軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106 ゴメリー

「いひゃい……」

オレは襲い来る眠気に抗うために自分の舌を噛み切る。

途端に口の中に広がる温かい鉄の味と鈍い痛み。それだけがオレの意識を繋ぎ止めてくれる。

「ふんぬ!」

そして、あまりの眠気に動かなくなっていた体に喝を入れ、なんとか右手を上げることに成功した。そして、その右手で思いっきり自分の顔を殴る。

噴き出す鼻血と共に一気に意識がはっきりした。

ゴメリーの子守歌は確率で対象を睡眠状態にする凶悪なスキルだ。ゲームでは一度睡眠状態になったら攻撃を喰らうまで行動不能になっていた。

だが、これはゲームじゃない、現実だ。ゲームでは不可能だった自傷行為で攻撃を貰った判定にすることができる。

今のオレの頭は先ほどまでよりシャッキリしていると自覚するほどだ。まるで短時間の質の良い睡眠を取ったようですらある。

「感謝するぜ、ゴメリー。そしてさらばだ」

オレは収納空間を展開すると、ゴメリーの頭をサクッとカットした。本当は殴って倒そうかと思ったのだが、ゴメリーの子守歌を使われるたびに自傷するのが面倒になったのだ。

ボフンッと大きな白い煙となって消えるゴメリー。

ゴメリーのいた場所にはなにか落ちていた。

「何がドロップしたかなー?」

これがレアポップモンスターを倒す楽しみの一つ。ドロップアイテムだ。まぁ、レアドロップで良い装備がドロップするのは三パーセントくらいしかないので、今回もハズレだろう。

「えっと、毛皮が六枚と、お!」

分厚く白い毛皮を収納すると、くたびれた角笛が草原の上に転がっていた。

「ゴメリーの角笛! おっしゃっ! いよふぃいいいいいいいいい!」

ポーションで回復するのも忘れて、鼻血を垂らしながら、思わず両腕を突き上げて踊ってしまう。

「これだよ、これこれ! これだからレアポップモンスター狩りはやめられないぜ!」

このドロップしたばかりなのに長年使い込まれた風格を漂わせているのが、ゴメリーのレアドロップアイテムであるゴメリーの角笛だ。その効果はララバイの効果アップだ。

ララバイは、吟遊詩人が使う呪歌の一つで、モンスターを眠らせる効果がある。ゴメリーの角笛は、ララバイの効果を強化できる唯一の楽器なのだ。

そのため、ゴメリーの角笛はかなりの人気の装備だった。特に、吟遊詩人だけができる範囲睡眠の呪歌で一気に大量のモンスターを眠らせて敵の数を減らす作戦の要を担う装備として人気が高い。

具体的には、大量のモンスターがボス部屋にいる第五十階層を手軽に踏破するための手段として吟遊詩人とゴメリーの角笛は大注目された。

そのため、それまで吟遊詩人のキャラを育てていなかった吟遊詩人難民や、ゴメリーの角笛を手に入れられない角笛難民が大量に出たとかなんとか。

まぁ、オレはゴリ押しで第五十階層のボス部屋を突破したから難民にはならなかったんだが。

でも、すべてのアイテムを集める過程でゴメリーの角笛には何度もドロップがなくて苦しめられた。

「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

そんな装備がまさか一発で出るとはな。オレの喜びを少しでもわかってほしい。

「ふお!? やっべ」

鼻血を撒き散らして踊っていたら、肝心のゴメリーの角笛がオレの鼻血で汚れてしまった。オレはすぐさま踊りをやめて綺麗な布で角笛を磨く。

「あぁ……。本当にゴメリーの角笛なんだなぁ……」

ゴメリーの角笛のゴツゴツした感触がオレのテンションを再び昂らせる。

吟遊詩人キャラが仲間にいない? そんなことが些事に思えるくらい嬉しい。もう狂喜乱舞するレベルだ。

「またね、ゴメリー」

オレは惜しむように磨いた角笛を収納空間に収納すると立ち上がる。

「おっと……」

立ち上がった時、ちょっとクラッとした。

そういえば、鼻血が出っぱなしだったな。浮かれて血を流し過ぎたのかもしれない。

オレは収納空間から小瓶を取り出して中身を顔にぶちまけた。青臭いむあっとした香りと共に鼻の通りがよくなる。体力回復のポーションで回復したのだ。

「さて、こうしちゃいられない」

オレは顔を二、三度振るとまた走り出す。

少しでも早く、長く、オレはダンジョンを感じていたい!

きっとこの気持ちは恋なのかもしれない。

いや、待てよ?

じゃあ、オレのこのアリスへの溢れんばかりの愛おしさはどうやって表現するんだ?

「愛……か?」

もし、いや、そんなことはないのはわかっているが、もし、そう、仮にアリスかダンジョンか選べと言われたら、オレは間違いなくアリスを選ぶ。

これが愛なんだなぁ。

昔、まだ日本にいた頃、恋とは下に心があるので下心であり、愛は真ん中に心があるので真心なんて言葉遊びを聞いた覚えがある。

だが、オレはダンジョンに楽しみを求めているが、アリスには求めるというか、オレのすべて捧げたい気持ちだ。

例えるのなら、神の無償の愛のようなものである。アガペーだ。アガペー。

「そうだ。今度はアリスと一緒にダンジョンに来よう。きっと楽しいぞ」