軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者は残党狩りを狩る

王都脱出から一週間が経った。

風の精の短剣(シルフィード・ダガー) を使って距離は稼げたが、リッピは魔力を消費し、ガリウスは疲労がたまる。それでも徒歩の倍は進めた。

あと半日も進めば旧『魔の国』の領域だ。

しかし日暮れを迎えたので、また適当な森と小川を見つけて野宿することにした。

ところが。

「先客がいたようだな」

賑やかな集団が川辺を占拠していた。数はざっと五十人。みな軽鎧を着て、腰には剣を帯びている。

「山賊、かな?」

「いや、旗がある。傭兵団だろう。しかし、こんなところで野営しているのは腑に落ちないな」

魔の国との戦いから三週間以上経っている。とっくに拠点に戻っていてよいはずだった。

となれば、考えられるのは――。

「誰かに雇われて、何らかの仕事をしているのだろうな」

まさかこれが、泉で出会った女が言っていた『出会い』じゃないだろうな、と不安に思いつつ。

「リッピ、連中の会話は聞こえるか?」

相手に気づかれないよう距離を取っているため、騒ぐ声は届いても、内容まではつかめなかった。

リッピは耳をぴんと立て、ぴくぴくさせる。

ちょうど、団員のひとりがどこかからやってきたところだった。

「団長、戻りましたぜ」

「おう、ご苦労。で、どうだった? いたのか?」

「へえ。情報通りでさあ。エルフが二十ばかし、ってとこですかね。半分は女で、へへ、さすがに飛び切りの上玉たちでしたよ」

ここまでを台詞のとおりにつぶやいたリッピは、表情を険しくする。

どうやらこの傭兵団は、魔族の残党狩りをしているらしい。

ここは元から王国の領域だが、亜人たちの集落が点在していた。大河を越えて旧魔の国の領域に入れず、逃げ遅れた亜人たちがまだ残っていたのだ。

団長が歪な笑みを浮かべる。

「けっ。『禿鷲』の野郎、エルフどもを見つけるとは運がいい。ま、それも俺らがいただいちまうがな」

「連中、まだ女どもには手を付けてないみたいですぜ。酒盛りを始めてやがりました」

「そりゃあいい。寝込みを襲うつもりだったが、連中に汚される前に掻っ攫うか。善は急げって言うしな」

「ひひひっ、『善』ときましたか」

「そりゃお前、エルフは高値で売れるし、その前に女どもで楽しめるんだ。団の連中が大喜びする『善行』だろうよ」

「ちげえねえ」

「さすが団長!」

「ぎゃっはっは!」

そこかしこから下卑た笑いが起こる。

「あいつら……」

リッピは今にも飛び出していきそうなほど怒りに震えていた。

どうやら、他の残党狩り連中から捕虜を横取りしようとしているらしい。

逃げ遅れた魔族たちを襲うばかりか、同族で手柄の奪い合いをしているとは。

(本当に、俺はなんのために戦っていたのだろうな……)

憤りとともに、ふつふつと怒りが湧いてきた。

「リッピ、君はここを動くな」

「一人で行くの? 無茶だ。相手は五十人はいるんだよ?」

「問題ない。これがあるからな」

ガリウスはシルフィード・ダガーを抜く。風をまとい、空高く舞い上がった。二十メートルほどの高さで停止すると、団員の何人かは気づき、ガリウスを指差した。そいつら以外を優先的に狙って――。

ヒュン、ヒュヒュヒュヒュヒュン!

空中で短剣を振るうと、風の刃がいくつも飛び出した。風刃は途中で軌道を変え、ボケっとしている男たちの後頭部を強打する。

威力は抑えてあった。気絶させただけだ。

「なっ!? や、野郎――けひっ!」

慌てて弓をつがえた者を同じく卒倒させる。

ガリウスは風の衣をまとってゆっくりと降りながら、シルフィード・ダガーで団員たちを次々と倒していき――。

「残るはお前だけだな」

腰を抜かした団長の前に降り立った。

「な、何モンだ、テメエ……」

「悪いが、質問するのは俺だ。エルフたちを捕らえた『禿鷲』とやらが今どこにいるか、話してもらおう」

ガリウスは短剣を薙いだ。風の刃が団長の頬を掠め、背後にあった大きな石を両断する。団長はカタカタと歯を鳴らし、つっかえながら質問に答えた。

場所を把握したガリウスは、傭兵団の団長も気絶させる。

「リッピ、もういいぞ」

遠くの茂みからぽけーっと覗いていたリッピが、ハッとしてたったか駆けてくる。

「すごいね。ほんとに一人でやっつけちゃった。えっと……殺しちゃったの?」

「いや、そこまではしていない」

リッピはホッと胸を撫で下ろす。

傭兵団の会話を盗み聞きしていたときは怒りまくっていたのに不思議だった。

が、今は悠長にしていられない。

「そこの、一番大きな荷馬車を奪おう」

「移動に使うなら馬だけでいいんじゃないの?」

「食料をありったけ詰めこむ」

「えっ、なんで? 五十人分の食糧なんて、いくら長旅だからって二人じゃ食べきれ……あ、そうか!」

ガリウスはうなずく。

「これから向かう先には、囚われの亜人が二十人ほどいるらしい。彼らを救出した後を考えてのことだ」

「でも、全部持っていったらこのひとたちが困るんじゃ……」

リッピは転がっている傭兵団の面々をぐるりと見回す。

ガリウスは食料らしき包みを荷馬車に運びながら尋ねた。

「君はさっきずいぶん怒っていたようだが? こんな連中に情けをかけるのか」

「情けっていうか……なんだろう? 悪い奴でも、やっぱり命まで取るのは――って、勇者を殺そうとしてたボクが言うことじゃないね」

リッピも食料を運びつつ答える。

なるほど、とガリウスは合点がいった。

リッピがジェレドを襲った場面。

今でこそわかるが、リッピの実力とシルフィード・ダガーの攻撃力を考えれば、あそこまで近づいて殺しきれなかったのは不思議だった。

おそらく、心の奥底ではリッピに躊躇いがあったためだろう。

このワーキャットは根が良すぎるのだ。

自分も無益な殺生は好まない。今回も直接被害を自身が受けていないから、殺すほどではないと考えた。

しかし、必要ならば躊躇はしない。

すれば大切な何かを取りこぼしかねないからだ。

「まあ、食料を奪うのには理由がある」

これだけの大所帯。森で食べ物を集めるのは限界がある。となれば、彼らを雇った王国軍の拠点なりに、補給のため引き返さなければならない。

その間、この傭兵団は残党狩りができなくなる。

逃げ遅れた亜人たちが、少なからず助かる可能性が生まれるのだ。

国宝級の短剣があるとはいえ、二人で逃げ遅れた亜人たちすべてを救うことはできない。どこにいるかわからない以上、ゲリラ戦をするにも限界があった。

今は自分たちと、見える範囲で助けられる者たちを救えればいい。それ以上を成そうとするのは傲慢だ。

「よし、このくらいあればいいだろう」

二頭立ての荷馬車に細工をして、馬をさらに二頭つないだ。

「御者は君がやってくれ。できるか?」

「あ、うん、できるけど、ガリウスのほうが適任なんじゃないの?」

「俺は疲れた。すこしでも回復させたい」

ここへ来るまでにシルフィード・ダガーの特殊効果を使い、さらに戦闘でも使った。精神力がかなり削られている。頭の奥がすこし痛んだ。

ガリウスは食料で満載の荷台に腰を落とした。

「そっか。そうだね、お疲れ様。ゆっくり休んでよ。でも不安だな。また人族の兵士たちがいるんだよね? 馬車で近づいたら気づかれないかな?」

たしかに。

奇襲が大前提なので、できれば今回と同じく相手に気づかれずに近づいて、先制したい。

「ひとつ確認なのだが……今、ここに小鳥が入りこんでこなかったか?」

「えっ? ううん。見てないけど?」

リッピは御者台で振り向き、荷台を眺めて言った。

「そうか。まあ、大丈夫だ。目的の場所に近づいたら俺が合図する。そうしたら馬が嘶かないよう気をつけて、馬車を止めてくれ」

「うん、わかった」

リッピが荷馬車を走らせる。

ガリウスはじっと、膝の上に乗った 金色の小鳥(・・・・・) を眺めて、

「というわけだ。よろしく頼むぞ」

小さな声で告げると、小鳥は楽しげに答える。

『ええ、構いませんよ。わたくしから言い出したことですから、任されましょう』

見守るのに徹するのではなかったのか? との疑問は口に出さず、ガリウスは目を閉じるのだった――。