軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25. 精神衛生上よくない場所

次の日、フローラが学園に登校すると、そこは修羅場と化していた。侯爵令嬢派と王太子殿下派、リリー嬢派の三つ巴。

浮気なんぞする王太子とリリー嬢が悪いと、侯爵令嬢派は殺気を放つ。対して、婚約者とはいえ王族に手を上げるとは何事だと王太子派は非難する。一番阿呆なリリー嬢派は、侯爵令嬢はやりすぎで、第二夫人くらい認めないなんて器が小さい、と喚いていた。

本人たちのいないところで、男女混戦の争いだ。なんて不毛。

「っフローラ様は……いえ、何でもありません」

「まぁ……そう?」

フローラはただ見つめた。純粋無垢な桃色の瞳で、ただおっとりと。それだけで皆黙る。

誰も、フローラを巻き込もうとはしない。子供がじいっと見ると、まともな夫婦は喧嘩を一旦やめるのと同じだ。

「もうすぐ授業が始まりますわね。私、カフェテリアの今日のケーキが楽しみなの」

背景に花が舞っている。フローラはふわふわなドレスを翻し、軽やかな足取りで教室へ移動していった。

「……暇なのかしら」

誰もいない廊下で、笑顔のままドスの効いた声を出すフローラ。どうせあと半年で卒業だ。このまま自分は関わらず、成り行きを見守ろうと、そう思っていた。

また一ヶ月後、そろそろ勘弁してほしいと思っていたところで、舞踏会の正式な日程が知らされた。フローラは気が遠くなった。家の中では、伯爵と母が騒いでいる。どうやら管理不足で一つ仕事が流れたらしい。責任を押し付けあっていないでほしい。本当に流れて困るものなら、元第一夫人がしれっと元に戻している。

そんなこんなで舞踏会の日が来て、スペンサー家の正面玄関には大きな馬車が止まる。髪を撫で付けた正装のウィリアムが降りてきて、両親に挨拶し、馬車に乗るフローラに手を差し出した。

「……エスコート、ありがとうございます」

「いや、ああ、うん」

流石に大規模な舞踏会はサボれないらしく、死んだ目をしたウィリアムと共にフローラは会場へ向かった。

「フォード伯爵家ウィリアム様ならびにスペンサー伯爵家フローラ様のおなりです」

今日はあまり混んでいないうちに入場でき、フローラはウィリアムの婚約者という付属品になる。それが一番目立たず楽な方法だ。

しかし人が増えれば増えるほど、徐々にざわめきは増してゆき、最終的にはあちらこちらで口論が聞こえてくる。親である貴族たちも何やら揉めているようだ。おそらく争点は、王女殿下派閥か王太子殿下派閥か、だろう。

「何だか最近騒がしいな」

「ええ……そのようですね」

夜会に出ず、未亡人の尻ばかりを追いかけていたウィリアムは何も知らない様子だった。あれだけめんどくさい争いが起きていたというのに。……まぁ、フローラからすればその方が巻き込まれなくて好都合だが。

二階の王族のみの席では喧騒に紛れて、王太子殿下と侯爵令嬢が口論をしていた。侯爵令嬢が泣いて……王太子殿下が抱きしめる。しかし侯爵令嬢はそのまま海老反りになり……王太子殿下は床に叩きつけられる。コルセットはどうした。王太子殿下の嬉しそうな顔が気持ち悪い。なぜ国王、王妃はここにいないんだ。王女殿下は静観するな。

────こんな舞踏会、いくら何でも精神衛生上悪すぎる。

フローラは適当なところで体調が悪くなったフリでもして退場しようと思っていた。しかし、王女殿下と目が合ってしまう。王女殿下は、パチリとウィンクをした。

「……」

フローラは控えめな笑みを崩さない。大方、今から大立ち回りをするから見ていてほしい、といったところだが、王位継承権が代わったところで、フローラは王女殿下の元につく気はない。

「静まりたまえ!!」

奥から現れた国王陛下のひと声に皆伏せた。音楽は止まり、静寂が流れる。

今日、勢力図が大きく変わるだろう。