみに」

ルナ王女は、硬直して動かなくなった。

それから、言った。

「お願い……一生のお願い。未公開株の話は無しにする。だから、このことは内緒にして」

「じゃあ、何でもするって約束してください」

「な、何でもは……」

ルナ王女は声をふるわせる。

「交渉は決裂ですね。明日の朝刊で会いましょう」

「待って! 何でもする! 何でもするから!」

「よろしい」

僕はソファーに深く座り直して言った。

「この王位継承戦。ルナ王女には僕の手駒として働いてもらいます」