軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61. 数年後のお話

フロスト家の中庭で、少女がふわりとスカートを揺らす。風にたなびく亜麻色の髪が日に透けて輝いた。

遊び相手のジェイダンにしゃがむよう手で合図し、耳元でこっそり何かを内緒話をする。ジェイダンは驚き、少女は楽しそうにはしゃいだ。

少女の耳にある人の足音が聞こえる。ローズクオーツの瞳を嬉しそうにゆらめた。

「おかえりなさい、お父様!」

「ああ、ただいま」

少女……娘は駆け出し、その大きな胸に飛び込む。アーサーは娘を受け止めて、ぐるぐると回した。娘がきゃっきゃと笑う。ジェイダンはそっと頭を下げて、小さく手を振って去った。一応仕事中なのだ。このままではドリスに叱られる。抱き上げられたまま、娘も手を振り返した。

「何を話していたんだ?」

「今日告白してきた男の子の話よ」

娘の愛らしさにゆるゆるのアーサーが露骨に顔を顰める。普通の子供、いや大人でさえ泣き出すくらい怖いのだが、娘はニコニコと笑ったまま。

「そいつはパパよりも強いのか?」

「いいえ?」

「じゃあやめときなさい。パパよりも強くなければ許可しない」

「お父様よりも強い人なんてこの世にいないじゃないですか」

娘はわざと口を尖らせる。もう何度もしてきたじゃれあいだ。齢五歳にして娘はとても美しく、身分なんてわからない村の男の子から王太子まで様々な人から求婚されている。王太子妃を断れば、女王陛下から「では、代わりに素晴らしい役職を用意しておこう」と言われる始末。

「……そういうことだ」

この親バカは可愛い娘をどこにもやる気はないが。

アーサーは得意げに笑う。後ろから近づく足音に気づかずに。

「あらまぁ……じゃあお母様と結婚することになるわね」

白髪の幼子を抱いたフローラが、アーサーの背中を指でつつく。たった一撃で、アーサーはフロスト領の氷像となった。

「お母様! フィン!」

フローラは微笑み、アーサーの腕ごと娘を抱きしめる。娘は弟を抱きしめる。

「……ねぇね」

「そうですよ〜、ねぇねですよ〜」

娘は弟が大好きで、弟は姉が大好きだった。

「ねえお母様、気球は次はいつ来るの?」

「エマのこと? んー、来月くらいじゃないかしら」

娘は知的好奇心旺盛だった。気球の飛行テストと称してしょっちゅうやってくるエマから、色々な話を聞くのが好きだった。

しばらく母と子供とで和気あいあいとしていると、アーサーはやっと溶けてきて正気を取り戻す。フローラはため息をついて、背伸びをしてアーサーの額をつついた。

「おかえりなさいませ、アーサー様」

「ああ。ただいま、フローラ」

まだおかえりも言っていなかったのだ。今回の遠征も予定より早く終わらせてきたらしい。真っ先に娘に会いたいからといって、正面玄関よりも先に中庭に寄るのはやめて欲しいが。血塗れの甲冑を脱ぎ、外の蛇口で体を洗う暇があるのなら。……息子が可愛いのはわかったから、頬をもちもちしていないで頭くらい拭くようにとフローラが言おうとすると、ジョシュアがタオルを持って追いかけてきていた。

しばらく戦果について話していると、娘は退屈してきたのか、アーサーの腕からひょいっと抜け出す。

「お母様、私はミミズの実験をしてきますわ」

「あまり汚さないようにね」

娘は中庭の奥へ駆け、フローラはなんとも思わず送り出そうとする。何度も瞬きをして、急いで肩を掴むのはアーサーだけ。顔を引き攣らせたまま、何度も瞬きを繰り返している。

「……待て。今、何をしてくると言ったんだ?」

「本にミミズには再生能力があると書いてありました。だから、ミミズはどこを切れば再生し、また再生しないかを試していますの」

「頼むからやめなさい」

アーサーはガックリと肩を落とし、項垂れた。娘は可愛らしく首を傾げ、そして何かを思いつく。

「安心してくださいな。お父様にもちゃんと見せて差し上げますから!」

娘はニコリと笑って、ポケットからハンカチに包まれた何かを取り出す。何をするのか察したフローラは静かに息子の耳を塞いだ。

「ほら!」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

ハンカチの中には妙に短いミミズが蠢いていた。

今日も辺境伯邸には悲鳴が響き渡る。フローラと娘はとても満足した表情を浮かべていた。

ほんわか令嬢たちは、優しくない。

── HAPPY? END ──