軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話 お嬢様もいつの間にか覚醒してた件

「――てな訳なんですけど、どうすればいいと思います?」

「ルシウス、あんたよくその状況からゼロ回答で殿下に帰っていただくことができたわね?」

全部ぶっちゃける俺に対し、お嬢様はあきれ顔で感想を漏らす。

今、俺はルクレティアお嬢様に使い(ルシア)を出してプッさんの 別荘(ヴィラ) に来てもらい、先ほどドミティアヌス殿下と密談をしたのとまったく同じ場所で、人払いをしてお嬢様に殿下との会話の一切合切をぶちまけたところだった。

「だってルクレティウス家に無断で、奴隷である俺が殿下の擁立を判断するわけにはいきませんし」

「ポンペイにいた時にお父様に無断で好き勝手事業をやってたあんたとは思えない言葉ね」

あの、そのうちの3分の2くらいはお嬢様がせっついたものなんですがそれは。

そう思いつつ、口に出しても特に意味はないし話も進まないので、俺はぐっと理不尽を飲み込みつつ反論する。

「さすがにこれは俺自身の商売とは別次元の話ですし、俺が判断するのはきついですよ。というか普通に判断するの 嫌(ヤ) です」

これは俺の偽らざる本音だ。

実際問題技術チートならいくらでもお出しできるが、そもそもこの話に乗ってよいのかや、どんな条件を出すべきかなどは俺には判断がつかない。

そのため、とりあえず殿下が認識している俺の性格を利用しダメもとで『ルクレティウス家に無断で殿下への協力を決断することは忠義に反するのでできない』と言ってみたところ、殿下は『まあ、お前ならそう言うだろうな』とあっさり引いてくれたので、一旦今日の問答は中止をしてそのままお嬢様にご足労頂いたという訳だった。

「普通ここまで直接的に陰謀を打ち明けられて『 主人(ドミヌス) の意見聞かないと決断しません』なんて通らないし、そもそもそんなことを言ったが最後、外に陰謀が漏れるのを防ぐためにその場で処されるわよ?」

あれ?もしかして俺下手したら死んでた?

「まあ殿下は ルシウス(アンタ) の義理堅さはよくご存じでしょうし、 ルクレティウス家(こちら) に話を通す前には絶対に首を縦に振らないと予想はしてたんでしょうね」

「たしかに『お前ならそう言うだろうな』ってなんか苦笑した後、普通に帰ってくれましたね」

そんな俺の言葉に、お嬢様はまたため息をついてから、諭すように俺に言葉を続ける。

「……あのねルシウス、今後もこういう誘いはいろんな方面からあるでしょうから、今のうちに教えておくわ。そういう時はね、相手を肯定して味方になるような言動をしつつ、『最善の結果になるように案を練るから一度お引き取りを』といった形で穏便になあなあにするものなの。『味方になるかどうか決めない』なんて旗色を明らかにしないことを明言したりしないの」

確かに言われてみればその通りだ。

考えてみれば、去年の夏にティトゥス殿下への出仕をドミティアヌス殿下を盾に断ったことで、俺が世間一般で持っている『愛と忠義に生きる人物』という虚像に『誰に対してであろうと自分の中の義理は曲げない人物』というイメージが追加された事で、殿下に対しては正面突破で何とかなったのだろう。

が、実際ほかのお偉いさんから同じ提案をされて同じ反応をしていた場合で考えると、実質的な交渉決裂とみなされて処されてもおかしくはない言動だった。

そんな考えてみれば当たり前の事実に、俺は今更ながら背筋が寒くなる。

それと同時に、お嬢様に対しても驚きの感情が浮かんでくる。

まさか、そんな正確な分析や助言がルクレティアお嬢様から出てくるとは思わなかった。

俺は、目の前で俺に対して呆れ100%の視線を向けてくるルクレティアお嬢様を見ながらそんな感想を抱く。

だってそうだろう?

お嬢様だって政治経験で言えばポンペイやローマの社交界でトレンドセッターとしてのごり押しで生活していたはず。

それが今は俺に至極まっとうな苦言を呈することができるレベルになっているのである。

お嬢様に一体何があったのだろうか。

「私もネルウァ様に指摘されるまでは自分の振る舞いに気づけなかったから、人の事とは言えないけど」

そんなことを考えながらお嬢様を見ていると、俺の視線をなにか別の意味にとらえたようで、お嬢様はスッと目をそらして言葉を追加してくる。

「あー……ネルウァ様、ですか」

なるほど、そう言えばお嬢様が勉強から逃げないようにドミティアヌス殿下に依頼してネルウァという元老院議員の人に教育を頼んでいたっけ。

どうやらネルウァ様は表面的な教養だけではなく、こういう政治的な処世術も教わっているのかもしれない。

「で、話を戻すわね」

俺が納得したのと同時にお嬢様も脱線した話を元に戻してくる。

「あ、はい」

「ドミティアヌス殿下があなたに期待しているのは、デキムス商会の金じゃないわ。あなたの知識よ。これはまず分かっているわね?」

「まあ、でしょうね」

麦の蜜(みずあめ) 事業や化粧品事業は1年で急激な成長を遂げているとはいえ、その収益は年間100万セステルティウスに満たない。

単純な儲けだけで考えれば、例えばガンギマリ梁山泊のクンカー……コスムスさんの方が多分よっぽど稼いでいる。

ローマ全土の商会として見ても中堅以上には入るだろうが、皇帝擁立の末席にギリギリ入れるかどうか、そう言う規模というのが正しい認識だろう。

「わかったなら、とりあえずルシウス。はい」

俺が同意すると同時にお嬢様は俺の前に手のひらを差し出してくる。

「……?」

えっと……お手でもすればよいので?

とりあえずお嬢様の手のひらに手を載せてみる。

「……」

ぺちーん!

「痛……」

なんか何も言わずにもう片方の手で思いっきり手をはたかれた。

なんかいつだかに見た光景だが、今のお嬢様の目線は絶対零度。

めっちゃ怖い。

「そういうのいいから。見せなさい」

「えっと……何を?」

「ルシウス、あんたの行動パターンはお見通しなのよ」

「?」

「……殿下に策を出せと言って保留にしたんでしょ?」

「はい」

「策が浮かばなかったらあんたは断ってる。あんたはそう言う奴よ。そうじゃないってことは、あるんでしょ?内政や軍事で成果を出せる、まるで魔法のような英知。あんたのことだから持ち歩いてるでしょう?」

そういうことか。

「内政に関してはいくつかありますが、軍事についてはこれからなんで現物無いですよ」

「じゃあ今あるものでいいから見せなさい」

「うっす」

お嬢様の要求を受けて、俺は『こんなこともあろうかと用』にとりあえず持ってきた紙の束と活版印刷で作った冊子版博物誌の1巻を部屋から持ってきて、お嬢様にの前に差し出す。

「これはパピルスの代わりになる、パピルスの10分の1のコストで作れるルクレティウス紙、そしてこちらの本はローマの倉庫にある機械を使えば1日に数千冊程度は作れます、どちらも工房の設計や稼働手順書も作り終えてるので、資金さえ投入すれば1~2か月あれば稼働までこぎつけられます」

「……?ここまでできる物がそろってるのに、なんで工房にしてないの?」

「来年のマルクス様のローマ進出時に、ルクレティウス家そのものの資金力を上げていく必要があると思いまして……来年3月を目途に一気に事業化し、献上しようとしてた次第です」

ここに至っては特にお嬢様に隠す意味もないので、とりあえず表向きの事実であるルクレティウス家のためにという部分をお嬢様に伝えることにする。

「……なんで紙の名前にうちの名前を勝手に使ってるのよとか、ほかにも色々ツッコミたいけど後にするわね。軍事に使えそうなものは?」

「中くらいのナイフ位の大きさの武器で、弓矢の数倍の速さで鉛を飛ばすものとか、簡単に山を崩すくらい爆発を起こせる武器とかですかね」

硝石の確保が最大の課題だが、初期は天然析出系の硝石をかき集め、その間にフルロ排水などを利用した硝石丘を作る方法を確立するとかなら多分半年くらいで管打式銃と黒色火薬とダイナマイトを製造する兵器工廠の稼働も行けるのではないかとみている。

「武器はどれくらいで作れるの?」

「工房作り含めて半年あればなんとか」

「そう」

俺が持っている現状すぐにできそうな情報をすべて吐き出した結果、ルクレティアお嬢様はそのまますこし思索の海に潜ってしまう。

「……」

「…………」

「……お嬢様?」

「――陰謀じゃなくて、正面突破なら低リスクで道は開けると思うわ」

そして俺が手持ち無沙汰になってお嬢様に声をかけると同時に、お嬢様は顔を上げ、口を開く。

「この件、私に預からせて頂戴。ピソ様を巻き込むわ。お父様へは事後承諾。あなたはすぐにドミティアヌス殿下をまたここに呼び寄せて、『陰謀ではなく、準備が整い次第、陛下とティトゥス様を正面から説得すること』を条件に承諾する旨を伝えなさい」

そして、俺に向かってさも自らが預かるのが当然かのようなそぶりで、久しぶりとなる命令を飛ばしてきた。

しかしそれはいつものようなワガママではなく、ルクレティウス家の令嬢として。

……お嬢様は、俺の知らない間にとんでもない才能を開花させていたのかもしれない。

ということは……もしかして、今回の件、お嬢様にお任せしちゃえばいいからあんまり難しく考えなくて良かったりする?