作品タイトル不明
98 集結
ローゼンベルデにおける王位継承戦は、参加者の中で最も強い者――最後の一人になるまで立っていたものが王になるという、極めてシンプルな形式で行われている。
最後の一人になるまで戦い続ける参加者全員のバトルロイヤル。
しかし、その形式が正しく遵守されなくなるまでに時間はかからなかった。
参加者の中でチームを組む者たちが現れ始めたのだ。
はびこる根回しと裏切り。
王位継承戦は時を経るごとに、当初のそれとはまったく違うものに変わっていった。
各王子、王女が持つ十五の推薦選手枠を利用して、協力してくれる者を集めて戦うチームサバイバル。
それがローゼンベルデにおける現在の王位継承戦らしい。
「でも、王女が 欠陥品(インフェリオ) だったからってそれだけで全員に参加を断られるのはおかしくないですか? そもそも、外部の人には 欠陥品(インフェリオ) だってこと自体知られてないと思いますし」
「それが、私を外の人に会わせたくないって考えてる人が妨害してるみたいで」
「あー、なるほど」
門の警備員さんに追い返されそうになったことを思いだす。
第二警備隊長さんがいなかったら、僕らも会えてなかったもんな。
「私は外に出られないですし、協力してくれるのもマクダレーネだけなのでなかなか難しくて」
「登録期限も迫ってるって話ですよね。あてはありますか?」
「いえ、残念ながら……」
形式を聞くに王位継承戦において仲間集めは非常に重要な要素。
早く一緒に出てくれる仲間を見つけないと。
「アーヴィス様、アーヴィス様。大切で重要で欠かせないすごく戦力になる人材をお忘れではありませんか?」
袖をひいたのはエインズワースさんだった。
「あ、エインズワースさんは待機で。エリスの護衛を最優先でしてもらわないといけないから」
「……わかりました。はい、がんばります」
がっくり肩を落とすエインズワースさん。
「一緒に戦って活躍したかった、なぁ……」
背中に哀愁が漂っていた。
ごめん、でもエリスは絶対に危険な目に遭わせるわけにはいかないから。
他に協力してくれる人を見つけてこないと。
学院の皆に授業を休んでローゼンベルデまで来てもらうのは申し訳ないし、いろいろ問題になったら困るし。
そうだ。エメリさん来るって言ってたっけ。
あの人最近僕のこと手間がかかる弟的な感じで見てるところあるんだよね。
お願いしたら、面倒そうにしながらもちょっとうれしそうというか。
よし、枠余ってるしとりあえず書いちゃえ。
あと、協力してくれそうな知り合いは……
「そういえば、あの人今ローゼンベルデにいるかも」
「そこで私を呼んだのは最善の判断と言わざるを得ないわね。さすが悪逆非道のフォイエルバッハを倒してチームを優勝に導いた一年生策士さん。ご褒美に聖アイレスに転校する権利をあげましょう」
「いりません。でも、来てくれて本当にありがとうございます」
翌朝、アーネンエルベ宮殿近くの喫茶店で僕は『聖アイレスの策士』、メリア・エヴァンゲリスタと話していた。
「お礼を言いたいのはこっちの方よ。こんな面白い舞台、参加しなきゃ勿体ないじゃない。それに、聞いて。ハインツの監督、私のこと個の力が足りないから使えないって言うの。たしかに個では劣ってる部分もあるけど、貴方の時代遅れで芸がない戦術に比べれば二億倍マシだと思うのよね」
「不満たまりまくってますね」
「私を試合に出せば、その残念な戦術を品性と調和の取れた美しいものに変えてあげられるのに。仕方ないからこの王位継承戦で活躍して、私の優秀さを教えてあげようと思って。そういうわけでレリアも連れてきたわ」
「……姉様が遊園地姉妹デートと言うので喜んでおめかしして急いできたのですが、どうして私はここにいるのでしょう」
「ご愁傷様です」
相変わらず苦労しているらしいレリアさんだった。
「でも、ハインツでの練習は大丈夫なんですか?」
「王位継承戦は代表戦と同じで国の魔術協会が配慮して日程を組んでくれてるの。ローゼンベルデ王室は魔術協会のスポンサーでもあるしね」
「なるほど。そうなんですね」
「問題は、急いで戦えるだけの戦力を集めないといけないってことね。聖アイレスの子たちはさすがに呼べないし、私もローゼンベルデに来て日が浅いから頼れるような人はいないし」
「オーウェン先輩はどうですか?」
「えぇ、フォイエルバッハ……」
メリアさんは露骨に嫌そうな顔をした。
「選手を集めてるから強いだけなのにえらぶってる、前世のカルマが祟ってるとしか思えない連中にお願いするなんて死んでも嫌なんだけど」
「姉様、さすがに失礼だと思います」
しかし、オーウェン先輩は仲間にできれば間違いなく頼りになる。
僕は説得を試みることにした。
「違います。頼るんじゃありません。メリアさんがフォイエルバッハを利用するんです。勝つために」
「早速呼びつけましょう。レリア、連絡。聖アイレスOGで一流パティシエールとして活躍中のエデルリッゾ先輩に会わせてあげるからすぐ来いって伝えて」
「わかりましたけど、そんな簡単に来ないと思いますよ。オーウェンくん連絡返すの遅いですし」
そう言いつつ携帯魔術端末を操作するレリアさん。
ぴこん、と通知音がしたのは直後だった。
「……え?」
「何て返ってきた?」
「『すぐ行く』って」
「これが戦術よ、レリア。オーウェン・キングズベリーがエデルリッゾ先輩の大ファンであることはリサーチ済み。続いてフォイエルバッハ元副隊長さんに電話かけて」
「は、はい、姉様」
「貸して」
メリアさんは携帯魔術端末をスピーカーモードにする。
少しして、モニカさんが出た。
『もしもし』
「ごきげんよう、副隊長さん。大好きな隊長さんがローゼンベルデに行っちゃって最近落ち込んでるらしいわね」
『……え? え?』
「優しい私はそんな貴方にチャンスをあげようと思うの。ローゼンベルデの王位継承戦に隊長さんと一緒に出ることになってね。これに出ればしばらく一緒にいられる。隊長さんが出発する日に駅のホームで伝えられなかった気持ちも伝えられるんじゃないかなって」
『どうしてそれを知って――』
「ちなみにレリアも一緒に出るの。あの子最近隊長さんと仲良いのよね。もしかしたらこの王位継承戦でくっついちゃったりして。あー、楽しみだわ。結婚式で声をふるわせながら『おめでとう』って言うモニカさんの顔が」
『な、ななな何を』
「じゃ、そういうことだから」
言って、通話を切るメリアさん。
「よし、二人目」
「モニカさんは学校があるのでは」
「たしか入学から皆勤賞なのよ、あの子。真面目だから」
「なら、さすがに来ないのではないですか」
「絶対来るわ。皆勤賞ぶん投げて来る。さあ、このラストチャンスをあの子はものにできるのかしら。ああ、楽しみ」
クリスマス朝の子供みたいに目を輝かせるメリアさん。
楽しんでる。
めちゃくちゃ楽しんでる、この人。
「あと、私とオーウェンくんは別に何もないですから」
「そう? 私としては別にそっちでくっついてくれてもいいんだけど。結婚式で血涙流すモニカさん見たいし」
うまくいってもいかなくても楽しめる計画らしかった。
悪い人である。
「あと、フィオナさんにも声かけて、と。怪我も全快してるみたいだし、ローゼンベルデの三部リーグからオファーが来てちょっと迷ってるって言ってたから」
「そうなんですか?」
「大学進学のつもりだったけど、優勝してプロチームからのオファーも来たみたいでね。それで迷ってるんだって。挑戦したい気持ちもあるけど、プロでやっていける自信はないって」
挑戦したい気持ちはあるんだ。
あの大会が最後でいい、壊れていいって気持ちだったフィオナ先輩だから、その変化がうれしい。
打ち上げの日、続けてくださいって説得した効果も少しくらいあったらいいな、と思う。
「ローゼンベルデのプロ選手と戦えば、進路を決める上でも参考になるはず。何より、選手として得られるところはたくさんあるはずだから」
「メリアさん、フィオナ先輩にはやさしいですよね」
「私はみんなにやさしいわよ? ただ、面白いと思ったら我慢できなくなることがあるだけで」
「面白さが勝っちゃうわけですか」
「何より、学生生活最後にみんなで力を合わせてプロ選手と戦うってすごく楽しそうじゃない。負けるわけないって思ってるプロ選手たちを私の戦術でぎゃふんと言わせてやるんだから」
「いいですね! やってやりましょう!」
二人で立ち上がって盛り上がっていたそのときだった。
くい、くい、と誰かが僕の腰の辺りを引いた。
「兄様、ちょっといい?」
エリスだった。
「うん、何かな」
「クイズを作ったの。わたしについてのクイズなんだけど、兄様なら答えられるかなって」
「もちろん。兄様はエリス学の第一人者だからね。どんな問題でも答えてみせようではないか」
「あら、面白そうね。私も挑戦させて」
乗ってきたメリアさんに、小さく頭を下げてからエリスは言う。
「じゃあ、第一問。わたしは今ちょっと怒ってます。同時にかなしい気持ちです。それは何故でしょう? Aお腹が空いたから。B眠たいから。Cわたしは力になりたいって着いてきて、エインズワースさんもがんばりたいって言ってるのに、兄様がわたしを参加させずにお留守番させようとしてるから」
「一つだけすごく詳細な選択肢があるね」
「さあ、どれでしょう?」
「…………」
おーけえ、伝えたいことはわかった。
「エリス。王位継承戦はプロの選手たちも戦うわけだし、素人が参加するのは危ないから」
「でも、安全装置があるって聞いたよ? だったら、わたしも兄様の役に立ちたい。お手伝いがしたい」
「気持ちはうれしいけど、そんな簡単に出ていいものじゃ――」
「いいじゃない。選手枠は余ってるんだし」
メリアさんは言う。
「大切なのは守りたいからって自分の気持ちを押しつけることじゃない。大切な人がどうすれば幸せになれるのか、心に寄り添って考えることじゃないかしら? 出場してくれるなら、私は仲間として歓迎するわよ」
「でも、エリスは魔術の練習だってしたことがないですし」
「だったら私が教える。これでいいでしょ?」
たしかに、メリアさんの言葉も正しい部分はあると思った。
気持ちを押しつけるのではなく、どうすれば幸せになれるのか心に寄り添って考える。
エリスが魔術を使えるようになれば、いざというときに自分の身を守ることもできるかもしれないし。
「お願い、兄様。わたしも力になりたいの」
エリスが僕を見上げる。
結局、折れたのは僕の方だった。
「わかった。一緒にがんばろう」