作品タイトル不明
ニーナと王都観光
「わあ! 王都だぁー!」
ハウリン村から王都ゼラールの広場にたどり着くと、ニーナが歓声の声を上げた。
前に連れてきたのは二拠生活を説明した時なので、三か月ぶりとなる光景だろうか。
今日も王都にはたくさんの種族と人たちがあちこちで行き交っており、広場からはゼラール城を見上げることができた。
俺からすれば既に見慣れた光景であるが、ニーナからすればじっくりと眺めるのは今回が初めてとなる。
しばらくは何をするでもなく景色を堪能させてあげることにした。
周囲を見渡していると思ったら、気になるものを見つけたのか一点を注視し出す。それが終わるとまた次の興味の湧く場所へ視線を動かす。実に好奇心旺盛だ。
カールしたポニーテールが身体の動きに反応してぴょこぴょこと動いている。
「本当に建物が高くて人が多いや」
「ハウリン村とは色々な意味で正反対な場所だからな」
きっとニーナにとって目に映るものの全てが新鮮で新しいに違いない。
「……ずっと広場にいてもいいのかい?」
「はっ! そ、そうだね。一か所に留まっていたら勿体ないよね!」
肩をトントンと突くと、ニーナがハッとしたように我に返る。
俺としては広場でのんびりというのも悪くないけど、せっかく王都にやってきたというのにそれだけでは勿体ない。
「どこか行ってみたいところはある?」
そう尋ねてみると、ニーナは少し悩んだ末に答えてみせる。
「食べ物を買いに行くところがいい!」
「勿論、いいけどどうしてそこなんだい?」
せっかく、女の子が都会に出てきたというのに最初の選択肢が市場というのは中々に渋い。
「えっと、他にも色々と行ってみたいところはあるけど、食べ物が一番身近でわかりやすいから」
どこか言葉を選ぶように話すニーナの言葉を聞いて何となく納得する。
オシャレな服屋や小物屋、クッキーが売っているような菓子屋などもあるが、ハウリン村で生活する上で一番身近に感じるのは食料だ。
逆に縁遠い服屋、小物屋を見ても、珍しいと思うだけで村との差がよくわからない。
つまり、一番自分が知っている分野を見比べることで、王都のスケールの大きさを測りたいということなのだろう。
解釈が間違っている可能性もあるが、何となくニーナが言いたいのはそういうことな気がした。
「わかった。それじゃあ、中央区画にある市場に案内するよ」
「うん!」
しっかりと頷くニーナを確認し、俺は広場からほど近い中央市場へと歩き出す。
ニーナは俺の横に並ぶように歩く。
今日はいつもと違って一人で歩くわけではない。
ニーナは王都の景色に目移りするだろうし、ゆっくりと歩幅を合わせてやらないとな。
ニーナの歩く速度を意識して合わせる。
「獣人にリザードマンだ!」
前方から歩いてくる獣人やリザードマンの二人組を指さして驚くニーナ。
ハウリン村には基本的に人族の集落なので他種族はいないので、あまり村を出ることのなかったニーナは他種族を見るのは初めてだったのだろう。
なんだかこの世界に転移してきたばかりの俺と重なり、自然と頬が緩んでしまう。
獣人族とリザードマンは外見が実に特徴的だ。
獣人の体格は人間とそれほど変わりはない。しかし、獣を想起させる体毛で全身が覆われていたり、一部分に生えていたりする。
本当に犬のように顔まで覆われているものもいれば、人間の顔をベースに耳や尻尾だけ生やしたような者もいる。それらは両親や獣人の血の強さによって変わるらしい。
目の前にいるのは前者のタイプだ。
次にリザードマンは爬虫類が二足歩行で立って歩いているような姿であり、人間よりも比較的大柄だ。こちらは獣人と違って、ほとんどの個体が鱗に覆われている者が多い。
「お、なんだ? 転送屋じゃねえか?」
なんて解説していると、獣人とリザードマンの二人組が声をかけてきた。
よくよく見ると、二人ともギルドで見たことのある冒険者だった。
獣人族の方がガドルフで、リザードマンの方がウルド。
「……お前、子供いたのか?」
「てんそうや?」と小首を傾げているニーナを見下ろしながら尋ねてくるウルド。
トカゲやワニを想起させる顔つきなので表情がよくわからない。
「いや、知り合いの子を案内していてね」
「道理でお前に似ていない可愛らしい子だと思ったぜ」
「……今度、転送する時は入念に準備しとけよ? 間違って魔境に転送してしまうかもしれないから」
「うおい! 冗談でもシャレにならねえことは止めろよな!」
黒い笑みを浮かべて言うと、ガドルフが冷や汗を流しながら言う。
たった一人で未開拓地に送られることほどおっかないことはないからな。
「お嬢ちゃん、獣人やリザードマンを見るのは初めてか?」
「うん、初めて!」
「良かったら、俺の毛並みを触ってみるか?」
「いいの?」
「ただし、尻尾と腹は触るなよ? そこは大事な部分だからな」
「ありがとう! わあ、モフモフだぁ!」
ガドルフが腕の毛を撫でて驚くニーナ。
いいなぁ。俺も撫でてみたい。
「おい、転送屋! お前は触るな!」
どさくさに紛れて撫でようとしたらガドルフに怒られた。
「なんでだ? ちょっとくらいいいじゃないか」
「お前の手つきはやべえんだよ! 前みてえなことにはなりたくねえ!」
「酔ってる時に撫でてお腹を出させただけじゃないか」
「獣人にとって腹を出すのは服従する時だけなんだ! 思い出しただけでも屈辱だぜ! こんな男に手玉に取られるとはよ!」
どうやら以前、ギルドの酒場で撫でまくったことを根に持っているようだ。
すっかり警戒した様子のガドルフを見て、俺はモフモフすることを諦めた。
「……良かったら、俺の鱗も触ってみるか?」
「うん! わぁ、こっちはツルツルだぁ!」
どことなく触られて嬉しそうにするウルド。
ウルドはいかつい体格も相まって小さな子供には怖がられることも多いが、好奇心旺盛なニーナはまったく怖がっていなかった。
ウルドにはそれが新鮮で嬉しいのだろう。誰だってこんな可愛い少女が無邪気に接してくれたら嬉しいに決まっている。
「ところで、転送屋。最近はギルドでの転送業はお休みか? ヘレナたちがぼやいていたぜ?」
「あー、そういえば最近はやってなかったな。近い内に顔を出すと伝えておいてくれ」
「わかった。お前がいると俺たちも仕事が楽にできるから、また頼むぜ?」
肩に手を置いてそんな一言を告げると、ガドルフとウルドはニーナに手を振って去っていった。
ここ最近は二拠点生活を始めたり、ハウリン村の野菜を商会に売り込んだりとゴタゴタしていたからな。またギルドの方にも顔を出してやらないとな。
などと考えていると、ニーナがくいくいっと袖を引っ張ってくる。
「ねえ、さっきの人たちが言ってた、てんそうやってクレトのこと?」
「ああ、そうだよ。魔法であちこちの村や街に転送する仕事をしているから、冒険者ギルドではそう呼ばれているんだ」
「へー、そうなんだ! 色々な人に頼りにされていてすごいね!」
「ああ、頼ってもらえるってのは嬉しいことだよ」
本当にニーナの言う通りだ。
今となっては商会の方が稼げるとはいえ、あそこでは随分とお世話になった人たちも多いからな。前世での俺はそれを蔑ろにして孤独になってしまった。
世の中、お金だけが全てというわけではないので、人との縁も大切にしていかないとな。