軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者はお姫様と楽しく過ごす

一夜が明けた。

もちろん同じベッドに寝るわけにはいかないので、昨晩はガリウスが床に転がった。慣れていたはずだったが、久しぶりだったからか節々が痛い。

ククルを起こさないよう、静かに朝食を作る。

茹でたジャガイモをすりつぶし、ミルクと合わせて煮立たせた。生でも食べられる季節の野菜を小口に切って投入。味を調え、ついでにかまど近くにパンを置いて温めた。

「お、おはようございます……」

出来上がる直前でククルが目を覚ました。

ガリウスの長袖シャツを寝間着代わりに、よたよたと寄ってくる。朝が弱いのか、まだ昨日の疲れが取れないのか。

驚いたことに、彼女は走って都からここまで来たらしい。自らの足で、だ。

馬車で三日ほどかかる距離であるが、一昨日の夜飛び出してから、道中で仮眠を挟みつつではあるがほぼ走りどおしで翌日の夕方に到着したことになる。

驚異的な身体能力は、最強種族との呼び声も高い竜人族の血を引くがゆえか。

「おいしいです! ガリウスさんは料理もお上手なのですね」

眠気が吹っ飛んだククルは目を輝かせて小さな口へせっせと運ぶ。ちなみに昨夜、いつまでも『ゆうしゃさん』と呼ばれるのもあれなので、名前で呼んでもらうことにした。

「素材がよいのかもな。山羊乳はゴブリンたちからもらったものだ。ジャガイモはオークの爺さんに、収穫を手伝ったとき分けてもらった」

「そう、なのですか……」

「ああ。みな俺によくしてくれている」

昨夜から、ふだんの生活や仕事の話をククルに語って聞かせていた。

疑ってはいないようだが、自分が抱いていたイメージと異なるのでまだ若干の戸惑いがみられる。そこでガリウスは考えた。

「これから俺は仕事だが、君はどうする? もしよければ、見学していくか?」

実際に亜人たちと交流している姿を見せれば、より理解が深まるだろう、と。

「お仕事の邪魔には、ならないですか?」

「まあ、問題はないさ」

どのみち彼女を一人で待たせるのは気が引ける。今日の仕事は川での漁だ。付き添いならピクニック気分で楽しめるだろう。

「では、ぜひご一緒させてください」

朝食の後片付けのあと、二人で馬車に乗って出かけていった――。

町の東側を流れる川にやってきた。

この日、一緒に作業するのは魚人族だ。

人のかたちをしているが、体中に鱗があり、手足の指の間には水かきが備わっている。当然泳ぎが得意で、水中でも一時間近く活動できるそうだ。

ふだんは川に潜って魚を獲るが、今日の漁は大きな網を使う。

網の端を持った魚人族の男たちが水に入り、川の中央付近まで泳いで引っ張っていった。

しばらくすると、今度は川岸にある木製の巻き上げ機で網を引き揚げる。

巻き上げ機を回すのは二人がかりだ。

しかも相当な力がいる。

ガリウスの【アイテム・マスター】は単純な力作業には向かなかった。ガリウス自身の筋力が足りないからだ。

そのため、ガリウスは網にかかった魚の仕分けを手伝った。

いろいろな種類の魚がいるものの、分けるのは大きさを基準にする。

かぎ爪のような道具で魚を引っかけ、三つの水槽にぽいぽい放り投げていく。多少間違えても気にしないそうなので、魚人族が目を見張るほどのスピードで、しかも魚を傷つけずに仕分け作業を進めていた。

一緒に仕分け作業をしていた魚人族の少年と語らう。

「ガリウスさん、釣りは好きですか?」

「やったことはあるが、じっくり腰を据えて楽しんで、というのはないな」

「今度行きましょうよ。ずっと上流は町を挟む二本の川が合流してるんですけど、釣りスポットとしてはなかなかの場所なんです」

「君たちは水に潜って魚を捕らえるのが得意なのではないのか? 釣りは非効率のように思うが」

「その非効率なところが面白いんですよ。潜って捕まえるのは簡単すぎますからね」

趣味として楽しむ者が、魚人族には多いらしい。

「もっと上流に行けば急流下りも楽しめますよ。夏は他の種族の子どもたちを連れてよく行くんです」

「君たちが一緒なら安心だな」

そういうことです、と少年は白い歯を見せた。

と、あっちこっち見学していたククルがパタパタと駆けてきた。

「あの、ガリウスさん。わたくしも何かお手伝いしたいのですけど、いいですか?」

一人何もしないのを気にして、ではなさそうだ。そわそわとした様子から、自分も何かしたくて仕方がないらしい。

「では、俺と一緒に仕分け――」

「わたくし、あちらのをやってみたいですっ」

言うが早いか、ククルは巻き上げ機へ走っていき。

ぐるぐるぐるぐるぐるーっと。

ものすごい速さで取っ手を回す。しかも一人で。

巨大な網はあっという間に引き揚げられた。

「すごい力だな」

ガリウスが感心していると、横で魚人族の少年もうなずいた。

「ククル様は竜人族の歴史でもトップクラスの力をお持ちですからね」

通常、ヒトとの混血は血が薄まるため、元となる種族の能力が低く受け継がれる。

ただし中には突然変異し、ハーフでも極めて強い能力を発現する場合があった。

ククルはその典型で、竜人族の高い能力をさらに上回る筋力、体力をその小躯に宿していた。さらに魔力量も半端ないらしい。

現在最強であるジズルを超えるのは時間の問題、とまで言われている。

もし、彼女が十年早く生まれていたら。

聖武具エルザナードを装備した自分でも……。

(嫌な想像はやめておこう)

強さがどうとかは問題ではない。あの純真無垢な女の子と、殺し合わなくて済んだ。

その幸運を、今は噛みしめたかった――。

家に戻ると、リッピとリリアネアが待ち構えていた。

「ククル様!」

「リッピさん、お久しぶりです!」

駆け寄り、がばっと抱擁した二人は、実のところ顔見知りだ。

リッピは両親を人族との 戦(いくさ) で失ってから、ジズルの側仕えとして、主にククルの話し相手をしていたらしい。

最終決戦の前にリムルレスタへ逃れるはずだったが、ジズルとククルの身を案じて単独行動していたところ、人族の捕虜となる。

そこでジズルが倒されたと聞いたあと、ゴッテ将軍に利用されるに至ったのだ。

再会を喜ぶ二人を眺め、ガリウスは荷を下ろす。

ちょうどククルと二人では食べきれないほどの魚をもらってきたので、ムニエルでも作って振舞おうと家の中に入りかけたそのとき。

「リッピさん、赤ちゃんはどうやったら女性のお腹に宿るか、ご存知ですか?」

またその話を蒸し返すのか。

昨夜はけっきょく、ガリウスは曖昧にしか説明できなかった。だが少女の好奇心は留まることを知らないようだ。

「赤ちゃん?」と首をひねるリッピ。

これは夕食時にまた質問攻めか、とガリウスがため息を吐きだした。

ところが。

「知ってるよ。えっとねー、男と女は、体の作りが違ってて――」

なんとリッピは説明を始めたではないか。

しかもその場にしゃがみ込み、小石で地面に絵を描く図解付き。

リリアネアも興味津々で覗きこむ。

が、説明が佳境に入るや、みるみる顔を真っ赤にして、それでも目を逸らさず耳をふさがず聞き入っていた。

「で、ここのところから赤ちゃんの種が出てきて――」

恥ずかしげもなくリッピは解説を続ける。

聞いているガリウスが恥ずかしくなってきた。

ひとまずリッピに後を託し、夕食の準備を始めたわけだが。

「種族によっては『発情期』ってのがあるんだって。ボクはまだだけど、けっこう大変みたいだよ?」

ぴたりとガリウスの手が止まる。

いまだ解消されていない、ひとつの謎。

(猫は、雄も発情期があるのだったろうか……?)

その答えにつながるヒントを得た、そんな気がした――。