軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王たちは塔の罠に挑む

砂漠にそびえる高い塔。砂煙で霞んで最上階は見て取れない。

現在リムルレスタが攻略中の〝アカディア〟遺跡だ。

実行部隊は老騎士ダニオとエルフのマノス、オーガの血を引くノエットに、砂漠の民でカイーラ族のアザムが加わった。四人は二十五階へと到達する。

「ふんっ!」

ダニオの大剣がフィア・ゴーストを真っ二つにする。核を破壊された魔物は消え去った。

「ここらのは一掃したな。すこし休むか」

「そうしてもらいたいな。あんたらタフすぎるぜ」

アザムがその場に腰を落とした。

「にしても、まだ最上階に着かないのかねえ。いや、ここまで来たのも俺らが初めてだろうけどさ」

砂漠の民はいくつもの部族に別れ、それぞれが塔の攻略を目指している。『もっとも早く攻略した部族に従う』との取り決めの下、各部族は先を競っていた。

「他の部族チームは悪霊化した魔物に襲われ全滅したろうな」とダニオ。

「ああ、確実にな。けっきょく俺の仲間もやられちまった。生きてるのは俺だけだ」

「おぬしの仲間は気の毒だが、我らが大きく先行しているのは確かだ」

「でもよ、次の新月まで間がねえ。他の部族はまだ強力な戦力を温存してるはずだ。引っくり返される可能性だってある」

「ずいぶんと悲観的だな。我らはただ階数を積み上げているだけではないぞ? 悪霊化した魔物の存在を他の部族は知らぬ。そんな中で飛びこめばまた同じ轍を踏むだろうよ」

「まあ、そうだけどさ。やっぱ焦るぜ。先が見えないってのはな」

塔の最上階が何階かは明らかになっていない。何か変化でもあれば安心できるが、各階は似たような造りで手応えがまるでなかった。

そこを不審に思った者がいる。

「失礼、ちょっとよろしいですか?」

チームの作戦参謀マノスだ。塔を攻略中に書き記している地図をにらみながら言う。

「妙です。各階の地図を見比べると、似ているどころかまったく同じ構造をした階がいくつもあります」

見てください、と地図を床に広げた。

「さっきの二十四階は十四階と酷似しています。こちらは二十三階と十三階。さらに――」

各階は隅々まで探索して地図に記しているわけではない。それでも書き記した部分がまったく同じなのは不自然だった。

「ふむ。どういうことだ?」とダニオは首をひねる。

「あくまで推測ですが、我々は上に向かっているつもりでいつの間にか 下に降りていた(・・・・・・・) のではないでしょうか?」

んん? とマノス以外が首を傾げた。

「今のところ二十一階からこの二十五階までは、十一階から十五階とそれぞれ同じ構造をしていると言えます。つまり――」

マノスは確信をもって告げる。

「二十一階に上がった時点で、十一階に戻されたのではないでしょうか?」

他の三人が息を呑む。

異論を唱えたのはアザムだ。

「いやいやいや、それって要するに転移だろ? ただのトラップにしちゃ大げさすぎねえか?」

「数階の距離ならワシでもできる。古代の遺跡だ。それくらいのトラップはあって当然だな」

うんうんとノエットも大きくうなずく。

「とはいえ検証は必要だろう。ひとまず三十一階まで駆け上ろう。戻されたのなら既存の地図で上への階段はすぐ見つかるはずだからな」

そのうえで塔の出口まで一気に下りる。戻されたのなら二十階分で済むはずだ。

「マジかよ……」

げんなりするアザムの背をどんと叩き、

「若いもんが弱音を吐くな。目標が定まったのだからむしろ喜ぶべきだぞ」

ダニオは豪快に笑ってみせた――。

マノスの推測は 半ば(・・) 的中した。

三十階までは十一階以降とまったく同じ場所に上への階段があり、通った道もまったく同じ位置だった。

しかし三十一階から引き返すと、きっちり上ったのと同じだけの階数を下りる必要があった。

「ガリウス殿、どう思うね?」

アザムの住むカイーラ族の村に戻り、ダニオはピュウイを介して尋ねる。

『なに、マノスの推測どおりさ。ただ帰り道でもきっちりトラップが発動したに過ぎない。下りたと思ったら上っていたのさ』

トラップは二十一階と二十階の間にひとつ。上へ行けば十一階へ戻される。

もうひとつは十一階と十階の間。下へ行くと『二十階へ戻され、上へのトラップにかかった分だけ』発動する。

「なんともややこしいな。けっきょく我らはどうすればよいのだ?」

『おそらく二十階までにヒントなり突破用のアイテムなりがあると思う。まずはそれを見つけよう』

「ふむ、見逃している場所は多々あるな。面倒だが仕方あるまい。しかし、アイテムは期待できんな。今までひとつとして落ちてはいなかった」

『であれば、ヒントが書き記されている可能性が高いな。イビディリア遺跡では、入り口の扉に中に入る条件が記されていた。神代語、とでもいうのか古い言語だ』

「む、おぬしはそんなものも読めるのか」

『いや、俺は読めないよ。ただ読める者は知っている。妙な文字を見つけたら正確に書き写してこっちへ知らせてくれ』

「わかった。承ろう」

ダニオたちは翌朝、すぐに塔の探索を始めた――。

一階から十階まで隅々まで調べて何も見つからず、落胆の色が濃くなっていたところ。

神代語らしき文字は十一階であっさり見つかった。

ダニオはアザムの目を盗んでピュウイを通じて情報をリムルレスタに送る。

ほどなくして返ってきたのは、『塔の攻略を中止して拠点に戻るように』との指示だった。

ダニオたちは指示に従い塔を出る。

そうしてアザムの村に戻り――。

「〝渇きの 杯(さかずき) 〟だと? ふぅむ……」

族長の老人ムハメドに報告した。

塔で見つけた神代語にはこうあった。

『〝渇きの杯〟を掲げよ。さすれば正しき道に通じん』、と。

「心当たりはないか?」

「ある、と断言してよいかわからぬが、水を注いでもすぐに蒸発して空になる不思議な杯なら知っている」

「おおっ。まったく無駄な効果だが、名前と合致している気がするな。どこにある?」

ムハメドは顔中のしわを深くして苦い表情となった。

「我らはそれを『ルクサルの杯』と呼んでいる」

「ルクサル……ああ、貴公らと同じくこの砂漠に住む部族の名前だな。ん? もしや……」

「うむ。ルクサル族が持つ宝だ。ここにはない」

「なんと……」

まさか塔を攻略する文字どおりの『鍵』が、対立する部族の所有物だとは。

「我らの祖先が 砂漠(この地) へ追いやられた直後、一人の男が現れてな。乾いた土地で死を待つしかなかった祖先に生きる術を教えてくれた。やがて祖先は五つに分かれてそれぞれ独自に暮らしたが、その男が立ち去るとき各部族に宝をひとつ授けてくれたのだ」

そのうちのひとつが『ルクサルの杯』だとムハメドは語った。

「宝自体は奇妙な効果しかもたぬものだ。しかしそのうちのひとつが塔の制覇に必要だったとは……」

「どうするね?」

「手がないわけではない。奴らはまだ『ルクサルの杯』が塔の鍵だとは知るまい。気づかれる前に、なんとかしてこちらが手に入れれば勝機はある」

「まさか、盗むのか?」

「最悪の場合はな。もっとも交渉は難しい。下手に奴らにとって好条件で手に入れようとすれば悟られよう」

むむぅとダニオは腕を組む。

「しばし時間をくれまいか? よい方法を考えてみたい」

「ふん、また何を企むつもりだ?」

「ん? どういう意味だ?」

ムハメドはため息交じりに言う。

「そなたらはただの旅人ではあるまい。こそこそ隠れて何をしておるのか、加えてどういう術を用いているのか知らぬが、どこぞから指示を仰いでおるのだろう?」

同席していたマノスとノエットの顔がこわばる。

しかしダニオは豪快に笑い飛ばした。

「はっはっはっ! なんだバレていたのか。まあ、そのうちボロが出ると思っていたがな。どうにもワシはこの手の謀が苦手でなあ」

「開き直ったか」

「いやいや、非礼は詫びよう。だが今この段階でそれを指摘したのは、逆に我らを信頼してのことだろう。『対等に付き合え』、とそういうことではないのか?」

「……間が抜けておるのか鋭いのか、わからぬ男よな」

ダニオは真顔になって頭を下げる。

「すまん。まだ詳しくは話せんが、悪いようにはせんよ。貴公らは我らの協力者であるのだからな」

というわけで、とダニオは飄々と言う。

「すこし席を外す。こっそり覗いてくれるなよ? そこの二人を人質に置いていくからそれで勘弁してくれ。なに、一時間ほどで戻る」

ダニオは承諾を待たずに腰を上げ、外へ出ていった――。

「――と、いうわけだ」

ピュウイを介した遠隔通信でダニオは状況を報告した。相手は当然、ガリウスだ。

『なるほど。ムハメドという老人はなかなかに鋭いな。そしてひと癖ありそうだが、信用はできる気がする。まあ信用するしないは置くにして、客観的に状況を分析すればかなり前へ進んだと考えられる』

「ふむ、やはり盗むのか?」

『いや、それでは遺恨を残すだけだ。塔を攻略したのちを考えれば悪手だな。それに塔の攻略に関しては、ルクサルとカイーラだけの問題にはなり得ないと俺は考えている』

つまり、とガリウスはひと呼吸おいて言った。

『今回の〝鍵〟は明らかとなったが、おそらくまだ足りない。あと何個か……確信をもって言うが、砂漠の部族それぞれが鍵を持っているはずだ』

ガリウスが続きを語るのをダニオは待った。

『彼らの祖先を導いた男。彼が各部族に託した宝。そのうちのひとつだけが塔の攻略に必要だとはとても思えない。必要なのは、すべてに違いない』

なるほど、とダニオは膝を打つ。

『その意味でもこの状況は実に好都合だ。互いに反目し合う部族が諍いを収めるために始めた競争が、実は協力しなければ達成できないのだからな』

攻略ののちを考えれば、この状況を使わない手はないとガリウスは語気を強める。

『虚実を織り交ぜた難しい交渉が必要となる。ある意味、正念場と言えるな。やってくれるか?』

ガリウスの真摯な瞳に、ダニオはにかっと笑って答えた。

「うむ、任せておけ。やるのはマノスだがな。ワシには小難しい駆け引きは無理無理。はっはっはっ!」

『ああ、うん……。人選は貴方に任せるよ』

ちょっとだけ不安を感じながらも、彼らならやり通すと信じるガリウスだった――。