軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

095 コレットの想い

あんまりこういった損な役回りは好きじゃないんだが……。

「オレは、今回折れるべきはコレットだと思っている」

「あん? どういうことだよ?」

コレットが眉を逆立ててオレを見た。その顔には不満だとはっきり書いてある。

「今回の事件は、コレットが我を通した結果起きたものだ。いじめは最低だし、許されるべきものじゃないが、今のままでは敵が多すぎる。クラスメイトたちは、将来の権力者だぞ? 嫌われていいことなんてない」

「ぜってーヤだ! なんで俺があんな奴らに謝らないといけないんだ!」

「謝れとは言ってない。ただ、態度を改めろと言っている。コレットはナメられたくないとよく言っているが、ここでは礼儀知らずの方がよっぽどナメられるんだ。戦闘と同じだよ。コレットも敵によって戦法を変えるだろ? それと同じだ」

「なんだよ……。ジルは味方してくれるって思ったのに!」

コレットはまるで信じられないものを見たというような呆け顔から立ち直ると、すぐに悔しそうな表情をみせる。

「帰る……」

そして、テーブルを叩いてガバッと立ち上がると、走って部屋から出て行ってしまった。

バタンッと勢いよく閉められた扉の音が、やけに大きく響いた。

「ジル様……」

「ジル、よかったの? コレット怒ってたけど……」

アリスとコルネリウスが心配そうな顔でオレを見ていた。

「誰かが言わないといけなかったからな。少しはコレットに響いてくれればよかったんだが……。ダメだったみたいだ」

とはいえ、言ったオレにあまり後悔はない。ただ、事実を言っただけだ。この件に関しては、コレットが態度を改めない限り収束はありえない。

だが、オレは断じてコレットの心を折りたいわけじゃない。コレットには、学園で生きるための擬態、たとえ本心ではなくとも礼儀作法を活用する処世術を身に付けてほしいと思っている。

それに、それにちょうどいい場が用意されているのも事実なのだ。チャンスはある。

それまでにコレットの意識を少しだけ変えられればいいんだが……。

だが、それまでコレットにいじめに耐えろというのも酷だな。毒を食らわば皿まで。手を打ってみるか。

翌朝。

俺、コレットは、女子寮を出て教室へと向かう。

「ジルのバカ……」

また思い返してしまうのは、昨日のジルの話だった。

まるで俺が悪いみたいに言いやがって。ジルなら俺のことをわかってくれると思ったのに……。なんだか胸がもやもやする。

直後に部屋を出てしまった俺も悪いけど、ジルはもっとひどい。俺の気持ちを裏切りやがって。

「見て、あの子よ」

「ああ、例のお猿さんね」

「チッ」

廊下ですれ違った上級生がクスクス笑うのを見て舌打ちをする。

嫌な奴らだぜ。文句があるなら俺に直接面と向かって言ってみろってんだ。タイマンする勇気もないザコが囀ってんじゃねーよ。

朝から気分悪いぜ。

「ちょっといいか?」

教室に近づくと、不意にジルの声が聞こえて、廊下の角に隠れてしまった。なんとなく、今ジルと顔を合わせるのは気まずい気がしたのだ。

「ジルベール? どうしたんだ?」

「なにか用か?」

「ああ。コレットの件でちょっとな」

クラスメイトと話し始めたジルの口から俺の名前が出て、ドキッと心臓が跳ねる。

「猿の話か……」

「あの猿のことでなにかあるのか?」

クラスメイトたちが俺のことを猿呼ばわりする。今すぐ出て行ってボコボコにしてやりたい。でも、ジルがなにをするのか気になってジッと耐えた。

「猿なんて呼ばないでくれよ。コレットはかわいい女の子じゃないか」

「ッ⁉」

か、かわいい!? 俺が!? ジルは俺をかわいいと思ってるのか!?

なんだろう。顔が熱い。胸がドキドキして、でも、締め付けられたように苦しい。こんなの初めてだ……!

「本題に入ろうか。単刀直入に言えば、コレットへのいじめをやめてくれないか?」

ジルの言葉に俺は一気に現実に引き戻された。まさか、あの二人が犯人なのか?

「私はやってないぞ!?」

「そうだ! 我々はやってない!」

「知ってるよ。だが、コレットがひどい目に遭ってざまぁみろって思っただろ? その気持ちまでは否定しないが、マネして手を出さないでやってくれ」

「ッ⁉」

その時、俺はジルがちょこんと頭を下げるのを見た。

俺も礼儀作法の授業は受けているから、それがどんなに異常なことかわかるつもりだ。ジルは男爵家の当主。そしてクラスメイトはただの貴族というだけで無位無官だ。

立場の上の者が、下の者に頭を下げることは基本的にない。

ジルベールだってそのことはわかっているだろう。特に、ジルベールは男爵家の当主だ。その頭は軽くない。簡単に頭を下げちゃダメなんだ。でも、ジルベールは頭を下げた。俺のために……!

「わかった……」

「話はわかったが、ジルベールはどうしてそこまであの猿に手をかけてやるんだ? 放っておけばいいだろ?」

そうだ。ジルはなんで俺のためにそこまで……。

「コレットは大切な友だちだからな。友だちのピンチなんだ。助けるだろ?」

なんでもないことのように言ったジル。その言葉は嬉しくて。でも……。

「なんで、こんなに苦しいの……」