軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 美しい、春の景色

食事が終わり、私はいよいよ、出発の準備を整えた。

私の荷物は、小さなトランク一つだけ。

それを、ミレイユが私の代わりに、玄関まで運んでくれる。

「ミレイユ、ありがとう。重かったでしょ?」

「いえ! これくらいお安い御用です。エリス様」

彼女は、にっこりと微笑んでくれた。

ミレイユにも、今ではちゃんとしたお給金を支払えている。

彼女も、心なしか以前より、ずっと表情が明るくなった。

そして、邸宅の古い扉を開けて、外に出る。

そこには、一台の馬車が停まっていた。

アーベント家に、唯一残された、古びた馬車。

だけど、今日はこの日のために、お父様とミレイユがピカピカに磨き上げてくれたらしい。

ところどころ、塗装は剥げているけれど、日の光を浴びて、誇らしげに輝いていた。

私たちの家は、王都ラピスフォードの旧市街の外れにある。

かつては貴族街の一部だったらしいけれど、今では、活気のある商業区の方が近い。

貴族街の、あの静まり返った排他的な雰囲気とは違って、この場所には、いつも賑やかな商人たちの声や、焼きたてのパンのいい匂いが漂っている。

私は、この少しだけ騒がしくて、温かい街の空気が大好きだ。

今日は、その家から馬車で王都の中心――王立ラピスフォード学園へと、向かう。

「じゃあ、行ってくるね!」

私が振り返ると、お父様、お母様、リア、そしてポムが、玄関先に並んで立っていた。

「お姉ちゃま、いってらっしゃーい!」

リアが、小さな手をちぎれんばかりに振っている。

ポムも、その足元で、「きゃんきゃん!」と、私を応援してくれていた。

「エリス、気をつけろよ」

「何かあったら、すぐに連絡するのですよ」

お父様とお母様は心配そう。

だけど、誇らしげな、眼差し。

私は、その全てを胸に、焼き付けるように頷いた。

「――いってきます!」

私は、もう一度大きな声でそう言うと、馬車に乗り込んだ。

御者台には、ミレイユが座る。

彼女は馬車の手綱を、優しく握った。

がたん、と、小さな振動と共に、馬車の車輪がゆっくりと動き出す。

私は、窓の外を見た。

だんだんと小さくなっていく、家族の姿。

やがて、屋敷が角の向こうに見えなくなる。

私は、そこでようやく、ふぅ、と、息をついた。

(……やっぱり緊張するな)

私の、二度目の青春。

そして、アーベント家の反撃の物語。

私は、窓の外を流れていく、美しい春の景色を眺めていた。

その瞳には、希望と、不安と、そして、何者にも負けないという、強い決意の光が宿っていた。