軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者は天職を探す

クワの頭部分には四角い穴があり、そこに木の棒を通す。

わずかな隙間に楔をあてがい、金槌をひと振り。

コーンと軽快な音が鳴り、楔はがっちりと嵌まった。

「大したもんだなあ。一発で決めちまうとは。おいらでも難しいってのに」

小柄な男がガリウスの仕事ぶりを見て感嘆の声を漏らした。

口の周りからあごの下までもっさりとヒゲをたたえている。耳はエルフのように長く尖っていた。

ドワーフ族で、道具屋を営んでいる男だ。

クワの頭と楔は金属製。柄は木製。

思いきり金槌を振るえば、勢いあまって柄にヒビが入りかねない。かといって弱く打つと、一見かっちり嵌まっているように思えても使っているうちにすぐ緩んでしまう。

長く使えて、それでいて柄を傷つけない。その域に持っていくのは熟練の技が必要だった。

「こういうのは得意なんだ」

「ゼパルの爺さんに紹介されたときは耳を疑ったが、なるほどすげえもんだなあ」

ここはボルダルの町の中心部。

ガリウスは今、本格的に仕事を見つけようと精力的に動いていた。

とはいえ、道具屋に就職したわけではない。

オークの老人ゼパルの言葉。

『いろいろやってみりゃあいい。そん中で自分にぴたっと嵌まるもんを見つけりゃあな』

自分がどんな仕事に興味を持ち、続けていけるかを知るために、いろいろ挑戦しようと考えたのだ。

今日はゼパルの紹介で、ドワーフの店を手伝っている。

「あんた、ここで働かないか? ていうか、あんたが道具屋を始めたらこっちは商売あがったりだ」

むしろ自分を雇ってくれ、とドワーフの男は快活に笑った。

「あんたの 恩恵(ギフト) は道具に特化したもんなんだろう? だったら道具屋は天職だと思うがなあ」

「使うのが得意なのであって、作るのはまた別の話だ。 恩恵(ギフト) に頼りきりだから、実のところ道具そのものには詳しくない」

ただのクワや斧ならば、ガリウスでもささっと作れてしまう。

ところがこの町――ひいては亜人の国リムルレスタ全般に言えるが、特殊効果を持つ道具を多く使用していた。

国宝級のシルフィード・ダガーほどではないにせよ、今ガリウスが手にしているクワにも、土壌をわずかながら豊かにする特殊効果が付与されている。

希少性のある魔石――魔力や不思議な効果を持つ鉱物――を少量含んでいるのだ。

そういった特殊効果を付与するには、魔石の分量とともに、作り手が適度に魔力を注ぎこむ必要がある。この割合も微妙で、熟練の知識と技がいるのだ。

「でもよ、あんたの 恩恵(ギフト) なら『技』の部分が補えるんだろう? だったら知識を詰めこめばなんとかなるんじゃないか?」

「まあ、そうなんだが……」

ドワーフの男の目がきらりと光る。

「ようしガリウス、ちょいと付いてきてくれ」

だんだん馴れ馴れしくなるのに悪い気はせず、ガリウスは彼の後を追った。

作業場の裏手は鍛冶場になっていて、もわっと熱気に包まれている。

鉄を熱し、ドロドロにしてから、手のひらサイズの陶器の壺を持ってきた。

蓋を開けると、黄土色をしたキラキラ光る粉が入っている。

「こいつは『土の魔石』を粉末にしたもんだ。まずは鉄があっついうちからこいつをパラパラ振りかけて、混ぜたら型に流しこむ。んで――」

今度は古びた金槌を取り出した。使いこまれているが、どこか淡い光をにじませている。

「この『 鍛冶の精の金槌(ドヴェル・ハンマー) 』で魔力を込めつつ鍛えれば、特殊効果付きのクワが出来上がるって寸法よ。まあ、分量とか混ぜ加減とか鍛え方は、テキトウにやってみりゃあいい」

「……魔石は貴重なものなのだろう? 素人の俺に使わせてよいのか?」

「ま、物は試しってな。上手くできたらくれてやるさ。どうだい? やってみないか?」

さすがにいきなり成功するとは思えなかった。

しかし勢いに押され、ガリウスは承諾する。

やるからには真剣に。妥協は許されない。

完成品のサンプルを手にし、じっくり手に馴染ませる。クワを振って感触を確かめた。

熱して赤い鉄に、土の魔石をふた摘まみ振りかける。鋼製のへらでゆっくりと七回、下から上に掬うようにゆっくりと混ぜ合わせる。

型に流しこみ、しばらく放置して冷まし、ある程度の固さになったところで、受け取ったドヴェル・ハンマーを打ちつけた。

形が整うまで、時折炎に晒して熱しながら、一心不乱に鎚を振るう。

この間、ガリウスは【アイテム・マスター】に身を委ねていた。

あたかも自身が一連の作業の 道具(アイテム) であるかのように、心を完全に明け渡して無我の境地に至っていた。

「できた……」

柄を取り付ける際にもドヴェル・ハンマーを用い、魔石の効果を付与したクワが完成した。

「こいつは、たまげたなあ……」

ガリウス自身、手ごたえがあった。

さっきサンプルとして見せてもらったクワを、明らかに凌駕する出来だ。鉄製のクワが黄みを帯びた淡い光に包まれている。

「おいらも長いことこの商売をやってるが、これほどのもんは見たことがないぞ」

男の目が羨望とも尊敬ともとれる輝きを宿す。

「なあ、ガリウス」

がしっと肩をつかまれる。

「あんたは道具屋になるべきだ。おいらと一緒に頂点を目指そうぜ!」

「か、考えておく」

勢いにのけ反ったものの、どうにか『わかった』との言葉は飲みこめた――。

けっきょく、作ったクワは『あんたのもんだ!』と押し付けられた。いくらなんでもタダでもらうわけにはいかず、材料費を支払って買い取った格好だ。

(しかし、魔石があれほど安いとは思えないのだが……)

かなりまけてくれた気がする。

家に帰ると、アオが尻尾を振って出迎えてくれた。

まだ陽は沈みきっていないので、せっかくだから試してみようと裏に回った。

二十メートル四方に柵を作ってから、そのまま放置していた畑だ。

クワを地面に振り下ろす。

さくっと、固いはずの地面にクワが中ほどまで埋まった。

明らかに普通のクワより少ない力で耕せる。

しかも、である。

(なんだか、土が光っているような……?)

土を豊かにする特殊効果のおかげだろうか。

その驚異的な効果が明らかになるのは数ヵ月後の話であるが。

ガリウスの畑は、信じられないほどの豊作に恵まれるのだった――。