軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話 美少女だろうが臭いものは臭い [2/2]

「……美少女だろうが、臭いものは臭いんだなあ」

「うわぁぁぁん!あ、でも今私のこと美少女って!?」

ぱっと泣き止んで俺を見るルシア。

「でも臭い」

「うわぁぁぁん! ルシウス君のいじわるぅぅ!」

半ベソから号泣モードに切り替わり、路上で泣き出すルシア。

その様子に通行人がギョッとして振り返る。

やべ、いじりすぎた。

「ええええええん!!!」

どうすっかなあ……あ、そうだ!ちょうどいいやつがあるじゃん。

「わかった、わかったから泣くな!……そんなルシアに朗報!すぐじゃないけど解決する方法があるんだなあ」

そう言いながら、俺はさっき悩んでいたい微妙チート商品を肩掛けの皮袋から取り出す。

「本当!?……なあにそれ?」

俺が皮袋から取り出したのは、手のひらサイズの小さな2つの麻袋に入った薄黄色の塊。

それを見てキョトンとするルシア。

「 石鹸(サポー) 」

「 石鹸(サポー) ……?なんかお父ちゃんの知り合いのガリアの人が整髪料に使ってるって聞いたことがあるけど……」

「……今はまだそういう使い方なのか」

「……いまはまだ?」

「なんでもない。これはな、洗顔料の一種だ」

「へぇ……でも今の匂いは服だよ?」

「なんと洗濯にも使える」

「なにそれすごい!?……くれるの?」

「いい香りのルシアとデートしたいからね、あげる」

そう言って俺はルシアの手に石鹸を握らせた。

実際問題作ってみたは良いものの、すぐに事業化は出来なさそうな品物なのでルシアに渡すのは惜しくない。

この石鹸、消石灰とナトロンを水で煮て、オリーブオイルとローズウォーターを入れて 鹸化(けんか) して作ったもので、バラを煮出して作るpH指示薬を使ってオリーブオイルの投入量を調整しているので現代日本の石鹸と 遜色(そんしょく) ない品質の石鹸……なのだが。

そもそも石鹸で体を洗う文化がないローマ人に広める方法を思いつかない上に製造途中で強アルカリ液を使うのでかなり危なっかしい。

少なくとも俺は毎日これを作るのは嫌。

そんなわけで夏までにデキムスさんの事業を爆発させる商品としては使えないと判断してボツにしたものなのだ。

いずれ事業化はするだろうが、いまではない。

そんな感じの商品なので試作品をルシアに渡すくらいであれば何の問題もない。

「ありがとう!嬉しいよルシウス君!!それで、2つあるけどどっちを使えばいいの?」

「袋に丸印がついてる方が体や顔を洗う用で、何も印がないのが洗濯用」

ちなみに丸印がついていないのは 鹸化(けんか) の後に塩をぶち込んで作る 鹸化塩析法(けんかえんせきほう) で作った石鹸だ。

これをやると石鹸だけじゃなく大量のグリセリンも入手できるのだ。

なおその代償として石鹸の使用感からしっとり感が無くなるデメリットもあるが、洗濯用であれば何の問題もない。

「あ、あとお風呂上りとか朝とかにこれを使うのもオススメ」

そう言って皮袋から小瓶に入った液体もついでに渡す。

グリセリンで作った シトロン(レモン) ウォーター化粧液だ。

お肌をもっちもちにしてくれる。

「これをつけると肌がもちもちになるぞ」

今朝から自分自身で実験してみたのでお墨付きだ。

まあ10代前半の肌はそもそも保水力抜群だからちょっと気持ちモチモチするくらいの感覚だが、20代以降の女性が使うと効果抜群なんじゃないだろうか。

まあルシアは10代前半なのでこれもどっちかというと香りをふわっ 纏(まと) わせるのが目的。

拡販方法がないからこれもしばらく塩漬けだけど。

「そういえば今日のルシウス君、風が吹くたびに シトロン(レモン) の香りがふわって優しく香って来てたけど……もしかしてこれ?」

「うん。どう?」

「すごくいい!私もこれを使ったらこんな匂いになるの!?」

ルシアは石鹸を鼻に近づけ、くんくんと嗅ぎながら聞いてくる。

「石鹸も使えば服が風に吹かれるたびにその匂いが優しく香るし、髪に使えば風が頬を撫でるたびに シトロン(レモン) とローズの香りが優しく周りの人の鼻をなでるんじゃない?」

「最っ高……!!そんな素敵なものを私に……~~~~っ!ルシウスぅ……! 大好き!」

感極まったルシアが突撃してくる。

「うおっ、抱きつくな! まだ臭いんだよ!」

物理的に押し返すが、彼女は満面の笑みだ。

その後、今日の所はデートを早めに切り上げ、その分次のデートを1日中とする形で計画を変更することになり、ルシアをインスラの前まで送ることになった。

「今日もありがとうルシウス君!あとで早速工房の中庭でこの服洗いなおしてみる!」

インスラの階段の入り口で俺に振り向き、満面の笑みで2種類の石鹸と化粧水を俺にかざすルシア。

「ああ、そうしてくれ。……あぁそうそう、その石鹸と化粧水についてデキムスさんへの伝言があったんだった」

「ん?なあに?」

もう渡しちゃってデキムスさんも知るところになるし、あらかじめ予告してしまおう。

「この石鹸、 麦の蜜(水あめ) 事業が落ち着いたら次の商材としてデキムスさんに投げるつもりだからよろしくって」

「ほんと!?やったぁ!またお父ちゃんが儲かっちゃう!」

ルシアが無邪気に喜ぶ。

まあ、消石灰とナトロンを大量に使う上、副産物として生まれるグリセリンが水あめと性質が似ている関係上、大量生産するなら 麦の蜜(水あめ) 工房とは絶対に分ける必要があるのでもう一つの工房を抱えられるくらいにデキムスさんがなってからでないと厳しいが……。

今のうちから予告して覚悟しておいてほしいのであらかじめ伝えておくことにする。

こうして、俺たちのデートはおしっこ臭で危機に陥ったものの、次のデートでは魅惑のフローラルになるという希望を得たことで無事に良い感じの終わりを迎えることになった。

……今日の所は、ルシアとのデートとしては。