軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

001 スケートごっこが招いた奇跡

ゲームでさ、チュートリアルってあるじゃん?

アイテムの使い方とか戦闘の方法だとかを教えてくれるアレだ。

オレ、主人公にチュートリアルで倒される悪役モブなんだわ…………。

それも、主人公に戦闘方法と必殺技を教えるチュートリアルの…………。

必殺技ってなんだよ? 必ず殺す技とか怖すぎるだろ!?

「はっ!?」

目が覚めると、綺麗に彫刻が施された天蓋が見えた。いつものことだ。どうやらオレはベッドで横になっているらしい。

「いてて……」

後頭部がズキズキと痛んだ。

たしかオレは、廊下ですっ転んで……。

あれからそれほど時間は経っていないのか?

「坊ちゃま?」

「うん?」

天蓋の向こうからオレを呼ぶ声がする。たぶんメイドだろう。

「目が覚めましたか。旦那様に報告してまいります」

「ああ……」

仮にも十一歳の子どもが意識不明になったにしてはとても冷たい反応だった。

まぁ、オレのこれまでの行動を思えば仕方がないのだけど……。

メイドが部屋を出ていったのを確認したオレは、ベッドから出ると姿見の前に立った。

「なるほど。たしかに面影がある……か?」

そこに映ったのは、黒髪黒目の体格のいい……いや、言葉は飾るまい。デブの子どもだった。まるで子ブタみたいだ。

だが、似ている。

美麗なイラストと3Dとアクション性で人気になったPCゲーム『レジェンド・ヒーロー』の悪役モブに。

「たしかあいつの名前もジルベールだったよな?」

いちいち事あるごとに次期侯爵のジルベール・ムノーと名乗っていたから、オレでもしっかり覚えている。

「だが……」

今のオレには、ジルベール・ムノーとして生きた十一年と日本で二十二まで生きた記憶がある。

日本での記憶は、飲み会で泥酔した記憶で途切れている。もしかして、急性アルコール中毒で逝っちまったのか?

悔やむ気持ちはある。だが、ジルベール・ムノーとしての記憶があるからか、そこまで落ち込むことはなかった。

というよりも、これからどうするか考えないといけない。

そんな気持ちの方が強かった。

ジルベール・ムノーは、『レジェンド・ヒーロー』の世界では主人公に必殺技で倒される悪役モブだ。その後、ジルベールはストーリーに登場しない。もしかしなくても死んでるんじゃないか?

必殺技だしなぁ。必ず殺す技だもんなぁ……。

このままでは、主人公に殺される。

これも問題だが、オレには他にも問題がある。それはオレが現在ムノー侯爵家で圧倒的に嫌われている点だ。

さっきのメイドの態度だったりな。実は家族からも嫌われている。

というのも、オレの授かったギフトが【収納】だったからだ。

この世界では、十歳になると神様からギフトと呼ばれる不思議な力を授かるのだが、オレのギフトはものを異空間に収納することができるだけの【収納】だった。

個人の強さが貴ばれるこの世界で、攻撃できないギフトというのはかなりのハンデになる。

これが理由でオレは嫡子から外されたくらいだ。

まぁ、オレはそれが認められなくて次期侯爵を名乗り続けたわけだが……。

だが、現実は非情だ。

今では次期侯爵は一つ下の弟であるアンベールが嫡子とみなされている。ちなみにアンベールのギフトは【剣聖】だ。強そうだね。

オレは思い通りにならない現実にイライラし、そのイライラを周囲にぶつけた。

性格がねじ曲がってしまったんだろうな。オレは人が嫌がることが大好きだった。

メイドのお尻や胸を触るのは当たり前、スカート捲りなんかもしたし、執事やメイドや領民に無茶な命令をして困らせるなんて日常茶飯事だった。他にも侯爵家の権力を笠に着てやりたい放題だ。

すっ転んで意識を失ったオレだったが、何の因果か前世の記憶を思い出した。

もしあのままだったら、オレはめでたくゲームの通りに主人公に殺されていただろう。つるつると滑る廊下でスケートごっこしてすっ転んで本当によかった。まだ頭が痛いけどな。

「さて……。この先どうする……?」

主人公に殺される未来なんて絶対に回避したいし、みんなから嫌われているこの状況もどうにかしたい。

それに、この先ムノー侯爵家に待っているのは破滅だ。なんと、ムノー侯爵は王国に反旗を翻して潰されるのだ。できればその未来も回避したい。

心を入れ替えたなんて宣言してもみんな信じてくれないだろうし、やっぱり行動で示していくしかないよな。

それに、この世界は個人の強さが貴ばれる。ならば、オレが強くなれば、みんなのオレを見る目も変わるんじゃないか?

前世の記憶が蘇った今のオレには、侯爵家の当主の座なんてどうでもいい。どうせ侯爵家なくなっちゃうかもしれないし。

でも、オレの持つゲームの知識を使えば、効率よく強くなれるのでは?

「やってやるか! がんばるぞ!」

姿見には、デブった少年が拳を突き上げている姿が映っていた。

「まずは痩せるか……」

「ぜはぁー……、ぜはぁー……、ぜはぁー……、ぜはぁー……」

とりあえず庭を走ってきた。

みんなは奇妙なものを見る目でオレを見ていたな。中にはクスクス笑ってる奴もいた。デブが走って悪いかよ!

「も、もう動けん……」

オレは屋敷を一周することなく疲れて座り込んでしまった。脇腹が痛い。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ……。喉が……、乾い……、た……」

少し呼吸が落ち着いたところで、オレはあることを思いついた。

こんなことなら、【収納】の中に水でも入れてくればよかった。

以前のジルベールならば、無い発想だろう。ジルベールは【収納】のギフトを心底嫌っている。荷物を持つなど従者の仕事。従者のギフトだと嫌っていたのだ。

「そういえば、まだ【収納】を使ってなかったな……」

一度使ってみよう。

「収納……!」

すると、目の前に四角い黒い空間が現れた。

「おお!」

これが【収納】のギフトか。この中にものを収納できるのか?

オレは近くに落ちていた小石を黒い空間に投げてみる。

「おぉー!」

小石は無事に黒い空間の中に収納された。意識すれば、収納スペースの中に小石が入っているのがわかる。

「出すこともできるのか?」

小石を収納スペースから取り出すイメージをすると、小石が黒い空間から飛び出てきた。オレのお腹にポヨンと当たって地面に落ちる。

「これって……投げて入れたから、投げた勢いのまま出てきたってことか……?」

収納空間の中では、運動エネルギーも保存されるのだろうか?

これってすごいことなのでは?

「これってどのくらいはいるんだろう?」

オレは立ち上がると、庭に鎮座している大きな岩へと近づいていく。

「これは入るのか?」

オレは黒い収納空間を展開すると、岩を収納空間に飲み込んでいく。収納空間はオレの周りなら自由自在に大きさや形を変えたり、移動することもできるみたいだ。

「ん……?」

岩を収納し始めた直後に、なんだか自分の中から温かさが消えていく感覚がした。

最初は勘違いかと思ったが、岩を収納空間に飲み込むたびに体から熱が奪われていく感じがする。もう背筋が冷たくゾクゾクし、手足が震えだすほどだ。

尋常なことじゃない。

オレは急いで【収納】のギフトを終了すると、信じられないことが起きた。

「え……? オレは収納しただけで……。なんで岩が切れてるんだ……?」

なんと、岩が収納空間によって滑らかにくり貫かれたように消えていたのだ。意識を向ければ、収納スペースに岩が収納されているのがわかった。

「これって……」

まさかの事態にただ驚き固まることしかできない。

「もしかして、【収納】ってかなり強いのでは……?」