軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久し振りのハウリン村

翌朝、宿で朝食を済ませて準備を整えた俺は、エミリオにしばらく不在にすることを伝えてハウリン村に向かうことにした。

「ハウリン村に向かうのは半年ぶりくらいかな? 楽しみだな」

結局あの後はハウリン村に向かう用事や依頼もなく、一度も立ち寄っていなかった。半年程度会っていないだけであるが随分と久しく感じられる。

アンドレやステラ、ニーナは元気にしているだろうか?

王都とハウリン村までは馬車で一週間半はかかる距離。魔物のうろついているこの世界ではちょっと知人に会いに行くという理由では行きづらい距離。

しかし、一瞬でそこまで行ける俺からすれば、本当に顔を出しに行く程度で行けてしまうものだ。

三人の顔を思い浮かべると今から会いに行くのが楽しみだ。

俺は目立たない路地に入り込むと、ハウリン村をイメージして転移する。

身体を魔力が包み込み一瞬で視界が切り替わると、石畳や大きな建物が広がる王都ではなく、長閑な一本道だ。

土が広がり、草が鬱蒼と生えている野道。その先には俺が最初にたどり着いた時と同じようにアンドレが退屈そうに出入り口の前に立っていた。

ちょうど前回と同じような再現ができて、思わず笑ってしまう。

一本道を歩いてくるこちらに気付いたのか、出入り口に立っていたアンドレは目を大きくして叫んだ。

「おお? もしかしてクレトじゃねえか!?」

「お久しぶりです。アンドレさん」

「王都にいたお前が急にどうしたんだ? また何かの依頼か?」

「いえ、生活が落ち着いてきたので約束通り顔を出しにきましたよ。もしかして、迷惑でしたかね?」

ハウリン村で交流があったのはアンドレ一家だ。もし、あの時言った言葉が社交辞令だとしたら泣くかもしれない。

「……お前、マジか。律義に約束守って、こんな何もない村にまたきてくれるなんていい奴過ぎるだろ!」

俺のそんな懸念はなかったらしく、アンドレは感激した様子で背中をバンバンと叩いてくる。

嬉しさが溢れて仕方がないのはわかるが、アンドレのパワーでバシバシ叩かれると痛い。

「アンドレ、知り合いか?」

そんな風に出入り口でじゃれ合っていると、村人がこちらにやってきて声をかけてくる。

「ああ、半年前にきてくれた冒険者がまた来てくれてな。しかも、依頼もないのにだぞ」

「それは珍しいな。今日のところは俺が代わってやるから、アンドレは家に帰って客人と一杯でもやってろ」

「助かるぜ! 礼をまた今度するぜ!」

どうやらアンドレの友人が警備の仕事を代わってくれるようだ。久しぶりに知人が顔を出したとはいえ、わざわざ交代を買って出てくれるとは優しいな。

ブラック企業にいた頃は、基本的に仕事なんて押し付け合いだし、休むなんてもっての他なんて空気が流れていたから、こういう平和な世界を目にすると幸せになる。

「……本当にいい村ですね」

「お、おい、なに泣いてんだ? 今の出来事にそこまで泣いて感激するような要素があったか?」

あったんだよ。他人を気遣うという幸せな世界がそこに。

しみじみと村人の暖かさを感じた俺は、そのままアンドレの家に向かう。

王都と違って本当に屋台も店も何もない。ポツリと見える民家と静かな生活の営み。

周囲は山や森に囲まれており、どこを見ても緑、緑。

都会の喧騒に揉まれていた俺からすれば、この長閑な景色がたまらなく新鮮だった。

古来より人は自然の中で暮らしていた。その名残として自然の中にいると、人間はリラックスできるという。

今の俺がまさにそんな感じなのかもしれないな。

何気ない風の音、風で揺れる枝葉の音、遠くで囀る鳥の声。

そんな不規則に思える音の重なりがとても心地よかった。

風景を眺めながらのんびりと歩いていると、やがて懐かしきアンドレの家が見えてくる。

家の傍にある小さな畑では、見覚えのある女性と少女が何やら作業をしているようだった。

「おーい。ステラ、ニーナ! クレトがまたやってきたぞ!」

「クレトさんが? あら、本当ね!」

「クレト! またきてくれたんだ!」

アンドレが大声を上げると、ステラとニーナが振り返って手を振ってくれた。

どうやら二人とも俺のことを忘れないでいてくれたようだ。

歓迎してくれたことを嬉しく思い、気恥ずかしいながらも俺も手を振り返す。

「はい、生活が少し落ち着いたのでまたやってきました」

「そういえば、クレトの服が前よりも良くなってる気がする!」

十歳の子供でも女の子というべきか。ニーナは俺の服の裾を触りながら、目を輝かせていた。

「おっ、ニーナはいい目をしているね。前よりも少しいい服にしたよ」

商品を仕入れたり、交渉をしに行くときにはそれなりの格好をしていかなければならないので、今ではそれなりにいい服を着ている。

とはいっても、俺は派手なものや高級品を身に着ける趣味はないので、あからさまではないけどね。

「少しってレベルには見えねえけど、まあ冒険者として上手くやれてるのはいい事だな」

こちらを眺めて感心するアンドレだが、残念ながら俺はアンドレのイメージする活躍の仕方をしていないと思う。

「いえ、今は冒険者として活動はあまりしていないんですよ」

「うん? じゃあ、どうやって生計立ててんだ?」

「まあまあ、あなた。そういった込み入った話はゆっくり家の中でしましょう。いつまでも外に立たせていたら、遠いところからやってくれたクレトさんに申し訳ないわ」

「それもそうだな」

「なんだか前にやってきた時もこんなやり取りがあった気がします」

「うふふ、そうでしたね」

「そうだったか? 二人ともよく覚えてるなー」

思い出して微笑むステラと、細かいところまでは覚えていなかったらしく首を傾げるアンドレ。

最近はビジネスチックな関係者が増えて、日常会話らしいことを随分としていなかったので二人の会話を聞くとほっこりするな。

エミリオとの会話だと、どうしても商会のことや、各地域の情報といった商売中心の物になりがちだし。

「料理ができましたよー」

アンドレの家に通されてくつろいでいると、ほどなくして昼食となり、ステラとニーナが料理を持ってきてくれた。

クック豆とヒルク豆とひき肉の入ったスープに、ローストビーフにパン。

「あっ、タタールだ」

それだけじゃなく、美味しい肉のユッケともいえるタタールがサラダの上に鎮座していた。

「前回、クレトさんが気に入ってくれたようなので今回も作ってみました」

「ありがとうございます。帰り際に持たせてくれたタタールサンド、美味しかったです!」

ステラが作ってくれたタタールサンド。転移で一瞬で王都に帰ったので帰り道で食べることはなかったが、宿の中でゆっくりと頂いたものだ。

タタールとパンの相性は抜群でとても美味しかった。

「まあ、そんな風に言ってくれると作った甲斐がありました」

感謝の気持ちを述べると、嬉しそうに笑って席につくステラ。

「また飲むだろ?」

すると、アンドレがワイン瓶とグラスを持って聞いてくる。

「昼間ですけどいいんですか?」

「今日は仕事も無くなっちまったし構わねえよ」

そう笑い飛ばすと、アンドレは俺のグラスにワインを入れてくれた。

「それじゃあ、クレトとの再会を祝して乾杯だ!」

「乾杯!」

アンドレとグラスをぶつけ、お酒を飲まないステラやニーナとはコップで軽くぶつけ合い、ワインを軽くあおる、

うん、相変わらずここのワインは飲みやすいな。

こんな真っ昼間からゆっくりとワインが飲めるなんて、異世界での生活は最高だな。

ワインを少し飲むと、俺は豆スープをスプーンですくって食べる。

茹でたクック豆とヒルク豆の甘み、それとひき肉の塩味が絶妙だった。

「うん、豆がたくさん入ってて美味しい」

「クレトがきてくれたお陰でひき肉も入ったんだよ!」

「こら、ニーナ。そういうことは言わないで……」

ニーナの暴露にステラが恥ずかしそうに頬を染めた。

「突然やってきてすみません。お土産を持ってきましたので、よければ皆さんで食べてください」

何とも言えない空気に、俺は渡し損ねていたお土産を渡すことにする。

「あら、こちらこそ気を遣わせてしまってすみません」

「これなに?」

紙袋に包まれた箱を見て、ニーナが興味津々に身を乗り出す。

「クッキーだよ」

「クッキー!? 開けてみてもいい?」

「俺は構わないよ」

ニーナはステラにアイコンタクトを送って許可をもらうと紙袋を開けて中にある箱を取り出す。

「うわぁ! 綺麗な箱だ!」

「おいおい、これ絶対高いやつだろ?」

綺麗な装飾の施された箱を見て目を輝かせるニーナと、それを見てギョッとするアンドレとステラ。

このお土産は王都でも名店と呼ばれる菓子店のクッキーだ。富裕層に特に大人気で、クッキー十八枚で銀貨五枚もする高級品である。

取引先にお土産として持っていくと喜ばれるので、亜空間に大量に収納していたりする。

「前回、お世話になったお礼ですよ」

「まあ、クレトがいいって言うならありがたくいただくぜ」

「いい匂いがする! 今食べたい!」

「ダメよ。ご飯を食べ終わってからのオヤツにしなさい」

「……はーい」

ステラに注意されてしょんぼりとするニーナ。

いい匂いがするので今食べたくなる気持ちはわかるが、昼食が食べられなくなってしまったら勿体ないからな。

「それでクレト。冒険者としてあんまり活動してねえなら最近はなにやってんだ?」

さっき途切れた話の続きが気になっていたのだろう。アンドレはそわそわとした様子で尋ねてきた。

ステラやニーナも気になるらしく、こちらに視線を向けてきている。

そんな三人に俺は最近の生活をゆっくりと語るのであった。