軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話 飲みニケーション

俺たち3人(俺・お嬢様・侍女さん) が作業場に戻ると圧搾作業はもう終わっており、となりの邸宅では昼間子供奴隷にどやしつけられていた農場奴隷の人たちが集まっているようだった。

『 農神祭万歳(イオ・サトゥルナリア) !!』

『ハハハハハ』

大きな笑い声が邸宅の方から聞こえてくる。

その様子に 農神祭(サトゥルナリア) の宴がもう始まっていると理解した俺たちは急ぎ足で邸宅に向かった。

「ひゃっほい!今日の王様はおいらでい!ひゃっはー!肉だ肉!肉をだすのだー!全部、全部だぞ!?」

普段 主人(マルクス様) とその家族しか使うことを許されていない ダイニングルーム(トリクリニウム) ではすでに宴が開かれており、その中心、いつもは 主人(マルクス様) が座る席には一人の小さな奴隷が座っていた。

農場奴隷をどやしつけていた子供奴隷だ。

どうやら今日の『王様』はあの子らしい。

そしてこの場にいる人たちはみな、円錐状の帽子――ピレウス帽を被っている。

この帽子は自由の象徴で、祭りの期間中は貴賤にかかわらず皆この帽子をかぶる。

これにより身分の差がなくなり……いや、逆転する。

そして悪ふざけの主とも呼ばれるくじなどで選出された『王様』が様々な無茶ぶりをして遊ぶのだ。

今年は子供が王様に選出されたことから例年よりも一段上の無茶ぶりが飛ぶのだろう。

テーブルの上を見ると、パンにオリーブやピクルス、卵料理、そして奴隷がめったに口にすることができない豚の丸焼きまである。

今日はお嬢様が訪問されていることもあり、 農神祭(サトゥルナリア) も一段と豪華に執り行われているようだった。

子供王が騒いでいるのもこの豚の丸焼きを見たからかだろう。

「じゃあその豚全部おいらの!」

早速子供らしい不条理な命令が飛んだ。

「全部食べれないでしょ?おうさま?みんなにもちゃんと分けましょうね?」

「えー?」

「……ねっ?」

「……はい」

子供奴隷の母親と思われる人が『王様』をたしなめ、少し抵抗するものの、念押しされた結果、王様が素直に従う。

……どうやら今年の 農神祭(サトゥルナリア) の権力構造は王太后付きという形らしい。

祭りでさえひっくり返せない 権力構造(母=最強) に一部の男衆が目をそらしていた。

「おお、戻りましたかルシウス様」

「2回転目の方も無事終わってますよ」

ダイニングルーム(トリクリニウム) の入り口にいる俺たちに気づいたフェリクスのおっちゃんとマニウスさんが俺に声をかけてくる。

俺はフェリクスのおっちゃんにお嬢様と侍女さんの案内を頼み、マニウスさんが持ってきた ワイン壺(アンフォラ) 2本の中身を確認する。

それぞれ指にとって擦ると揮発により熱が奪われる感覚。

匂いはかすかに香るブドウの香りとそれを上回るアルコール臭。

どうやら蒸留はきちんとうまくいったらしい。

「薬瓶の方は?」

「毒にもなるとのことだったので、馬車の棚の方に仕舞いましたよ」

「たしかに、あれを宴で飲まれたら大変だ」

心の中でマニウスさんグッジョブと褒める。

アルコール度数的にいたずらで飲んだ場合はまず間違いなく吹き出すが、蒸留酒の方を飲んで酔っ払った人たちが何をするかは分からなのであらかじめ隔離しておくのは正解だ。

出来上がったグラッパはとりあえず1本は農場のサンプルとしてしまっておいてもらうことにし、もう1本をマニウスさんから受け取りフェリクスのおっちゃんに毒見してもらうべく、部屋の中に入る。

「おぉルシウス様、それが今日作ったブツですか……?マニウスさんからは酒と聞いているが……透明だな、本当に酒か?」

フェリクスのおっちゃんは俺を見るなり ワイン壺(アンフォラ) をのぞき込むが、見た目だけだと水にしか見えないそれ思わず演技を忘れていつもの口調に戻る。

「そう。酒だよ。味見して?」

俺はニヤリと笑って小さな陶器製のコップにその透明な液体を注ぐ。

蒸留直後のグラッパ。

度数は30~40度弱前後だろうか。

流石にワインを飲むコップ一杯になみなみ注ぐ鬼畜な所業はしない。

大体コップの2割ほどだ。

……それでもロック1杯より量は多いが。

「お、俺がか?」

「この場で一番身分が下なのはおっちゃんなんだから、さあ」

正確には一番身分が下なのはルクレティアお嬢様なのだが、それに触れるわけにいかないフェリクスのおっちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

「いや、でも……なあ?」

なおも抵抗するおっちゃん。

「何それ面白そう!のめのめー!!」

俺とおっちゃんの押し問答を解決したのは『王様』だった。

「なっ!?」

とうとつな王様の命令に絶句するおっちゃん。

「王様が言うんじゃ仕方ないなフェリクス。観念して飲め。なあに、材料がワインの搾りカスと水だけなのは俺も見てた。不味かろうが死にゃあしねえよ」

それに便乗するようにマニウスさんがおっちゃんを後ろから羽交い絞めにする。

それを見ていた奴隷たちがワイのワイのと集まってきた。

「ほら、フェリクスの、ちょっといいとこ見てみたい」

そのうちの一人が俺からグラッパの入った陶器製のコップを奪い、おっちゃんの口に近づける。

「飲ーめ」「飲ーめ」

そしてどこからともなく飲めコール。

「えぇい畜生!わかった!わかったよ!!飲めばいいんだろ飲めば!!!」

そう言うとコップを農場奴隷から奪い、一気にあおるおっちゃん。

「ぐっ……!?」

瞬間、おっちゃんの目がカッと見開かれる。

その直後にむせ返るような咳。

「……げほっ、ごほっ! な、なんだこれは……!火だ!喉に火がついたぞ!?」

「あはは! でも、悪い味じゃないでしょ?」

「……たしかに。……美味い、のか?鼻からブドウの芳醇な風味だけが抜けていくし、喉に甘さがまとわりつく感覚もないな」

フェリクスのおっちゃんは涙目で自分の喉をさすりながら口の中に残る余韻を確認している。

「美味いのか不味いのかはっきりしろよフェリクス」

容量を得ないおっちゃんの反応にツッコミを入れるマニウスさん。

ただの不味い酒というわけではないということで、気になりだしたらしい。

「今まで飲んだ酒と違いすぎてわからん……だが今まで飲んだ中で一番酒の力が強いぞこれは……そしてブドウの風味だけが残っていて甘さとか酸味とかがあり得ないほどに薄い」

「なんで搾りカスで作った酒がそんなことになってるんだ?」

「搾りカスで作ってはいるけど、その中のいいものだけ取り出してるから。その証拠にほら」

俺はそう言うと飲めコールのあたりでマニウスさんの奥さんに耳打ちして台所から持ってきてらったお湯で別途温めてたグラッパのコップを湯から取り出し、中のグラッパを近くの小皿に移してろうそくを近づける。

すると温められてアルコールが揮発しているグラッパはいとも簡単に火がつく。

「「なっ!?」」

ふわっと皿の上に上がる青白い炎に絶句するフェリクスのおっちゃんとマニウスさん。

「ほら、安ワインじゃないでしょ?」

「いやお前!ウチのワインは確かに高級だが、ファレルヌム・ワインみたいに火はつかないぞ!?」

「おいフェリクスさん!お前んところの坊主、何作った!?」

明らかに動揺しだすフェリクスのおっちゃんとマニウスさん。

農神祭(サトゥルナリア) のための演技がはがれている。

あれ?間違えたかな?

「まあいいじゃん」

段々めんどくさくなってきたので俺は別に用意した中くらいの ワイン壺(アンフォラ) に、この宴で農場のみなさんに提供するためのイチゴノキと 麦の蜜(水あめ) で作るホットカクテルと作りながらおざなりに流す。

今日できた4セクスタリウスのグラッパの内、今手元にある2セクスタリウスを全部使えば大体5~7%くらいのアルコール濃度のホットカクテルが12セクタリウスできる。

この農場にいる人は子供を除けば大体十数人なので、全員がこのホットワインでほろ酔いになるには十分な量だ。

なにせ都市の自由民の様に日常的に酒を飲める人たちでないので酒には基本弱いのだ。

……まあ初めて蒸留酒を飲むことになるので予想以上にべろべろになりそうな気もするが気にしない。

「王様!!ここに美味しい美味しいお酒があるよ!大人に振る舞えば夢中になって豚の取分が増えるかも!」

「採用!!!」

王様の英断により宴に新たな酒が加えられる。

そしてその酒はなぜかマニウスさんが真っ先に手を付けることになった。

ちなみにフェリクスのおっちゃんの様に強制ではなく前のめりでだ。

火が付く酒ということで醸造家としての興味が勝ったらしい。

フェリクスのおっちゃんの反応から最初はおっかなびっくりだった農場の人たちも、第二人柱のマニウスさんがホットカクテルを口にし、それを次の瞬間絶賛すると雪崩を打つかのように酒に群がってきた。

「う、うめえええええ!!」

「なんだこれ!安ワインの味じゃねえ、甘酸っぱいのにくどくなくてゴクゴクいけるぞ!?」

「すごいふわふわしてくるわ。何このお酒??」

「あれ?なんかこの酒――酔い回るの早くねえか?」

初めての蒸留酒、しかもホットカクテルを飲んだ農場の人々はすぐに酔っぱらい宴はカオスを極めた。

俺が出した酒の評判は最高。

そのせいもあって飲めや歌えの大騒ぎであるだ。

「ご 主人様(ルシウス) ! イチゴノキ(コルベッツォロ) を 麦の蜜(水あめ) で煮たソース、豚にかけてもおいしいわよ!ほら!あーん!」

「……ほんとだ、結構いける」

「でしょでしょ!次は何が欲しい??」

「えーと……――」

「アンフォラからのカスの掻き出し以外だと1人いれば十分だなあれ……もう寒ぃからカスも日持ちするだろうし……カスの1割……いや2割でこれが作れるか……?」

お嬢様の給仕を受けつつマニウスさんの方に耳を傾けてみると、マニウスさんは既に蒸留計画を練り始めているようだった。

蒸留酒を作るということはヘッドが出るということ。

3交代制等で蒸留を行うと考えれば多分3日くらいで欲しい量のヘッド――2セクスタリウス程度はたまるだろう。

蘭引きを圧搾期間中に貸し出す条件に3日に1回程度ヘッドを農場の使いの人に届けてもらうことにすれば3日後、工房開設の1週間半前には欲しい量の高純度アルコールが得られることになる。

とりあえずこれで高純度アルコールの大量確保は行けそうだな。ヨシ!

マニウスさんの下で酔いが回って転がっているフェリクスのおっちゃんを無視し、俺は旅の目的が達成される見込みになったことにガッツポーズをした。