作品タイトル不明
お揃いの品
「わあ、このブレスレット綺麗!」
商品を眺めていると、ニーナが装飾品コーナーで足を止めた。
銀色のチェーンには小さな宝石が埋め込まれている。
豪奢な装飾はされていないが、普段使いやちょっとしたオシャレとしても使用できる一品のようだ。
値段も銀貨一枚となっており、価格もお手頃だ。お金をあまり使わないハウリン村の人でもポンと出せる優しい金額。
「ほお、宝石の色も色々とあって綺麗じゃな」
「ちょうど私たちの髪と同じ色だ!」
ニーナに言われて隣に並んでいるのを見てみると、藤色、金色、藍色、黒とちょうど俺たちの髪色と似たような宝石が埋め込まれている模様だった。
「本当だ」
「なんだか運命のようなものを感じるな」
「え?」
隣で呟いたカーミラの言葉が意外で素っ頓狂な声漏れた。
「えっ? とは失礼だな、クレト殿。私だって女の端くれだ。そういうことを考えることだってある」
「す、すみません」
カーミラの口からまさかそんな言葉が漏れるとは思わず、失礼な反応をしてしまった。
申し訳なさから謝るしかできない。
「……これ、買っちゃおうかな」
「うむ、いいの! せっかくじゃ、全員で買って付けるとするか!」
ニーナに便乗してアルテが思いもよらない提案をした。
その言葉に俺とカーミラは揃って間抜けな声を上げる。
「「え?」」
「安心しろ。クレトとカーミラの分は日ごろお礼も兼ねてわらわが買ってやるからの」
お揃いのブレスレットを買って付けるなんてことは、男として生きてきた俺の経験上でなかったので戸惑いしかない。
男の友人と付けるなんてあり得ないし、恋人がいた時も重いかなと思ってプレゼントで贈ることはなかったくらいだ。どのように返答すればいいかわからない。
カーミラもそういった事をするのは、あまりなかったのだろう。
彼女も困っているのがありありとわかった。
「皆でお揃いのブレスレットなんてすっごく嬉しい!」
困惑する俺たちであるが、ニーナのこの上なく嬉しそうな顔を見れば否定することなんてできない。
「あ、ああ」
「ありがとうございます」
俺たちの分はアルテが払ってくれるとのことなので、素直に厚意を受け取っておくことにした。
ニーナが自分の髪色と同じ宝石の埋め込まれたブレスレットをレジに持っていき、アルテが自分の分と俺とカーミラの分を持っていき清算してくれる。
「ほれ、クレトとカーミラの分じゃ」
清算を終えるなりアルテが戻ってきてブレスレットを渡してくる。
二人は早速腕につけたのか左腕に銀色のブレスレットが輝いていた。
アルテにはアメシストのような藤色の小さな宝石が、ニーナにはトパーズのようなレモン色の宝石が輝いている。
それらの彼女たちの綺麗な髪色ととてもマッチしていて、魅力をより引き出しているようだった。
「二人もつけてつけて!」
ブレスレットにも負けない輝きを放つ眼差しを受けて、俺とカーミラもブレスレットを装着した。
カーミラはラピスラズリのような藍色の宝石が、俺には黒曜石のような黒の宝石が。
二人に請われて装着した腕を差し出して見比べてみると、なんともむず痒い気持ちになった。
「これで四人ともお揃いだね!」
「じゃな!」
ニーナとアルテが弾けんばかりの笑みを浮かべる。
それを見ただけで俺は嬉しくなった。頬を緩めているカーミラも同じ気持ちに違いない。
こんな風に皆でお揃いのものを買うなんて何十年ぶりだろうか。
俺一人じゃ気恥ずかしさのせいで絶対に買えなかっただろう。プレゼントとして買ってくれたアルテの優しさに感謝だ。
にしても、俺たちと同じ髪色の宝石なんて偶然なのだろうか?
エミリオやロドニーがこっそりと取り替えていたり? いや、さすがにアイツらもそこまでしないか。偶然だと素直に思っておこう。
●
俺、ニーナ、アルテ、カーミラの四人は収穫祭の屋台を見て回り、時に村人たちと腰を落ち着けてお喋りをしたり、また買い物に繰り出したり――そうやって過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「気が付くともう夕方だね」
いつの間にか太陽は沈んでおり、遠くに見える山々に隠れようとしている。山間から差し込む茜色の光がどこか物悲しい。
「なんだかあっという間じゃったな。でも、クレトやニーナたちのお陰で最高に楽しい祭りじゃった」
「ああ、俺もそう思うよ」
建国祭は慌ただしくあまり参加できなかったが、きちんと参加したのはハウリン村の収穫祭が初め
てだった。収穫作業や交渉と大変なこともあったけど、最初から最後まで参加できて非常に満足だ。
程よい疲労感がとても心地いい。疲れているのにとても満足しているなんて、ブラック企業で働いていた頃には決して味わえない感覚だな。
「え?まだ収穫祭は終わってないよ?」
「「あれ?」」
などとしんみりと浸っていると、ニーナの言葉で現実に引き戻された。
収穫祭の終わりとして感想を言い合っていただけに、ちょっとだけ恥ずかしい。
「確かに周囲の様子を見ると畳んでいる屋台こそ多いですが、活気は失われていませんね。むしろ、今からが本番と言わんばかりです」
カーミラが冷静に周囲を見渡しながら言う。
ほとんどの村人は屋台を閉じるようだが、すべての屋台が閉じているわけではない。
中央広場には続々と木材や運ばれ、屋台の代わりに大きなテーブルや長イスなんかが設置されていく。祭りが終わるようなしんみりとした空気とは正反対で、これからのイベントが本番と言えるような活気だった。
「ニーナ、この後は何をするんだい?」
「キャンプファイヤーだよ! 大きな火を焚いて、皆でご飯を食べて、歌ったり、踊ったりするんだ!」
火の規模を表すために両手を大きく広げて語るニーナ。
文化祭の後夜祭みたいなものか。
「なるほど。大盛り上がりするイベントが残っているとなれば、帰るわけにはいかんな!」
「そうだな。最後まで楽しまないとな」
まだ大きなイベントがあるのであれば、楽しまないと勿体ない。
しんみりとした気持ちを捨てて、再び祭り気分にスイッチを押すことにした。
とはいえ、準備が整うまでに俺たちにできることはない。
村人の屋台の片づけを手伝ったり、テーブルやイスを指定の場所に運んだりする。
「クレト! すまんが、お前の魔法で木材を移動させることってできるか?」
「できますよ。お手伝いします」
そうやってお手伝いをしていると、アンドレに呼ばれたので中央広場に移動。
そこには自分の身長よりも遥かに大きな木材が並んでいた。これを人力で組んでいくのは中々に大変だ。
しかし、空間魔法を使える俺ならばすぐにできる。
「どこに組めばいいですか?」
「盛り土をしているその辺りで頼む」
アンドレに言われて地面を見てみると、こんもりと地面が盛られていた。
恐らく炎などで地面を傷め過ぎないための対策なのだろう。
組み立てる場所を把握した俺は空間魔法を発動。
「転移」
薪となる木材を一本ずつ転移させ、風が通りやすいように陣を組む。
崩れないように転移で積み上げていくと、一階建ての民家に迫るような高さの焚火が完成した。
「こんなもんでどうです?」
「うおおおお! バッチリだ! いつも焚火の準備に時間がかかって大変だったが、クレトのお陰で今年は楽にできたぜ!」
アンドレをはじめとする焚火係に駆り出された男性たちが嬉しそうな声を上げた。
一本を持ち上げるだけでアンドレが三人くらい必要そうな重さだったからな。
お役に立てたようで何よりだ。