軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 デートリテイク(後編)のち拉致目撃

ユーピテル(ジュピター) 神殿の前に広がる フォロ(広場) は気の早い商人たちのせいか、いつもより露店が多く広げられていた。

「ねぇねぇあっちの方は宝飾品系の露店があるよ!見てみようよ!」

ルシアに促されて広場を進むと、ガラス細工や 陶器の人形(シギラリア) を並べた露店が軒を連ねるエリアに。

近日始まるサトゥルナリア祭では、こうした小物を贈り物として交換し合う風習がある。

祭りの前なのにもかかわらず露店がいつもよりも多いのは、事前にプレゼントを購入したりする客も多いからだろう。

その中の1軒、キラキラと光るガラスの並ぶ台の前でルシアが足を止めた。

「わぁ……綺麗……」

彼女が食い入るように見つめていたのは青いガラス玉を繋げたブレスレットだった。

ポンペイはガラス産業も盛んだ。

透明度の高いものから、鮮やかな色付きのものまで多種多様にある。

しかしルシアはしばらくそれを眺めていたが、少し悩む仕草をしたのちに指先を引っ込めた。

「……行こう!ルシウス君」

「買わないの?」

「欲しいけど……さすがにちょっとガラスのブレスレットは手が出ないなぁ……」

とはいえ視線はまだ名残惜しそうにブレスレットにくぎ付けになっている。

そんな俺とルシアの様子をにやにやしながら見ている露天商のあんちゃん。

あ、これカモと思われ……いやこのあんちゃん最近見たことあるぞ……?

……思い出した!デキムスさんがリバーシの駒を大量発注してる工房の所の小間使いのあんちゃんじゃん。

こっちに気づいてはいないようだな。

この工房の親方とは駒の仕様を詰める時に話したことあるけど、このあんちゃんとは話してなかったから覚えられてないのか。

……ここはコスパ良くルシアの好感度を稼げるのでは?

そう思った俺は露天商のあんちゃんに耳打ちする。

「ねぇ、このブレスレットいくら?」

「祭りがちけぇからなぁ……6セステルティウスくらいだな」

俺の服装から裕福な成り上がり商人の息子と思ったのか、吹っ掛けてくる露天商のあんちゃん。

「手持ちは2セステルティウスしかないなぁ」

「帰んな」

「まあちょっと待ちなって」

先ほどのにやにや顔から一転塩対応になるあんちゃんを制止し、ルシアに聞こえないくらいの小声で耳打ちする。

「おたくの所の工房、今ほかの工房とリバーシの駒の製造で品質競い合ってるでしょ?」

「……なんのことだ?」

「俺の隣のあの子、おたくの工房に発注してるデキムスさんの娘だよ」

俺が言った情報は工房に発注しているデキムスさんかその関係者しか知らない情報だ。

適当なことを言っているとは思われないだろう。

「……!?……詳しく聞こうか」

案の定、食いついてきた。

「このブレスレット、いい腕してるよね。ほかの工房よりも細工の指定が多い利幅の高い駒、受注したくない?」

「……そりゃうち親方もそれを目指してるって言ってたが……話が見えねえんだが」

「このブレスレットを俺に4セステルティウスで売ったことにしたら、あの子、親父さんに自慢するだろうなぁ?作った工房の名前も言うだろうなぁ?そうしたら出来のいいブレスレットを見て、 割の良い仕事(高付加価値の発注) 、まわってくるんじゃないかなぁ?あんちゃんの功績で、工房に、いい仕事が」

「……!?」

あんちゃんの顔が電撃を受けたような表情になる。

それを逃がさず、俺は首から下げた袋から2セステルティウスを取り出し、あんちゃんに握らせる。

そしてルシアに聞こえる音量で声を出す。

「6セステルティウスかぁー!でも出来がいいからなぁー4セステルティウスだとどうかな!?」

「くー!坊ちゃん商売上手だね!確かに4セステルティウス受け取ったよ!まいどあり!今後も『アッキウス』のガラス工房を贔屓にしてくれよ!」

交渉に同意したあんちゃんも値切られたー!といった顔でオーバーリアクションをとり、俺にブレスレットを渡してくる。

店主からブレスレットを受け取り、呆気に取られているルシアの手を取る。

「……えっ、えっ?」

「ルシアがリバーシの共同発明者になってくれたおかげで俺への風当たり、ちょうどいい感じになってるから、それのお礼」

そう言ってルシアの細い手首に青いガラスの輪を通した。

「でもこれ、4セステルティウスって」

「ルシアが喜んでくれるなら安い安い(実際はその半額の2セステルティウスだしな)」

そんな俺の言葉を聞いた後、ルシアは陽の光にかざしてキラキラと輝く青い光を目を細めて見つめた。

「……ありがとう。一生、大事にする」

そして顔を少し赤らめ、はにかんだ声で言う。

――よし、好感度ゲットだ。

「さて、そろそろ腹も減ってきたな。昼飯にしようか」

「……うん!あ、お父ちゃんがよく行くタベルナに行こうよ。そこの煮込み料理は絶品なの!」

そうして俺たちは再び歩き出した。

話題はデキムスさんの仕事の話に移る。

「そういえば 麦の蜜(水あめ) 工房の設立準備は進んでるの?」

「あー……なんかリバーシの受注が忙しすぎてあんまり進んでないみたい……年明けになるかもって言ってた」

「結構遅れるなぁ……」

原因は俺なのであまり強く言えないけど、多分遅れている理由の半分くらいは資金繰り由来だろう。

多分これ、工房設立資金の大半をリバーシの製造費に突っ込んでるぞ。

それだけ(資金流用) ならよくあることだけど、それに加えて 麦の蜜(水あめ) 工房の設立が遅れてるのに羽振りの良いところが債権者見られたら、ちょっとやばくないか?

せめてリバーシの顧客の前以外で羽振りの良さを隠すとか、リバーシの受注を担保に普通の金貸しから追加の借金をするとか、 麦の蜜(水あめ) 工房の物件だけでも先に確保して進捗を見せるとか、そういうトラブルにならない手を全然打ってなさそうだぞ。

そんなことを思いながらルシアに手を引かれて大通りを歩く。

目的の タベルナ(食堂) は、 広場(フォロ) の奥、フォルトゥーナ通りにあった。

昼時ということもあり、店からは食欲をそそるスパイスと煮込みの香りが漂い、活気に満ちている。

「ここだよ! 入ろ……あ!」

店の入口に手をかけた瞬間、ルシアが何かを見つけたようだ。

俺も同時に動きを止めた。

視線の先には反対側のイマーニャ通りにデキムスさん……が数人の男たち囲まれている姿。

その中心にいるのは身なりの良い、神経質そうな顔をした中年男性。

上質なトガをまとい、指には高価そうな指輪がいくつも光っている。

「あ、スプリウスさんもいる」

「だれ?」

「 麦の蜜(水あめ) を初めて買ってくれたパン屋の親方さん」

「それなら囲んでいる男たちはパン屋の親方連中?」

とするとその中心にいる男はそのパン屋業界に影響力のある人か?

「そう言われてみれば、中心の人以外、どの人も見たことあるような」

どうやらルシアも見覚えがあるらしい。

そんな考察をしていると、中心の男の首を引き、デキムスさんが両脇を抱えられて前の前のテルマエに連行されていった。

「……お父ちゃ――んむっ!?」

ルシアが叫びそうになるのを、俺は慌てて手で制し、近くの店に彼女を引き込む。

「ちょっとルシウス君!?」

「抵抗せずに連行されて行ってるから、デキムスさんが後ろめたい案件な気がする。ちょっと一旦整理しよう」

抗議の声を上げるルシアに俺は状況の整理をする。

「う、うん」

その言葉にルシアも落ち着いたようで俺の言葉を待つ。

「じゃあ整理するよ?」

そう言って俺は今の状況を整理した。

・デキムスさんは抵抗する様子もなくむしろ悪行がバレた悪役のような表情で大人しく連行されて行った。

・連行されていくとき、ルシア同様デキムスさんも結構いい身なりをしていた。

・デキムスさんを連行している人たちは推定パン屋の親方衆。

・その中心人物は、身なりからそれなりに成功した人のよようだ。

「……これ工房設立が遅れるって情報がどっかで漏れて、パン屋連中がキレたんじゃない?」

「うっ……そ、そうかも」

俺の予測にルシアもうなづく。

とするとちょっと状況は悪い。

多分デキムスさんは具体的にいつ工房設立ができるのかを聞かれ、資金をリバーシに回してしまった事がバレるのは必至。

当然キレるよなパン屋の親方たち。

工房設立のために金貸したんだから。

そう考えるとあの中心にいる人は多分 麦の蜜(水あめ) 工房の件を嗅ぎつけて一枚かもうとしてる人だな。

あわよくば事業そのものを乗っ取ろうとしている危険性もある。

まだ工房設立が本格化していないからレシピは俺の手元にあるわけで、実際に乗っ取り無理とはいえ、諍いが大きくなれば工房の設立が遅れる。

そうするとデキムスさんを商人として急成長させるプランに黄色信号が 灯(とも) るわけだ。

それは俺としては到底容認できない。

かと言って俺があの中に乱入しても、あの場においては特に発言力はないので意味がない……。

……うん、俺だけだと駄目だな。

フェリクスのおっちゃんを召喚しよう。

俺は自力での事態収拾をあきらめ、ケツ持ちであるフェリクスのおっちゃんを召喚する決断をする。

リバーシの権利(俺の権利分)の分配を少し 我が家(ルクレティウス家) 有利にする等の改定条件に協力すると言えばすぐに駆け付けてくれるだろう。

「ルシア!ちょっとフェリクスのおっちゃん呼んでくるからフォロ浴場の前で見張ってて」

「わかった!」

ルシアの返事を聞いて、俺はルクレティウス邸に走り出した。