軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18. 変人奇人

「ねぇ、貴女一人なの?」

「え?」

通り過ぎたそのソバカスに声をかける。

彼女は振り返り、緑色の目をぐるりとまわした。その様子に、フローラは少し驚く。

「ああ! スペンサー家のフローラ様! フォード伯爵家のウィリアム様の婚約者で、入学テストでは十位に入ってましたよね。初めまして!」

変な間が空いてから、ソバカスは怒涛の勢いで話始めた。丸メガネの縁を輝かせ、位置を直す。大事そうに持っている本の表紙には「世界黒魔術全集」と書いてあった。

フローラの直感が言っている。こいつはヤバい。

「あ、申し遅れました。私、アルバーン男爵家のエマと申します!」

アルバーン男爵家に聞き覚えはあった。頭は良いのに変わり者の一族で、身分は低くとも代々王立科学研究所の所長を務めている。アルバーン家らしく今回の入学テストでも一位になった……が、責められていないのはこれが理由だ。彼女だけは、学力で空気を読まなくていい。

「聞かれました通り、一人です。いやー、私何かやっちゃいましたかね。大人しくしてたつもりなんですけど、気がついたら周りに人がいなくて!」

当たり前だ。中等部から学園に入学させる男爵家など、領地があってもほぼ王都の研究室で過ごしているようなアルバーン家くらいなのだから。身分が違いすぎて、誰も声をかけないし、かけられない。

あまりに明るく能天気なエマに、フローラは言葉を失った。他人のペースに飲まれたのは初めてだった。

「……ええと、一人なら入学式をご一緒したらどうかと声をかけたのだけれど」

「え!? いいんですか!? 行きましょ、行きましょ!」

貴族らしくなく粗雑な振る舞いと口調に、フローラは戸惑っていた。何より、王立科学研究所の所長を務めるような家の娘が、なぜ真逆の黒魔術の本を持っているのか、不思議でしょうがなかった。

「よかったー。これで私もボッチ回避。にいちゃん達に自慢できます」

話を聞く限り、どうやら兄弟も皆一人ぼっちだったらしい。なんとなく想像は付く。フローラがエマを見極めていると、エマはまた瞳をぐるりと回して、突然声を上げる。

「……どうかしましたの?」

「いやー、そういえば二番目のにいちゃん、自慢しようにもこの間辺境伯領に飛ばされたんでした! なんか第一実験室爆発させちゃったみたいで!」

エマは日常茶飯事のように笑った。おそらくよくあることなのだろう。

フローラは、こいつと一緒にいるのはやめた方がいいかもしれないと思った。この目立つ雰囲気に紛れ、なんなら面白い話を聞けたらと思っていたが、流石に爆発沙汰は嫌だ。

「あ、安心してください。私の専門は解析なので、危ないことはしません! 粉塵爆発くらいは昔やりましたけど……ちゃんと家でやりましたし!」

粉塵爆発……小麦粉など粉状の物がある濃度で空気中に存在している時、火花などで着火すると爆発することだ。割と危なく、好奇心でやるにはリスクが高すぎるため、フローラは知っていてもやらなかった。

「ちなみに粉塵爆発ってのはですね……」

「知っているから大丈夫よ」

「ですよね!」

そう常識……と思ったところで、フローラは違和感に気づく。フローラにとっての常識は、他人にとって非常識。特に、気弱で優しい小市民を演じていたフローラが、粉塵爆発を知っているなどと思わないはずだ。それを、エマは「ですよね」と言った。

「……ええ。科学の教科書を買いに行った時に、少しめくったら書いてあったの」

「あー、嘘つかなくて大丈夫ですよ。フローラ様めっちゃ頭いいですよね? しかも私とおんなじ方向で!」

エマの瞳がきらりと輝いた。この時、フローラの脳にようやく、類は友を呼ぶという言葉が浮かぶ。フローラの降参だ。こいつとは一生の付き合いになる。

「……入学式前に水を飲まなくて大丈夫かしら? 疲れていない?」

もう少し声量を落とせ、隠してるのがバレるだろ、ということである。

エマはやべっという風に頭の裏を掻いた。話している間に講堂へはずいぶん近くなっていた。

「すいませんって。代わりと言っちゃなんですが、何か解析したいものとかあったら持ってきてくれれば、大体わかりますよ」

全く代わりになっていない。

ただ幸いにも、フローラには解析したいものがたくさんあった。