軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

街ぐるみの慰労会準備

翌朝、アンナの食卓にはいつも以上に多くの人が集まっていた。昨日の騒動を見ていた常連客たちが、次々と顔を出している。

「リーナちゃん、大変だったねぇ」

ベラが心配そうに声をかけると、他の客たちも口々に言葉をかけてくる。

「あんな嫌な奴らに絡まれて」

「でも団長がいて良かった」

「騎士団のみんなも帰ってきたし」

リーナは恐縮しながら応える。

「ご心配をおかけして、すみませんでした。皆さんが守ってくださったおかげで助かりました」

「当然だ」

トムが力強く言った。

「リーナちゃんは俺たちの大切な仲間だからな」

その時、パン屋のソフィアが手を叩いた。

「そうだ!騎士団のみんなも帰ってきたことだし、リーナちゃんも昨日言ってた慰労会をやりましょうよ。」

ソフィアの提案に、空気がぱっと華やいだ。

「おお、それはいいな」

「賛成!」

あっという間に話がまとまっていく。リーナは慌てた。

「で、でも、大人数だと店だけじゃとても入りきりません……」

「大丈夫よ」

ベラがにっこりと笑った。

「店の前の通りを使いましょう。みんなでテーブルや椅子を持ち寄って」

「調理器具が足りなければ、うちのかまども貸すぞ」

トムも協力を申し出た。

「材料も、みんなで分担すれば何とかなるだろう」

こうして、街ぐるみの慰労会の準備が始まった。

午前中のうちに、『アンナの食卓』の前の石畳の通りには、大きなテーブルがいくつも並べられた。近所の人々が家から椅子やテーブル、食器を持ち寄り、まるでお祭りのような賑やかさだ。

「リーナちゃん、何を作るか決まった?」

マリアが尋ねると、リーナは考えをまとめて答えた。

「騎士団の皆さんには、魔力回復効果もある魔物料理をメインに作りたいと思います。ストームホーンの赤ワイン煮込み、アースボア鍋、それにフェングリフの焼き鳥」

「おお、豪華だな」

「甘いものも作りますよ。スフレチーズケーキとかどうかなって」

「スフレチーズケーキ?」

ソフィアが首をかしげた。

「蒸すと、ふわっふわに仕上がるチーズケーキです。団長が甘いものをご所望だったので」

「ああ、団長の隠れ甘党ね」

ベラが笑った。

「本人は隠してるつもりだけど、みんな知ってるのよ」

昼過ぎから、本格的な調理が始まった。

まずはストームホーンの赤ワイン煮込みから取りかかる。リーナは丁寧にお肉を一口サイズに切り分けた。

「この肉、硬そうだな」

「はい。ストームホーンは赤身が多いから、しっかり下処理しないと固くなっちゃうんです」

見守る人々に説明しながら、塩とブラックペッパーを肉にすり込んでいく。

「へぇ、そうなのか」

トムが感心して見ている。次に、油をひいたフライパンで肉の表面に焼き色をつけていく。ジュウジュウと音を立てて焼ける肉から、香ばしい匂いが立ち上った。

「いい匂い……」

「まだ焼いてるだけなのに、もう美味しそう」

肉に焼き色がついたら、今度は野菜の準備だ。玉ねぎとセロリは薄切りに、人参は半月切りにする。大きな鍋にオリーブオイルをひき、にんにくを炒める。香りが立ったところで野菜を加え、じっくりと時間をかけて炒めていく。

「気長な作業だなぁ」

ガレスが覗き込んで言った。いつの間にか騎士団のメンバーたちも集まってきていた。

「ガレス、邪魔しちゃだめよ」

アデラインが注意する。

「見てるだけだって」

野菜がしんなりとしてきたところで、赤ワインを注ぎ込む。アルコールが蒸発する音と共に、豊かな香りが広がった。

「おお……」

「すごい匂いだ」

五分ほど煮込んでアルコールを飛ばしたら、野菜とフェングリフの骨で取ったブイヨンを加える。最後に焼いた肉とローリエ、砂糖、バターを入れて、弱火でコトコト煮込み始めた。

「これで一時間以上煮込みます」

「一時間以上もですか?」

ルークが驚いた。

「ストームホーンの肉を柔らかくするためには、じっくりと時間をかける必要があるんです」

赤ワイン煮込みが煮えている間に、鍋の準備に取りかかった。

アースボアの肉を薄切りにしていく。猪肉に似たアースボアは、薄く切ることで短時間でも柔らかく食べられる。野菜の準備も進める。大根を薄くスライスし、人参は輪切り、シロネギは斜め切りにする。キャベツは食べやすい大きさに、フサタケも石づきを取って準備した。大きな鍋に、ツチタケとウミクサで取った合わせ出汁を張る。そこに味噌を溶かし、砂糖で味を調えた。

「味噌味の鍋なのね」

「はい。アースボアの肉には味噌がよく合いますよ」

出汁が沸いたら、まずアースボア肉と人参、キャベツの芯の部分、生姜を加える。アクが出てきたら、丁寧にすくって取り除いていく。

「アク取りが大事なのね」

「しっかりとアクを取らないと臭みが残ってしまうんです」

残りの野菜も加えて、野菜が煮えるまで待つ。鍋からは食欲をそそる香りが立ち上っていた。

スフレチーズケーキの準備に取りかかる。まず卵を卵黄と卵白に分けて、クリームチーズと卵黄をヘラで均一になるまでよく混ぜる。

「チーズケーキも蒸して作るのか」

ジュードが興味深そうに見ている。

「うん。蒸すと、ふわふわに仕上がるの」

小麦粉を加えて全体がよく馴染むまでゴムベラで混ぜ、牛乳を加えて均一にする。別のボウルで卵白と砂糖を泡立てて、メレンゲを作る。リーナは深呼吸をひとつして、泡立て器を構えた。

「ここからが腕の見せどころ!」

ボウルの中で卵白が白く変わり始めると、リーナの腕が止まることなく動き続けた。シャカシャカ、シャカシャカ――しばらくすれば楽になると思っていたのに、だんだん腕が重くなってくる。

「うぅ、これ、けっこうキツい」

それでも手を止めず、ツノがピンと立つ瞬間を信じて混ぜ続ける。やがて、泡立て器を引き抜いた先に、柔らかくお辞儀をするツノができていた。

「よし、ここまで来たら大丈夫……!」

ほっと息をつくと、周囲から拍手が起こった。メレンゲとチーズ生地を混ぜ合わせ、型の九割程度まで流し入れる。フライパンに水を入れて沸騰させ、型を入れて弱火で十五分ほど蒸す。

「これで完成か?」

「冷ましてからの方が美味しいので、少し置いておきましょう」

最後に、みんなでフェングリフの焼き鳥を作る。

「串刺しは俺たちも手伝うぞ」

ガレスが意気込んだ。

「私もやりたいわ」

アデラインも参加する。フェングリフの肉を一口大に切り、竹串に刺していく作業は、まるでお祭りの準備のように楽しい雰囲気だった。

「ガレス、大きすぎるって」

「このくらいがいいんだよ」

「アデラインのは上品すぎます」

「これでも十分よ」

みんなでワイワイと串に刺していく間に、トムが炭火を起こしてくれた。

「よし、火の準備もできたぞ」

串に刺さったフェングリフを炭火で焼いていく。パチパチと音を立てながら焼ける肉から、香ばしい匂いが辺り一面に広がった。

「うまそうだなぁ」

「早く食べたい」

そうこうしているうちに、赤ワイン煮込みもとろみが出てきた。塩とブラックペッパーで味を調えて完成だ。

夕暮れ時、アンナの食卓の前の通りには、美味しそうな料理が並んでいた。

ストームホーンの赤ワイン煮込みは深い色合いで、野菜と肉がとろとろに煮えている。アースボアの鍋は湯気を立てて、野菜の色が鮮やかだ。焼き鳥は炭火で香ばしく焼け、スフレチーズケーキは型から外されて、ふわふわに仕上がっていた。

「すごいな、これ」

団長が感心して言った。

「リーナ、ありがとう」

街の人々も集まってきて、テーブルの周りは賑やかになった。

「それでは」

リーナが微笑んで言った。

「皆さん、遠征お疲れ様でした。そして、いつも支えてくださる街の皆さんにも感謝を込めて……いただきます!」

「いただきます!」

大きな声が、夕暮れの街に響いた。