軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101 舞踏会本番

そんなこんなで始まった学園の舞踏会。本来の社交界ならば王様や王族への挨拶などがあるが、王様は貴族の大人たちが集まる本物の社交界へ出席するため時間が取れず、王族のエグランティーヌやエドゥアールには日常的に接しているので省略された。

そうして始まったのがダンスパートだ。オーケストラの演奏と共に生徒たちが次々とダンスを披露している。本来の社交界なら、ダンスを踊るのも踊らないのも自由なのだが、今回は礼儀作法のテストという側面がある。生徒たちは予め決められた順番通りにダンスを披露するのだ。

「ジル様、よろしくおねがいします……」

アリスとダンスをする順番が回ってきたのだが、アリスは微かに震えて緊張しているようだった。

「アリス、大丈夫だよ。まずは深呼吸してみよう。吸って、吐いてー」

「すー、はー」

「失敗したって大丈夫。オレがついてるよ。だから、この時間を楽しもう」

「ジル様……。はいっ!」

そうして、鳴り始めたオーケストラの奏でる演奏に乗って、オレたちはステップを踏む。アリスと踊るのは、中級程度の難しさのダンスだ。アリスとも何度も練習してきたが、今日もバッチリだね。

最初は緊張からか少し動きが硬かったけど、次第に緊張も解けてきたみたいだ。さっきのターンなんて、練習を含めても一番のできだよ。

「ジル様……」

「どうしたの?」

なんだかアリスの顔が少し赤い気がする。目もトロンとして、キラキラ輝いている。その口は、なにかを求めるように少しだけ開いていた。

なんだか、アリスが妙に色っぽいような……?

バカな。アリスはまだ十二歳の少女だよ? そんなわけない。オレの幻覚だ。

その後、ラストもビシッと決めてアリスとのダンスが一段落する。至近距離から見つめてくるアリスのかわいさといったらもう……! 理性が飛んじゃいそうだった。

「おつかれさま、アリス」

「ジル様、お疲れさまです。次はコレットとですね。わたくし応援しています!」

「ありがとう」

一度パートナーとダンスをすれば、あとは自由にパートナーを変えてダンスをしてもいいことになっている。次はコレットを誘ってダンスしないとな。

オレは一度アリスと別れると、コレットを探して会場内を歩く。

「お、いたいた」

コレットは会場の隅で不機嫌そうに腕を組んで一人で立っていた。マヌーケ君はどうしたんだろう? コレットと一緒にいるのが嫌でどっか行っちゃったのかな?

「よお、コレット。準備はいいか?」

「ジル、待ちくたびれたぜ」

「マヌーケはどうしたんだ?」

「あいつ、俺よりダンスが踊れなかったから、怒ってどっか行っちまったぜ? 顔真っ赤にして最高だった」

「そうか」

マヌーケ君もかわいそうに。ダンスも踊れないコレットをバカにしようと思ったのかもしれないが、逆に自分が間抜けをさらしたようだ。

「じゃあ、いこうか」

コレットに手を伸ばすと、コレットが優雅な所作でオレの手を取った。さすが、練習の成果が出てるね。オレも背筋を伸ばす気持ちでコレットをダンスの舞台にエスコートする。

そして、オレとコレットのダンスが幕を上げる。

「素敵……」

わたくし、アリスの呟きが、そっとオーケストラの奏でるハーモニーに溶けて消えていく。

わたくしの視線の先では、ジル様とコレットが優雅にダンスを踊っています。そのダンスはとても難しいけど、見ているととても優雅で素敵でした。

「なっ⁉ あれは!?」

「あの高難易度のダンスを一年生が踊る……だと……?」

「あれは誰だ? 一人は新人戦で優勝した子だろ? そのパートナーは誰だ?」

「まさか、お猿さん?」

「え? でも、たしかにあの顔は……」

「誰よ、猿だなんて呼び始めたのは? あんなに優雅に踊っているじゃない」

「美しい……!」

周囲にいる方々も感心した様子でジル様とコレットのダンスを見ています。ジル様の作戦は成功したことをわたくしは確信いたしました。

でも、わたくしの胸の内には、喜びよりも大きな感情が芽生えつつあったのです。

「なんで……」

わたくしはここで見ているだけなの? なんでジル様と踊っているのはわたくしじゃなくてコレットなの? どうしてわたくしは……。

そんなつもりはなかったのです。ジル様はちゃんと事前に確認してくださいました。ジル様とコレットのダンスの練習の時も見ていました。ジル様が、下心ではなくコレットのために立ち上がったこともわかっています。わたくしもコレットを心の底から応援していました。

なのに……。

どうしてわたくしの心はこんなに暗く重たくなっていくのでしょう?

「はぁ……」

こんな醜い気持ちなんて吐き出してしまおう。そう思って深呼吸しようとしますが、出てくるのは重たい溜息ばかり。胸のもやもやも残ったままです。

これ以上、二人を見ていられない。

そう思って視線を逸らした時でした。

「お嬢さん、一人かな?」

いつの間にか、わたくしの前に見知らない殿方が立っていました。