軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終わり良ければすべてよし?【後】

ニーナは晴れ晴れとした顔つきで、私の前にやってくる。

「アレンディオお義兄様に感謝しなきゃね。お姉様も本当にありがとう」

「私はいいから、アレンに会ったらきちんとお礼を言ってね」

ニーナは普段はドレスに興味がないと言っても、仕上がりを見たら満足げにしていた。それを見ると、私はホッする。

「王都の男の人は軽いっていうけれど、本当かしら?騙されたらどうしよう」

ニーナがそんな心配をし出した。

これは昨日、ヘルトさんがニーナに注意を促したからだろうな。

デビューしてまもないとわかる純白のドレスは、多少の無礼があっても許される分、まだ慣れていないと目をつけられて弄ばれることもあるらしい。女好きの軽い男には気をつけて、とヘルトさんが念押ししていた。

「大丈夫だよ、ニーナ姉。将軍の妹を騙したりしたら、絶対に斬り殺されるでしょ?むしろ、誰も声かけて来ないかもよ」

「え、それは困るわ!一度くらい王子様みたいな人と踊ってみたい」

「王子様みたいな人は、王子様じゃないからタチが悪いってサミュエルさんが言っていたよ?顔だけの甘え上手が多いって」

借金取りの意見は辛辣だった。

確かに、女の人を騙してお金を巻き上げる詐欺師は顔がきれいな人が多いからなぁ。

ニーナはエリオットにまで注意を促され、あははと明るく笑った。

「アレンディオお義兄様のお顔を何日も見ていたら、もう誰が来ても普通に見えちゃうわ~。少々の顔のいい男には騙されないわよ」

「それもそうか」

「そうよ。だいたい貧乏子爵家の娘を誑かしてどうするの?将軍の妻はお姉様で、私はただの貧乏娘よ」

「貧乏でよかったね~、ニーナ姉」

「本当よね~」

こら、親の前で貧乏貧乏って言うのやめて!?

お父様がしゅんって小さくなっているじゃない!お母様はうふふって笑っているけれど!

大丈夫かしら、こんな調子で。

ニーナは運動神経がいいからダンスは私よりうまいし、お嬢様育ちの母のおかげで礼儀作法は一応完璧だし……あとは食欲を抑えられるかだった。

「ニーナ。お願いだから食べ染みは気を付けてね?目立つから、白は」

「わかったわ。お肉系だけ制覇したら、後はおとなしくしておく」

そのお肉系が危険なのよ、ニーナ。

そもそも今日は、王妃様が直々にお声かけくださるという、用意周到なヤラセがあるのだ。心してかからねば。

――コンコン。

そろそろ時間かと思っていたら、お迎えがやってくる。

「皆様、お揃いですね」

「ルードさん、今日はよろしくお願いします」

黒い正装姿のルードさんは、私のエスコート役であり護衛だ。

アレンがそばにいられないため、急遽ルードさんが抜擢された。

ジャックスさんも貴族令息ではあるが、礼儀作法に疎いので会場には入らず、馬車の護衛を務めると言っていた。

ユンさんは今日、休暇を取っている。

なぜなら色々あったからだ。そこはもう、ルードさんがいつもより目が死んでいるのを見ると「あぁ……」と納得するしかない。

ついに籠城戦は終了したんだ、と私は悟った。

「では、まいりましょう。奥様」

「ええ」

彼の左腕にそっと手を添え、青紫色のドレスの裾を静かに握る。

キラキラと輝く生地は、アルノーのお姉さんのドレスサロンでしか手に入らない一級品だ。「宣伝して!」というわけで、ニーナのデビュー衣装と共に私のこのドレスも作られた。

「とてもお美しいです。アレン様が心配なさるでしょうね」

「ありがとうございます。お上手ですね」

「本心ですよ。お幸せそうで、お美しさに磨きがかかったと思っていましたから」

お世辞だとわかっていても、面と向かって褒められるのは照れくさい。

小さな声で「ありがとうございます」とだけ言っておく。

「アレン様とは、仲睦まじい様子で安心いたしました。あとは結婚式だけですね」

ルードさんにそう言われ、私はなぜかローズ様のことが頭をよぎる。

そして、私が一瞬だけ表情を曇らせたことを目敏く察した有能補佐官様は、そのまま流してはくれなかった。

「何か心配ごとでも?」

「あ……」

すぐに否定しなかったことで、心配ごとがあると肯定したも同然。

けれど、不確かなことを口にするのは躊躇われた。

「奥様、何か気になることがございましたら、私を使ってください。内容によっては、アレン様にも内密にいたしますよ」

誘惑がすごい。

「アレン様は奥様を想いすぎて、周りが見えていないことが多々ありますから……。たとえば、王妹殿下のこととか」

「!?」

私は思わず息を呑む。

そして、何も悪いことはしていないのに胸がドキドキとし始めた。

ルードさんは笑みを保ったまま、私が口を開くのを待ってくれている。

ただ廊下を歩いているだけなのに、沈黙がとにかく長く感じた。

私は観念して、犯罪を自白するように話す。

「ローズ様が、アレンにどのようなお気持ちを向けているのかがわからなくて。ただ信頼を寄せてくださっているだけなのか、それとも……」

恋をしているのか。

ルードさんは私を安心させるように、明るい声で答える。

「見ている限りでは、懐いているという印象ですね。恋愛感情ではないように思います」

「そうですか」

「はい。まだ」

「まだ!?」

それって、これから好きになる可能性があるってこと?

「あぁ、可能性の問題ですよ?アレン様はご存知の通りモテますからね。長くそばにいれば好きになる可能性は、どの女性にだってあるでしょう。ただ、そうなる前に他のお相手にローズ様の目が向くようにすればいいのです。陛下も今、婚約者候補を探していますから、しばらくすると年頃が近い貴族令息と引き合わせることになるでしょう」

ルードさんは裏事情に詳しかった。

ホッとする私をみて、彼は苦笑いになる。

「アレン様はこういうことに疎いですから。はっきり申しますと、奥様以外はどうでもいいと興味すらありません。なので、例え王妹様からお心を寄せられたとしても、躊躇なくお断りするのでご心配はいりません」

さすがに王妹様とのことは、断れないのでは……。

そんなことにならないと願うばかりだった。

「奥様の幸せは、特務隊がお守りします。でないと大惨事になりますから」

「大惨事?」

「はい。ですから、奥様はお幸せなままでいてください」

「……」

よくわからないけれど、皆が守ろうとしてくれていることは伝わってきた。

「ありがとうございます」

気持ちに余裕ができた私は、ヘルトさんたちに笑顔でいってきますと告げ、ルードさんに支えられ馬車に乗り込む。

「ふふっ、私も確かに幸せですが、ユンさんには負けると思いますよ?」

ルードさんは困ったように笑った。

「色々と、お世話をおかけしたようで……申し訳ございません」

「いえ、そんなことは」

私はただ、話を聞いて楽しんでいただけ。何も手伝っていない。そもそも手伝う隙がない。

「ユンさんのこと、幸せにしてあげてくださいね」

にっこり笑ってそう言うと、ルードさんはいつも通り温和な笑顔になった。

「まぁ、これに懲りてしばらくおとなしくなさるでしょう」

「それは一体どういう」

うまくいったんじゃないの?

「あはははは」

「?」

何かしら、このいかにも表面的な微笑みは。

ユンさんは、どうなったんだろう。

このまま結婚するんじゃないのかな?

首を傾げて悩んでいると、ルードさんは笑顔の裏に仄暗さを醸し出しつつ言った。

「一つ申し上げますと、男の欲を甘く見ると大変な目に遭うということです。こちらとしても、それ相応の覚悟で応対させていただいたというだけのことですよ」

怖い。

何この人、怖すぎる。目が全然笑っていませんけれど!?

「えーっと、具体的に何があったか尋ねても?」

「アレン様に叱られます。とても奥様にお話できるような内容ではありません」

「そうですか」

「はい、そうなんです」

「結婚はなさるんですか?」

これだけは聞いておきたい。

真剣に尋ねると、ルードさんは「ええ、もちろんです」と答えた。

「それはそれは、責任を取らなければいけないことを散々いたしましたので」

「…………」

つまり、夜這いに行ったけれど思っていた以上の成果というか返り討ちみたいな感じにあったという解釈でいいのかな!?

いや、もう何も聞くまい。考えまい。

とにかく二人が結婚するのはいいことだ。…………多分。

「あの、そもそもなぜこんなことになるまでユンさんとの再婚約を拒んでいたんです?」

一度は恋愛感情を抱いて婚約までしたんだし、気持ちがあるなら2度目もって思っていたのだ。

それに何より、穏やかな笑顔の美男子と、凛々しい女帝のようなユンさんはお似合いだと思う。

ルードさんは苦笑いを浮かべつつも、しっかりと答えてくれた。

「私が婚約を解消したのは、ユンさんと結婚して平穏な日々を過ごすよりも、アレン様が将軍に就いて軍を率いるところを間近で見て支えたいと思ったからです。ユンさんには、安全なところで、彼女を一番に想ってくれる男と結婚してもらいたいと思いました。私は補佐官である以上、アレン様を一番に守ることを考えます。それこそ、妻子よりも」

「妻子よりも……」

それほどまでに固い決意を持っているなんて、と私は驚く。

「昨夜それについてもきちんと告げました。『敵が目の前に現れたとき、私はあなたよりもアレン様の利を優先します』と」

ルードさんは、そういう性分なのですと控えめに笑った。

「それで、ユンさんは?」

「唖然としておられました。そして『え、そんなしょうもないことでこれまで悩んでいたのですか?』と」

「しょうもないこと!?」

「ユンさんは、守ってほしいなんて思わないと……。『敵が目の前に現れたなら、 ルード様(あなた) を踏み台にしてでも敵を 屠(ほふ) り、武功は私がいただきます』とのことです」

ユンさんは強かった。

「そして極めつけは、『私があなたのものになるのではありません。あなたが私のものになるのです。ですから、そのような心配はご無用です』と。そこまで言われたらもう観念するしかないですよね~。ただし主導権を完全に手渡すのもシャクなので、その後はもう好き勝手させていただきました」

あははと笑うルードさんは、疲労を滲ませつつもすっきりした印象だった。

「えーっと、これでよかったんですよね?」

「はい、おそらくは」

「どうかお幸せに」

「ありがとうございます」

私たちは馬車に乗り込み、差し障りのない世間話をして会場へと向かった。