軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話 新たな舞台への招待状

あれから数週間が過ぎた。

王都に冬の足音が、聞こえ始めた頃。

私は、ラスール公爵邸の一室にいた。

ルートス令息の病状を、定期的に確認するためだ。

あの日、私が作った《魔力調律薬》。

その効果は絶大だった。

令息の容態は、あれ以来一度も悪化することなく、順調に回復へと向かっている。

時には、私が追加で調合した、栄養補給用のポーションを飲ませることもあった。

そのたびに、令息の青白い顔に、少しずつ、血の気が戻っていくのが分かった。

お父様とオルダス公爵も、何度か会談を重ねているらしい。

アーベント家の再興と、打倒アルバ公爵。

二つの家は、今、水面下で、固い同盟を結ぼうとしていた。

何もかもが、順調に進んでいる。

そう、思っていた。

その日も、私は、ベッドの上で体を起こせるようになった、ルートス令息の診察をしていた。

「うん。魔力の流れも、ずいぶん安定してきたわね。もう、大丈夫です」

「……ありがとう。エリス嬢」

ルートス令息は、まだ少し病弱な印象は残るものの、綺麗な顔立ちをした、聡明そうな少年だった。

そのサファイアのような青い瞳が、じっと、私を見つめている。

「君が、僕の命の恩人なんだね。父上から、全て、聞いたよ」

「別に。私は頼まれたことを、しただけですから」

私が、少しそっけなく答えると、彼は、ふふっ、と、かすかに笑った。

「君は、不思議な人だ。僕と同じくらいの歳なのに、まるで、大人みたいだね。それに、君の錬金術は、まるで神様の魔法みたいだ」

「……買い被りすぎです」

なんだか、真正面から褒められるのは、むず痒い。

私は、ぷいっと、そっぽを向いた。

そんな私の態度が、逆に、面白かったのかもしれない。

彼の瞳に、私という存在への、強い興味の光が宿ったのを、私は見逃さなかった。

そんな、他愛のない会話を、していた時だった。

「失礼いたします」

部屋の扉が、静かに開かれ、オルダス公爵が姿を現した。

「おお、ルートス。今日は、顔色が、ずいぶんと良いな」

「はい、父上。エリス嬢のおかげです」

「うむ。……エリス嬢。少し、君と、話がある。部屋を変えても、良いだろうか」

◇ ◇ ◇

通されたのは、公爵様の執務室だった。

重厚な、マホガニーの机。壁一面の、本棚。

私は、緊張しながら、来客用の、革張りのソファに、ちょこんと腰を下ろす。

「さて、エリス嬢。君の、今後のことについてだ」

公爵様は、そう切り出した。

「君の望み通り、王立学園への入学は、我がラスール家が、全面的に後援する。入学金、学費、その他必要なものは、全て、こちらで用意しよう」

「……ありがとうございます」

「だがな」

公爵様は、言葉を続ける。

「ただ、資金援助という形で、君を入学させるのは、少し、惜しいと思っていてな」

惜しい? どういうことかしら。

「君の、規格外の錬金術。その才能は、ただ、埋もれさせておくには、あまりにも大きすぎる。むしろ、その力を、世に正当に示しつけるべきだ」

公爵様の瞳に、鋭い光が宿る。

「王立学園には、『特待生制度』というものが、存在する。知っているかな?」

「はい。パンフレットで、少しだけ」

聖剣に選ばれたり、高名な魔術師の推薦があったり。

私には、縁のない世界だと思っていた。

「その、特待生として、入学する気は、ないかね?」

公爵様の提案に、私は、目を見開いた。

「特待生に、なれれば、学費は、全て免除される。それどころか、特別な研究予算が国から支給され、一部の単位は、試験なしで取得することも可能だ」

「そ、そんなに、すごいんですか……!?」

「うむ。だが、そのためには、特別推薦による、入学試験を突破せねばならん」

特別入試。

その言葉の響きに、ごくりと、喉が鳴る。

「無論、嫌だというのなら、無理強いはせん。その場合は、約束通り我が家が君の学費の一切を、支払おう。君の家への、資金援助も、別途行うつもりだ。どちらを、選ぶ?」

公爵様は、私に選択を委ねてくれた。

ただ、お金を出してもらって、普通の生徒として、入学する道。

それは、安全で、確実な道だ。

目立つこともない。

だけど――。

それじゃあ、ダメだ。

私の脳裏に、あの、性悪女神レイアの、顔が浮かんだ。

『適性のないガラクタ』

私をそう言って見下した、あの顔。

アルバ公爵だけじゃない。

私を無価値だと決めつけた、全ての連中に見せつけてやりたい。

私の、本当の力を。

「……やります」

私は、顔を上げた。

その目には、もう、迷いはなかった。

「私、特別入試を、受けます。そして、私の力で、誰にも文句の言えない形で、合格してみせます」

私の、力強い宣言。

それを聞いて、オルダス公爵は、満足そうに、深く、深く頷いた。

「よかろう! その意気だ、エリス嬢! 推薦状は、すぐに、用意させよう。試験は、来月の、初旬。心して、臨むがいい」

こうして、私の、次なる目標が決まった。

それは、王立学園の特待生合格。

私の逆転劇の、次なる舞台への扉だった。