軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真冬のお散歩

最近、ニーナが家に遊びにやってくる回数が減った。

俺がハウリン村に滞在している時は、毎日とは言わないけどそれに近い頻度でやってきていた。

温かい紅茶やスープを飲みながらダラダラと雑談をしたり、外や森に遊びに行ったり、ちょっと散歩したり。

仕事の合間の短い時間から、長めの自由時間までと幅広く遊んでいた。

それがここ最近は急に頻度が減ったのだ。具体的に言うと、四日くらい来ていない。

友人と遊ぶ感覚としておかしなことではないが、毎日のように来ていたことを考えると、気になる。

ニーナに嫌われてしまった……という考えがないでもないが、そうではないと願いたい。

あんな良い子に嫌われるとか俺が泣いてしまう。

もしかして、体調でも崩してしまったのだろうか? 冬になって気温は随分と低くなり、雪だって積もっている。子供であるニーナが風邪を引いたりする可能性は大いにあるだろう。

それならば、急に遊びに来なくなったことにも納得だな。

「ちょっと様子を見に行くか」

もし、風邪を引いているならば栄養のある食料を渡してあげたい。

俺には空間魔法があるので、あらゆる季節の野菜や果物なんかが収納されているし、いざという時のための薬なんかも入っている。その時はニーナの助けになれるだろう。

ただ単に家の内職が忙しいだけであれば、それはそれで安心できるというものだ。

俺は防寒着を羽織るとアンドレの家に向かうことにした。

外に出ると、靴底が少し埋まる程度にしか雪が積もっていた。

雪が積もる度に亜空間に収納しているからだ。

それにしても亜空間に入っている大量の雪はどうしようか。

飲料にするには不純物が多いし、ろ過して飲もうにも、普通の水があるのでそもそも飲料にする必要がない。

だとすると、後は夏に取り出して涼をとったり、地下に氷室のようなものを作って利用するくらいか。

雪の使い道について考えていると、アンドレの家にたどり着いた。

距離こそ開いているもののお隣さんだからすぐだ。

扉をノックすると、中から「はーい!」という元気な声がした。

扉を開けて出てきたのはニーナだ。ひとまず、彼女が元気なことに安心した。

扉の隙間から見えたリビングにはステラとアンドレがおり、テーブルの上にはたくさんの布や糸らしきものが見えた。

「やあ、ニーナ。元気にしてるかい?」

「わっ! クレト!? ごめん! ちょっと待ってて!」

声をかけると、ニーナはあたふたと慌ててすぐに扉を閉めた。

家の中でドタドタとした音が響き渡り、程なくしてニーナはダークグリーンのポンチョを羽織って出てきた。

「お待たせ! せっかくだし散歩しよ?」

「あ、ああ。わかった」

外に行きたいというより、家に入れたくないというような意図を感じたが、そこを突くのは失礼だろう。

違和感を覚えたが、特に追求することなく素直に頷くことにした。

二人して特に当てもなくフラフラと歩き出す。

「クレトから家にやってくるなんて珍しいね?」

「ここ最近、ニーナを見てなかったから風邪でも引いたのかと心配になってね」

「あー、最近は家の内職が忙しくて……」

人差し指で頬をかきながら、視線を泳がせるニーナ。

性根が素直なニーナは嘘をついたり誤魔化すといったことが苦手だ。

そんなニーナが何も言わないということは、何か秘密にしておきたいことがあるのだろう。

ニーナのことだからその秘密は悪いことではきっとないと思う。

「冬の間はそういった手仕事が収入になるもんな。そっか。元気なら安心したよ」

「う、うん。心配させてごめんね」

隠し事があることに気付きつつも、それ以上は触れないことにした。

俺たちの家を離れると、通りにはこんもりと雪が積もっている。

「この辺りから雪がたくさん積もってるな」

「私たちの家の周りだけぽっかりと雪がないもんね」

振り返ると辺りは白一色だが、俺とアンドレの家だけくっきりと見えている。

そんな光景が少しだけ不思議だった。

分厚い雪を踏みつけるとギュムッとした音が鳴る。

柔らかい雪を踏み固めて歩くのはちょっと面白い。

「クレトの足跡、大きいね!」

「ははは、一応は大人だからな」

踏み固めた俺の足跡をニーナのムートンブーツが踏みつける。

くっきりと足跡があるからか、俺とニーナの足の大きさがはっきりとわかった。

しばらくは俺の足跡をなぞって歩いていたが、飽きたのか今度は柔らかそうな雪を踏みに行った。

「あんまり歩き回ると、水路に足をとられて転ぶよ?」

「大丈夫! 雪で見えなくてもわかるから!」

思わず心配の声をかけると、ニーナは自信満々の笑みを浮かべて進み続けた。

ニーナの言う通り、長年住んでいた場所だけあって、雪に埋もれていようと道がわかるようだ。危ない様子はまったく見せず、軽快な足取りで進んでいる。

「逆にクレトは大丈夫なの? 真っ白でほとんど道が見えないけど」

「俺は魔法のお陰で空間に対する意識が普通の人より鋭敏なんだ。だから、ニーナみたいに覚えていなくても、なんとなくで地形がわかるよ」

「へー! そうなんだ!」

空間魔法という魔法の特性上、空間に対する意識が敏感になる。

魔法特性のお陰で道が雪で覆われていようと、俺にはどのようになっているかわかるのだ。

お陰で水路や傾斜なんかに足を踏み外す心配はない。

逆にこの空間把握がなかったら散歩なんてできないだろうな。

王都と違って、ハウリン村には建物が少なく、だだっ広い場所が多いので雪が積もるとまったく地形がわからない。田舎の積雪には思わぬ不便さがあるものだ。

「クレトさん! すまないけど、屋根の雪かきをやってくれないかい?」

そんなことを考えて歩いていると、村人に声をかけられた。

あまり交流のある人ではないが、かなり高齢のお婆さんだ。

ご老人に屋根の雪かきはさぞかし辛いだろう。

「いいですよ。任せてください」

二つ返事で請け負うと空間魔法を発動し、お婆さんの家の屋根にある雪を収納した。

亜空間を広げると、ついでの家の周りにある雪も収納してしまう。

「まあ! 噂で聞いていたけど、本当にすごい魔法だね! 助かったよ!」

「どういたしまして」

「良かったらこれを受け取っておくれ。お礼の気持ちだよ」

お婆さんが懐から瓶を取り出して渡してくる。

「ドライフルーツだ!」

覗き込んできたニーナが嬉しそうな声を上げる。

瓶の中にはベリーやオレンジなどの様々なドライフルーツが入っていた。

「ありがとうございます。また困った時は声をかけてください」

「ああ、またお願いするよ」

お婆さんは軽く頭を下げると、いそいそと自分の家に戻っていった。

「すまない、クレト。うちの家の雪も退けてくれないか?」

「こっちも頼んでいいかい? 旦那が腰を痛めていて、屋根に登るのが辛いんだ」

再び散歩に戻ろうとしたところで、民家から他の村人が出てきて声をかけられる。

やはり、これだけ毎日雪が降っていると、雪かきが辛いのだろう。

「いいですよ」

さっきのお婆さんの家と同じように、空間魔法を使って雪を収納してあげた。

それだけで数時間はかかる作業が一瞬にして終わるので、やはり空間魔法は便利だ。

「ありがとう、助かった! うちで作ったソーセージだ。良かったら持っていってくれ」

「うちはチーズをあげるよ」

雪を片付けると、村人たちがお礼の品を渡してくれた。

普段お世話になっている人の力になれるので嬉しい。

「たくさん食べ物を貰ったね」

「このままだと村中の人から食べ物を貰うことになりそうだよ」

大量に貰った食料は手で持ちきれないので亜空間に収納しておく。

ただ、お婆さんに貰った瓶だけは手元に残した。

「お待たせ。ドライフルーツ、食べる?」

「食べる!」

ニーナを待たせてしまった償いとして、ドライフルーツをお裾分けだ。

ちょうど小腹が空いていたのでちょうどいい。

乾燥して萎んだドライベリーを口に運ぶ。

お婆さんのくれたドライベリーはしっかりと乾燥しており、甘みと酸味がギュッと詰まっていた。噛みしめる度に味が滲みだしてくるようで、とても美味しい。

「甘くて美味しい!」

「だな」

その美味しさにニーナと一緒に二個目、三個目と手を伸ばしてしまう。

様々なフルーツが中に入っているので、また違った味が楽しめる。

そのどれもが美味しいものだから俺とニーナの手はしばらく止まらなかった。