軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冬の過ごし方

どんよりとした分厚い雲がハウリン村の空を覆っていた。

窓を開けて呼吸をすれば白い息が虚空に消えていく。

秋のような優しさは残っておらず、しっかりと重ね着をしなければいけないくらいに寒い。

ここ最近は朝にしかつけなかったストーブだが、今日はずっと稼働している。

最早、一日中稼働させていないと家の中でも風邪をひいてしまいそうだからだ。

「おーい、クレト!」

換気のために窓を開けていると、こちらにやってくるアンドレの姿が見えた。

服が長袖になっているが、その上には何も羽織っていない。寒空を歩きにはやや心もとない服装だ。寒さに強いとしても絶対に寒いだろう。

何か用件があるのか、ただただ遊びにきたのかわからないけど、とにかくすぐにリビングに招き入れることにした。

「クレトの家、めちゃくちゃあったけえな!」

「魔道具で部屋を暖めていますからね」

ストーブを見せてあげると、アンドレはすぐに近寄って手を伸ばした。

「あたたけえ……」

「そんなに寒いなら、もう少し着込めばいいじゃないですか」

「厚着をすると動きづらくなるから嫌いなんだ。それにクレトの家は近いし、一瞬なら我慢できる」

まあ、この世界の服の生地はごわごわしているものが多いのでわからないでもないな。

とはいえ、それで風邪をひいてしまっては元も子もないと思うが、俺が言ったところで聞かないだろう。

「ちなみにこの魔道具は、いくらするんだ?」

「金貨三十枚くらいですね。消費する魔石のことを考えると、追加で銀貨五枚はかかります」

「ううっ、さすがにその値段はきついぜ」

値段を聞いたアンドレが苦々しい顔をする。

エミリオの商会に野菜を買い取ってもらうことができ、例年よりも大繁盛しているが、さすがに手が届かないみたいだ。

「ところで、今日は何か用でも?」

「いんや、ただの暇つぶしだ」

「そうですか」

アンドレとはこの世界にやって来て一番長い付き合いだ。

たとえ、用事がなくやってきても全く迷惑に思わない。少し前に商会の仕事もまとめて終わらせたし、秋の作物もあらかた収穫してしまった。ぶっちゃけ俺も暇だしな。

「温かいお茶とチキンスープ、どっちがいいです?」

「チキンスープ!」

二択を提示してみせると、アンドレは迷うことなくスープを選んだ。

その元気の良さに苦笑しながら、朝食の残りのチキンスープを温めた。

マグカップに入れてテーブルに置いてやると、アンドレが嬉しそうにやってくる。

「うおお、鶏の旨みがしっかり出てるな」

口をつけるなり、アンドレが感嘆の声を漏らす。

「内蔵や血合いをしっかりと除去して、余分な脂や臭みもしっかり落としました」

黄金色の液体に浮かぶのは刻まれたネギだけ。

余分な具材はなく、純粋に鶏の旨みだけを味わう一品に仕上げた。

「これ作るのにどれだけ時間をかけたんだ」

「四時間です」

弱火でアクを取りながら四時間ほどじっくり煮込んでやった。

お陰で前世の鶏ガラの元で作ったスープよりも何倍も美味しいスープができて満足だ。

「暇人だなぁ」

「……チキンスープ、没収しますよ?」

「冗談だっての!」

俺が手を伸ばすと、アンドレがマグカップを守るように抱いて守った。

それだけ俺の作ったチキンスープを美味しいと思っているのであれば、良しとしよう。

「しっかし、収穫祭が終わったと思ったら、あっという間に冬になったな」

「秋は収穫作業に収穫祭と慌ただしかったですからね」

濃密な時間だったからこそ時間を短く感じたのだろう。

とはいえ、もう少し秋の心地良い天気の中、のんびりしたかった気持ちもあった。

最近ではすっかりと外出が億劫になるような寒さだからな。

「冬の間、見張りはどうなんですか?」

「この季節は人の動きが極端に減るし、動物や魔物の動きも大人しくなる。定期的に見張りはするが、今までのようにずっと見張るようなことはしねえな」

さすがにこの寒空の中、ずっと立っているのも大変だろうしな。見張りの必要性が減っているのであれば、そこに割くリソースを減らすのは当然か。

「農家の方はどうなんです?」

「野菜をいくつか育てるだけだな。冬は基本的に農閑期でゆったりすることにしている」

「やっぱり、この季節は作物が育ちにくいんですか?」

「育ちにくいというより、他の季節に比べれば育てられる作物の種類は少ないって言った方が正しいか」

「でも、時間はあるし、育てられはするんですよね?」

「そうなんだがちょっとした時間潰しのために、旨みの少ねえ作物を育てても意味がないだろ? それよりも、冬は休みと割り切って英気を養う方がいいと俺は思った」

こうやって語ってくれるアンドレを見ると、農家も色々と考えているのだとわかるな。

「じゃあ、冬の間はずっと家に籠っているんですか?」

「今日はやたらと質問してくるな?」

「こういった村で冬を越すのが初めてだったので、色々と皆の生活を知りたいんです」

俺はこの世界にやってきての冬を経験していないので、アンドレをはじめとする村人たちが、どのように過ごしているのか気になったのだ。

前世であれば、暖房やストーブの効いた部屋でゲームをしたり、アニメを見たり、ネットサーフィンをしたりと時間を潰す手段には事欠かないが、そういった娯楽が発達していないこの世界ではどんな風に過ごしているのか。

前世のことを省きつつ伝えると、アンドレは納得したように頷いて話してくれた。

「農閑期とはいっても完全に仕事がないわけじゃねえんだ。普段忙しくてできない家の片付けなんかをしたり、農耕道具の点検や壊れた物の補修。春に育てる作物のための堆肥を作ったりもする。後は意識が高い奴は、他の村に手伝いにいって、栽培方法を学びに行く奴もいる」

「へー、農家にも色々な冬の過ごし方があるんですね」

俺の中で農家の農閑期って完全に暇なイメージがあったのだが、アンドレの話を聞いてみると思っていた以上にやることがあるみたいだ。

どのような季節で、どれだけ時間が余っていようとも、過ごす時間というのはその人次第なんだな。

「後は家に籠って内職だな。編み物をしたり、木を削って食器を作ったり、植物で籠やサンダルを作ったり。自分たちで使うものだけじゃなく、行商人に売ったりして稼いだりもする」

おー、いかにも農村の内職って感じだ。

「アンドレさんの家でも何か作っているんですか?」

「うちではステラが編み物や籠なんかを作って売っているぜ。ステラは内職上手だからな」

どこか照れながらも誇らしげに答えるアンドレ。

ハウリン村では、料理、掃除だけでなく、編み物や籠作りなんかの内職が上手い女性が良い妻である証だと聞いた。となると、そのどれもができるステラは本当にいい奥さんなのだろうな。

「そういった夢中になれる手仕事があるのはいいですね」

一人での時間潰しの手段が乏しい現状、物づくりというのは手段のように思えた。

仮に売り物にならなくてもいい暇つぶしになるかもしれない。

「暇ならクレトもやってみるか? 家を出る前に、ちょうどステラが籠作りをしていたぜ?」

「それじゃあ、ちょっとお邪魔していいですか?」

「ああ、いいぜ。でも、その前にチキンスープをもう一杯飲ませてくれ」

立ち上がった俺の前にアンドレは堂々とマグカップを差し出してきた。

本当に気に入ったんだな。